何屋さんなのかよくわからないけど、行けばなんだか楽しいものが見つかる。そんな怪しげな雰囲気が魅力の小売店「ヴィレッジヴァンガード」(以下、ヴィレヴァン)。おそらく、だれもが一度は訪れたことがあるのではないでしょうか。
「遊べる本屋」をコンセプトに、サブカルチャー文化を盛り上げてきたヴィレヴァンですが、ここ数年で店舗数は激減。2024年5月期の決算では約11億円の赤字となり、業績不振が続いています。一時期はサブカルの聖地とも呼ばれ、全国に約400店舗を展開していたヴィレヴァンが、なぜ今苦境に立たされているのでしょうか。
SNSやネットのニュース記事などでは「大手ショッピングモールへの出店でヴィレヴァンらしさが失われファンが離れた」といった分析がされていますが、あるヴィレヴァンの熱烈なファンは、それに反論の声を上げました。
全国に300以上ある、ヴィレヴァンの店舗。それらを全店まわることを目標に各店舗を訪れ詳細をレビューしているヴィレヴァンファン、「ヴィレヴァン全店まわるひと【非公式】」(@village_vanvan)さんに、お話を聞きました。
◆ヴィレヴァン愛から株主総会にも参加する熱烈ファン
――ヴィレヴァン全店まわるひと【非公式】さんは、全国のヴィレヴァンをまわられているんですか?
ヴィレヴァン全店まわるひと【非公式】さん(以下、ヴィレ全)「全国の店舗をまわり、おもしろい店舗や楽しい商品をSNSで紹介しています。ヴィレヴァンファンです。先日は北海道のヴィレヴァンに行ってきました。
店舗をまわる中で社員さんやアルバイトさん、エリアマネージャーさん、ブロックマネージャーさんとお話しする機会もあります。とてもありがたいですね。株主総会に参加して、気になったことを質問させていただくこともあります」
――株主総会にも出ているとは! 熱狂的なヴィレヴァンファンですね!
ヴィレ全「僕は地方出身なのですが、学生のときにヴィレヴァンと出会って人生が変わりました。情報が少ない田舎で鬱屈(うっくつ)としていたのですが、ヴィレヴァンに行けば、必ず新しい発見やワクワクが見つかりました。僕の世界を広げてくれる、最高の居場所だったんです。大好きなお店ですし、今も感謝の気持ちでいっぱいです。
ただ、僕の考えはあくまで全国をまわり、関係者の方とお話しする中で感じたことですので、その点はご理解いただければと思います」
◆経営不振の理由、ヴィレヴァンのファンはどう捉える?
――全国の店舗をまわったうえで、なぜヴィレヴァンは経営不振に苦しんでいると思いますか?
ヴィレ全「SNSやネットニュースでいろんな記事が出ていますが、コロナが大きなきっかけだと思っています。コロナで売り上げが落ちたまま、回復できずに赤字を引きずり続けています。
ヴィレヴァンはユニークな商品を各店舗が独自の裁量で仕入れていて、それが『なんで、こんなもの置いてあるの?』というヴィレヴァンらしさに繋がっていました。店員さんの個性や趣味が、それぞれの店舗の雰囲気を作っていたんです。でも、コロナ禍以降はお店に並んでいるものが、どの店舗も同じになってしまいました。僕自身も、『昔は店舗によって置いてある商品が違ったのに……』と感じていました。
それで、株主総会で白川篤典社長に質問させていただいたんです」
――なんと! 社長に直接質問されたんですね。
ヴィレ全「はい。白川社長からは、コロナでお店に来られるお客様が減り、確実に売れる商品を仕入れようという方針に変わった、との説明がありました。在庫を抱えないために、確実に売れる商品を、本部が一括して仕入れていたようです。『最近のヴィレヴァンは、昔と違っておもしろくなくなった』と言われる背景には、そうした理由があります。
現在は、本部がすべての商品を仕入れているわけではないようですが、本部主導の仕入れがヴィレヴァンらしさの喪失に関係していると思います。このイメージが拭えなかったことも、コロナ禍の赤字から回復できなかった要因になっているのではないでしょうか」
◆店員に個性があっても、それを発揮する場所がない
――社員にヴィレヴァンらしさの教育ができていなかったことも要因の一つだと言われています。店員さんの個性やオリジナリティにも変化が見られるのでしょうか?
ヴィレ全「全国のヴィレヴァンをまわっていると、社員や店員さんはサブカルの知識をもっている方が多いと感じます。譲れない趣味や、個性的なものが大好きな店員さんもたくさんいます。でも今の時代、店員さんの『趣味・嗜好』だけで商品を仕入れて、本当に売れるかという問題があります。
昔のように業績が良くて会社に余裕があれば、仕入れも自由にできたと思います。その結果、『なんで、こんな商品置いてあるの?』『これ、だれが買うの?』と笑えるコアな商品がたくさんお店に並べられていました。でも今は、その余裕がなくなってしまい、店員さんの個性が出しにくくなっていると思います。個性があっても、それを発揮する場所がない。仕組み的な問題も大きいと思います」
◆“ヴィレヴァンの魔法”がかかりにくくなった背景
――個性があっても発揮する場所がないのは辛いですね……。
ヴィレ全「昔は、店員さん一人一人がとんでもない趣味や知識を持っていて、その方の権限で商品を仕入れていました。仕入れた商品の魅力を余すことなく伝えたくて、店員さんが自分のプライベートの時間を使って、さらに知識を磨いたり、趣味の延長でポップを描いていたんです。基本的に店員さん個人の『好き』という気持ちで、店舗の個性が成立していました。それをだれかが教えるのは少し違うかな、という気がします。好きでやっていることですからね。
あとは、昔のヴィレヴァンの雰囲気をよく知っている、ベテランの社員や店員さんたちが退職されてしまった、というのも大きいと思います。人手不足や労働環境の変化などもあると思うのですが、結果的におもしろい店員さんが少なくなってしまったのは大きな痛手ですね」
――ヴィレヴァンらしさを作っていた世代の方が減ってしまったのですね。
ヴィレ全「あとは、ヴィレヴァンという特殊な空間の魔法がかかりにくくなった時代背景もありますね。創業者の菊地敬一さんが、自分の好きなものを集めてできたお店がヴィレヴァンです。ヴィレヴァンのあの独特な空間に入ると『こんなのだれが買うんだろう?』という商品も、ワクワクや期待でつい買ってしまいますよね。変な商品や割高な商品でも、買ってしまう魔法の空間だったと思います。
でも、今はインターネットでどんなものでも買えますし、値段もすぐに調べられます。その結果、相場はよくわからないけど、ヴィレヴァンに来たらとりあえず買っちゃう、という空間の魔法が解けてしまったのかもしれません」
◆大型ショッピングモールのヴィレヴァンは「個性がない」?
――他にも、大型ショッピングモールへの出店が進んだことで、独自のおもしろさがなくなり、売り上げが減ったという意見も多く見られました。
ヴィレ全「ヴィレヴァンがイオンなどの大型ショッピングモールに進出したことは、マーケティング戦略として間違っていないと思います。集客力の高いイオンに出店することで来店客数が増え、その分売り上げも上がります。実際、現在のヴィレヴァンの売り上げの大半は大型ショッピングモール店舗からのものです。利益率も良いようですね。
逆に、個性を重視して路面店ばかり増やしていたら、業績不振はもっと深刻になっていたと思います。路面店のヴィレヴァンに親しんできた40代、50代の方には、大型ショッピングモールの店舗は『らしくない』と感じるかもしれません。でも、それはあくまで心象であって、売り上げとは別の問題かなと思います」
――集客力の高い場所で、売れるものを確実に売っているということですね。
ヴィレ全「みなさん『大型ショッピングモールに入っているヴィレヴァンはつまらない』とおっしゃいますが、『本当にそうかな?』と思います。『ちゃんと見てる?』と逆に問いたいですね。
全国の大型ショッピングモールの中にも、個性的な店舗はたくさんあります。例えば、四国にある『ゆめタウン高松』内のヴィレヴァン は、とにかくファンシーで『かわいい』に全振りした個性的な店舗です。全国のショッピングモールをまわってそれぞれの店舗を見ていると、一括りに『大型ショッピングモールのヴィレヴァンは個性がない』とは言えないですね。見ているだけで楽しい、ヴィレヴァンらしい店舗もまだまだたくさんあります」
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コロナ禍で、ヴィレヴァンらしさは薄れてしまったと思っていましたが、全国には独自路線を貫く店舗がたくさんあるようです。それは、ショッピングモールの中であっても。令和ならではのヴィレヴァンの魅力を、もっと知りたくなりました。
【ヴィレヴァン全店まわるひと【非公式】】
全国に300店舗以上あるヴィレッジヴァンガードを北は北海道、南は沖縄・宮古島まで全店訪問を目指して全国をまわり中。Xにて、訪れた全ての店舗の記録を掲載。X:@village_vanvan
<取材・文/瀧戸詠未>
【瀧戸詠未】
大手教育系会社、出版社勤務を経てフリーランスライターに。教育系・エンタメ系の記事を中心に取材記事を執筆。X:@YlujuzJvzsLUwkB