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米国の女子高校生2人「ピタゴラスの定理」を新証明 しかも5通り 査読済みで権威ある学術誌に登場

2024年10月31日 08:31  ITmedia NEWS

ITmedia NEWS

ネキヤ・ジャクソンさん(右)とカルセア・ジョンソンさん(左)(米ミシガン工科大学の公式Webサイトから引用)

 2023年、米国の高校生ネキヤ・ジャクソンさんとカルセア・ジョンソンさんは、地元の高校のコンテストで驚くべき成果を披露した。それは、三角関数を用いてピタゴラスの定理を証明するという方法の発見であった。


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 「a^2+b^2=c^2」で表されるピタゴラスの定理は、よく知られている数学の基本定理である。この式は、直角三角形において、最も長い辺(斜辺)の2乗が、残りの二辺の2乗の和に等しいことを示している。


 これまで数多くの数学者たちが代数学や幾何学を用いてこの定理を証明してきたが、三角関数による証明はより難しかった。三角関数の基本公式自体がピタゴラスの定理を前提としているため、循環論法に陥ってしまうためだ。


 しかし彼女たちは、循環論法を回避した三角関数を用いた全く新しいアプローチで5つの証明方法を見いだすことに成功した。23年3月、米ジョージア州アトランタで開催された米国数学会の地域会議で研究成果を発表し、その後、厳密な査読プロセスを経て、1894年に創刊した数学雑誌「The American Mathematical Monthly」2024年11月号に、論文「Five or Ten New Proofs of the Pythagorean Theorem」として掲載されることとなった。


 この論文で彼女たちは、三角関数を用いた5つの新しい証明方法を提示。これらの証明方法の特徴は、与えられた直角三角形から新しい直角三角形を作り出すというアプローチにある。


 具体的には、元の三角形の3つの角度(α、β、90度)の整数倍の組み合わせで新しい三角形を構成する手法を用いた。この方法により、二等辺直角三角形以外の場合について、2αとβ-αを鋭角とする直角三角形をさまざまな方法で作り出すことができ、それぞれの方法が新しい証明につながることを示した。


 論文では、高校生が三角関数を学ぶ際に感じる混乱や不安の原因についても言及している。それは、同じ三角関数の用語に対して2つの異なる定義方法が存在することである。教科書などではこの2つの方法を下図のように調和させて説明しているが、この図がかえって理解を妨げている可能性がある。


 なぜなら、学生たちは同じ用語の上に2つの競合する三角法の概念が重ね押しされていることに気付かないからだ。これは、2つの異なる画像が重ね刷りされた絵を理解しようとするようなものである。


 この混乱を避けるための最も合理的な方法は、それぞれの手法の背後にある異なる考え方を反映させて、異なる名称を与えることである。実は、これらの方法のうち本当の意味で「三角法的」なのは1つだけであり、この本来の方法に焦点を当てる(誤って名付けられた方法を無視する)ことで、ピタゴラスの定理の新しい証明方法を数多く見いだせるのである。


 現在、彼女たちは、それぞれの道を歩んでいる。ジャクソンさんは米ザビエル大学ルイジアナ校で薬学博士号の取得を目指している。ジョンソンさんは米ルイジアナ州立大学のRoger Hadfield Ogden Honors Collegeで環境工学を専攻している。


 Source and Image Credits: Jackson, N., & Johnson, C.(2024). Five or Ten New Proofs of the Pythagorean Theorem. The American Mathematical Monthly, 131(9), 739-752. https://doi.org/10.1080/00029890.2024.2370240


 ※Innovative Tech:このコーナーでは、2014年から先端テクノロジーの研究を論文単位で記事にしているWebメディア「Seamless」(シームレス)を主宰する山下裕毅氏が執筆。新規性の高い科学論文を山下氏がピックアップし、解説する。X: @shiropen2