2024年10月27日 08:31 弁護士ドットコム
フィリピン人のマリアさん(仮名・56歳)と日本人の修三さん(仮名・69歳)の二人は、結婚して13年以上になる。だが、いまだにマリアさんは在留資格が出ず、仮放免の状態が続いている。
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修三さんは凄惨な事故が原因で身体に障害が残り、車いす生活を余儀なくされているが、二人は互いを支え合いながら、日々、ささやかな生活を送っている。(ライター・織田朝日)
マリアさんは、まだフィリピンで暮らしていたころ、別の日本人男性と出会って結婚することになった。
男性から「婚姻は入国してからでいい」と言われたこともあり、手続きのことは何もわからないまま、すべて任せていたという。
2004年に来日したが、数年後、男性の無責任な人柄が原因で、離婚することになった。その結果、マリアさんは在留資格を失ってしまった。
その後、マリアさんは、共通の友人の紹介で群馬県在住の修三さんと出会い、互いに惹かれ合い、すぐ交際に発展した。
修三さんにはすでに三人の子どもがいたが、マリアさんと打ち解けて仲もいい。その後にできた孫たちも実の祖母のように彼女を慕っている。
二人は結婚してからもケンカすることはなく、仲睦まじく過ごしていた。しかし、入管はマリアさんに再びビザを出すことはなかった。
それどころか、マリアさんは収容施設に3回も入れられて、そのたびに二人は否が応でも離れ離れとなった。
当時健康だった修三さんは、マリアさんが収容されるたび、朝3時から長男と共に車に乗り込み、東京入管(品川)まで面会に通った。
入管の職員には何度も「妻を返してください」「妻を返してくれなければ自分も家に帰らない。妻とともにここ(入管)に泊まる」と訴えた。
しかし、そんな必死な修三さんに対して、職員は「旦那さんも一緒にフィリピンで暮らせばいいじゃないですか」と言い放った。
また、若い女性職員から「セックスはしているんですか?」「一緒にお風呂に入っていますか?」「奥さんを愛しているんですか?」と、信じられないほど無神経な質問を浴びせられることもあった。
これに対して、修三さんは「当たり前です。愛しているから妻を返してもらいに来ているんです」と臆することなく言い返したが、息子の前で言われることがとても恥ずかしかったという。
3回目に収容されたとき、マリアさんはこのままでは在留資格は望めないと帰国を考えていた。
いったん帰国して1年でなんとか特別入国許可をもらえれば、今度こそ夫婦一緒に暮らせると思い、帰国する旨を職員に伝えていた。
職員は了承したものの、その後何カ月も収容は続いて、マリアさんが業を煮やしていたときに、修三さんの娘と孫が面会にやってきて「フィリピンに帰らないでほしい」と告げた。
というのも、修三さんが職場で大きな事故に遭って、脊髄を損傷するほどの大きなケガを負ったというのだ。マリアさんは衝撃を受けた。
結局、帰国することはなく、2年3カ月もの長い収容を終えて解放されたマリアさんは現在、修三さんの食事や入浴、トイレの介助をしている。
修三さんは、薬を飲んでも身体の痛みが和らぐこともなく、二人とも夜眠ることができないでいる。
仮放免手続きの日は、決まって夫婦で東京入管までやって来る。
再び収容されたくないから、一人で部屋に放っておくことはできないからと、常に二人は離れないが、車いすの修三さんとそれを押していくマリアさんが入管まで行くのは決して容易ではない。
マリアさんは「今までさんざん面倒見てくれた人なのに、ケガをした夫を放ってかえることなどできない」と言う。
ある夜、寝ているマリアさんを起こさないように修三さんは一人でトイレに行こうとしたが、バランスを崩し転倒してしまい、鎖骨を折ってしまった。
ギプスをして1カ月外に出ることはなかった。とてもじゃないが、修三さんを一人置いてフィリピンに戻ることなどできない。
さらに入管に追い打ちをかけられることになる。
3カ月に1度だったマリアさんの仮放免手続きが、1カ月に1度にされて、職員からは「覚悟はしておいてほしい」と収容を仄めかされた。
マリアさんを担当する伊藤しのぶ弁護士は「マリアさんと修三さんは名実ともに夫婦です。夫婦として一緒にこれからも日本で生活することが保障されるべきなのに、その保護が不十分と言わざるを得ない」と話す。
伊藤弁護士によると、マリアさんは、国に対して在留資格を求める訴訟を起こしている。
修三さんの夢は、在留資格が出たあとにマリアさんをシンガポール旅行に連れていくことだ。
「昔、仕事で行ったことがあるから、案内してあげることができる」
いつ何時、収容や強制送還によって引き離されるかわからない二人は、怯えながらも支え合って暮らしている。
こんな夫婦をどうしてバラバラにすることができるだろうか。在留資格を出すことはそんなにも難しいことなのだろうか。