2024年11月08日 06:21 ITmedia ビジネスオンライン
現在、世界の紛争で欠かせなくなっている「武器」がある。ドローン(無人航空機)である。
筆者は以前、アフガニスタンなどでドローンを使った米CIA(中央情報局)のテロリスト掃討作戦を取材した。それをきっかけに、2015年ごろから実際に米軍の無人機「リーパー」のプラスチックモデルを購入してその能力を研究したことがあるくらい、ドローンには注目してきた。
2022年2月に始まったロシアによるウクライナ侵攻以降も、現場ではドローンが大量に投入されており、紛争において重要なテクノロジーとなっていることを世界に見せつけている。
現在、東アジアで警戒心が高まっている台湾有事でも、おそらくドローンが重要な役割を果たすと多くの防衛関係者は見ている。
実は台湾でも、自国の有事を想定してドローンを活用する戦略が取られており、高性能ドローンを自前で調達するために動いている。
そしてその戦略を支えるのが、台湾・台中市が拠点のおもちゃメーカーなのだ。
現代では、民間と軍事で利用できるデュアルユースの技術が注目されているが、台湾でもドローンがそうした技術の一つとなっている。世界が不安定化する中で、テクノロジーの進化が国力と軍事力に直結する時代に、これからさらに民間技術に対する軍事部門からの需要が高まると分析されている。
●有事に備え、おもちゃメーカーがドローンを製造
台湾政府と一緒にドローンの開発に乗り出しているおもちゃメーカーは、ラジコン好きにはよく知られる「Thunder Tiger(雷虎科技=サンダータイガー)」だ。
もともとサンダータイガーは、レジャーや商業用の無線操縦模型の製造・販売でよく知られてきた。1979年に設立され、40年以上にわたりヘリコプターや飛行機、マルチコプターなど、無線操縦模型業界の第一線で活躍。
2015年には、ドローン部門「TTRobotix」を発足させ、地上、空中、海洋の無人機の開発に力を入れ始めた。最近でもおもちゃとして、ドローンだけでなく、バイク型の無線操縦模型や、自分で組み立てるロボットなどを販売している。
台湾政府は、ウクライナでの紛争にドローンが効果的に使われているというリポートなどを検証。2022年のロシアによる侵攻が始まると間もなく、2024年半ばまでに3000機以上のドローンを調達すると決定した。そしてその製造を担うことになったのが、サンダータイガーだった。
サンダータイガーは、空中だけでなく、水中ドローンなど海の無人機(自律型潜水機)も開発しており、台湾は空海の両面で戦争に備えている。ドローンにはAIを搭載。ウクライナでの実践利用例などを参考にしながら開発を進め、敵の装甲車などを攻撃する爆発物も搭載できる軍事仕様になっている。
●部品も全て「台湾製」
サンダータイガーのドローン製品のもう一つの特徴は、完全に台湾製であり、中国製の部品を一つも使っていないことだ。中国が販売する部品は「レッド・コンポーネント(部品)」などと呼ばれており、サンダータイガーはそんなレッド部品を完全に排除している。
言うまでもないが、台湾は近年、中国との有事を見据えて厳戒態勢を敷いている。通信関連製品でレッド部品などを使うと、有事の際に中国側がリモートコントロールで不具合を生じさせるかもしれないし、部品の調達などでスパイ工作が入り、台湾側の手の内が把握されてしまう可能性もある。
さらに台湾は米国政府とも協議しており、自爆型ドローンを大量に米国から調達することになっている。国産のサンダータイガーのみならず、価値観を共有する米国などからもドローンを入手する。
台湾国防省は、10月に入り、サンダータイガーのドローンの試験導入を急ピッチで進めている。というのも、台湾政府にはゆっくりしていられない理由がある。台湾周辺で中国による挑発的な演習などが行われているからだ。2023年8月には、中国軍のドローンが台湾を取り囲むように飛来したり、台湾の北東部空域などにドローンが侵入したりするケースもあった。台湾の離島である金門島でも、中国からドローンが飛来して、ビラをばらまいていくという事件も起きている。
●ドローンによる「紛争」は始まっている
米テック誌「MITテクノロジーレビュー」は、このように指摘している。「シンクタンクの新米国安全保障センター(CNAS)による新たな戦争シミュレーション実験によると、台湾と中国の間で将来起こり得る紛争は、先進的な水中ドローンや、高度な自律テクノロジーを駆使したドローン戦が中心になる可能性がある」と。
最近の動きを見ていると、中国はすでにそのドローンによる「紛争」を開始していると言っていいだろう。
中国の人民解放軍は、50種類以上の多彩なドローンを所有しており、有事の際には確実に戦力として動員する。ちなみに米国は1万機以上の大小のドローンを導入し、「世界最大かつ最も洗練されたドローン軍」を所有しているとされる。日本も、2025年度予算で攻撃型ドローンの購入費などで1000億円以上を概算要求している。
世界の民間ドローンのシェアを見ると、DJIなどの中国メーカーが支配しているのが分かる。一方で、日本や欧米などの国々では、こうした中国製のドローンのみならず、レッド部品を含む機器を使うことへの懸念がどんどん高まっている。国防費が急増している日本でも、防衛産業などでレッド部品を使わないようにしていかないと、防衛体制が不十分になる可能性があるが、実際はその意識がまだ不足している。ビジネスとしてみれば、ドローンも部品も、安く調達するのが正しい判断だからだ。
だがその意識は、防衛や安全保障では通らないこともある。日本は台湾を見習って、国の支援などによって、防衛産業に少しでも関わる民間企業に自覚を持ってもらうように働きかける必要があるだろう。さもないと、次世代の日本を守れなくなる可能性がある。
(山田敏弘)