2024年10月28日 14:31 弁護士ドットコム
広島県広島市の安佐南(あさみなみ)警察署に勤務する1人の巡査部長が制作した約1分の動画が話題になっている。
【関連記事:■「何で全部食べちゃうの!?」家族の分の料理を独り占め 「食い尽くし系」の実態】
動画はSNS型詐欺の防止を呼びかける内容だが、ぎこちない様子で踊る警察官のダンスにピンクやイエローの派手な光が合成されており、ネット上では「妙にクセになる」などの書き込みが相次いでいる。
制作したのは、安佐南署の巡査部長、鑑原和葉(かんばら・かずは)さん(42)。特殊詐欺の防止などに取り組む生活安全課に勤務しており、日ごろから学生や働く社会人に対する効果的な広報に難しさを感じていたという。
特にSNSを通して関係を深め金銭をだまし取る「SNS型詐欺」は、本人にスマホ1台あれば家族などの身近な人が全く気がつかないうちに被害に遭う恐れがあるため、事前に手口を知ってもらうことが最大の対策になる。
問題は警察の注意喚起をいかに市民に届けるかだった。
そこで鑑原さんは今年8月、啓発動画をSNSで発信してはどうかと思い立った。まず詐欺師がよく使う勧誘文句などを散りばめた歌詞を地元の保育園児に歌ってもらい、署の警察官が踊るダンスの映像に合わせることにした。
だが、警察官のダンスを警察署の周辺4カ所で撮影したものの、後で映像を確認するとピントが大きく外れているものを発見。撮り直す時間がなかったため、合成の加工をすることに。
すると今度は、動画全体のバランスが悪いと感じ、別のシーンに虹色の加工を入れるなどしているうちにできあがった。
「最後まで見てもらうためにあきないような内容にしたかった」と振り返る鑑原さん。ダンスは「練習しなくてもすぐに踊れるものを」と、ディスコダンスの振付を参考にしたという。
私有のパソコンとスマートフォンで編集をし、約2カ月で完成させた。制作途中からは「動画を作るのに必死で、ヒットするかしないかとかは考えていなかった」と笑う。
動画は広島県警の公式Xで10月18日に投稿され、約10日間ですでに1110万回以上表示され、リポストは4万7000回以上にのぼる。YouTubeでも30万回近く再生されている。
さらに、動画を知った他県の自治体から「うちの広報でも使わせてほしい」「市役所で映像を流していいか?」などの問い合わせが入っているといい、鑑原さんは「批判も少なく、素直に動画が広まってよかった。警察がこうした動画を作ったというギャップが結果的によかったのかもしれません」と話す。
効果的な広報活動に貢献したとして、広島県警の本部長賞を授与されたという。
「SNS型詐欺で相手が心の中に入り込んでくると、なかなか外部の人が止めることは難しいです。『もしかしたら』と思うだけで被害に遭わない可能性があります」
巧妙な手口による詐欺を防ぐ難しさをそう説明する鑑原さん。「また動画配信を企画してみたい」と次なる制作に意欲を燃やしている。