前島亜美のソロアーティストデビューアルバム「Determination」が11月20日にリリースされる。「あみた」の愛称でファンに親しまれている彼女は、2010年にアイドルグループのメンバーとしてデビューし、グループ活動だけでなくソロでもドラマや舞台、雑誌モデルとしてマルチに活躍してきた。グループ卒業後は、アニメ&アプリゲーム『バンドリ! ガールズバンドパーティ!』やテレビアニメ『古見さんは、コミュ症です。』などの声優としても活躍。さらに映画・舞台出演やナレーション、ラジオなどでも幅広い活動を展開している。そんな彼女が今回「前島亜美と音楽」をテーマに、ソロアーティストデビューの抱負を語ってくれた。
【動画】前島亜美が“決意”を込めた表題曲「Determination」Music Video
■ずっと続いてきた“音楽との縁”
――ソロアーティストデビューを決めたきっかけについて教えてください。
前島:芸能活動を始めて15年目になり、現在は声優として活動しているのですが、私のキャリアのスタートはグループ活動で、歌って踊る“音楽”が始まりでした。
7年間グループ活動を続け、10代で卒業する際は「もう音楽と関わることはない」と覚悟を決めて、お芝居を頑張ろうと新たな道を進みました。ですが、声優として活動する中でキャラクターソングという形でまた歌う機会をいただき、レコーディングやライブステージにも参加させていただく中で“音楽との縁”が切れることなく、ずっと続いてきたんです。
そんな中で、周りの声優さんがアーティストとして次々とデビューしていくのを見て「自分もあんなふうにできたらいいな」という気持ちはどこかにあったのですが、歌に自信がなかったので、強くデビューしたいとは言えなかったんです。
しかし、ふと自分のこれまでを振り返る時間を持ったとき「うまい下手ではなくて、音楽が好きか、もう一度ステージに立ちたいか」と自問したところ、すべての答えが「イエス」でした。10代の頃の輝かしいステージの思い出や、もっと頑張りたかったという想いが今でも残っていたんです。
「今の私を応援してくださっているみなさんと一緒に、もう一度ステージに立ちたい」という気持ちが強くなる中で、キングレコードさんのサポートもあり、今回こうしてデビューさせていただくことになりました。
――レーベルメイトには同事務所(ボイスキット)の上坂すみれさんや、前島さんと親交の深い愛美さんもいらっしゃいますが、ソロアーティストデビューにあたりお二人とお話しされたことはありますか?
前島:はい。デビュー発表は生配信で行ったのですが、その前にお世話になっている先輩方にご連絡をさせていただきました。すみれさんや愛美さんにもその際にご報告させていただいて、すみれさんは「同じ事務所で、レーベルメイトが増えてとても嬉しい」と言ってくださって、「本当におめでとう。健康で、楽しく音楽活動ができることを心から祈っています」と温かい言葉をいただきました。
愛美さんも「おめでとう」と言ってくださり、「あみたはソロが合うと思うから、すごく楽しみにしているよ」と励ましの言葉をいただきました。先輩方が温かく迎えてくださることが心強いですし、キングレコードさんには他にも素晴らしい先輩方がたくさんいらっしゃるので、みなさんの背中を追いかけながら頑張っていきたいと思っています。
――私も前島さんが声優としてソロで立ったライブを何度か拝見させていただいたことがあるのですが、本当に素敵なパフォーマンスで、とても印象に残っています。
前島:ありがとうございます。とくに深く関わってきた作品では、実質ソロライブのような情熱で取り組んできて、キャストでありながらセットリストを考えたり、演出の提案をしたり、MCの内容やステージングにもこだわったりと、かなり作り込んでいました。そうしたキャラクターソングのライブを作り上げる過程は、本当に貴重な経験でしたし、演者として幸せな時間だったと思います。
でも、どこかで「これは自分のものではない」という認識は常に持っていて、あくまで作品やキャラクター、そしてお客さんのためのものだという意識でやっていました。その中で「これが私自身のライブだったらどうなるだろう」という想いを無意識にでも抱いていたんだと思います。来年開催予定の1stライブはまだ形にはなっていませんが、これまでの憧れや想いを詰め込んで、素敵なライブを作りたいと思っています。
■お客さんと一緒に楽しんで、共に作り上げていくような存在
――デビューアルバムのコンセプトについて教えてください。
前島:アルバム制作にあたって、まず最初に決めたのがアルバムのタイトルでした。作品全体の指標になるような気がしていたので、ここをしっかりと決めたかったんです。そこで、「デビュー」というものを一言で表すと何だろうと考えたとき、私にとっては「決意」だなと。
決意、決心、そして覚悟。その想いから「Determination」という言葉をアルバムのタイトルに提案させていただき、ディレクターさんからも「いいね!」と快諾していただき、無事に決定しました。
そこからは曲探しが始まり、ディレクターさんと相談しながら、音楽性が偏らないように、いろいろなジャンルや表現を取り入れることにしました。アルバム全体を通して、さまざまな表情や声色、表現を楽しんでいただけるように、そして何よりも“自分らしさ”を見失わないようにという想いを込めて、1曲1曲を大切に作り上げていきました。
――表題曲「Determination」ではご自身で作詞も担当されていますが、どのような想いを込めた楽曲となっていますか?
前島:「Determination」は約4分の楽曲なのですが、その中に私自身の決意や覚悟、ここ数年間の想いをすべて詰め込み、また、聴いてくださる方々の背中を押したり、何かに挑戦する姿を応援できるような曲になればいいなと思いながら作詞をさせていただきました。
個人的に「迎えにきたんだ」というフレーズがとくに気に入っていて、約15年前、無邪気な夢を描き、音楽に向かって走り出した頃の過去の自分や、これまで一瞬でも前島亜美と人生が交わり、関わりを持ってくださったみなさんを迎えに行って、一緒に未来に進んでいこうという願いをこの一言に込めています。
――これまでのキャリアから前島さんに対して“アイドル”のイメージが強かったのですが、この楽曲を聴いた際にそのイメージが一新されているように感じました。アーティストとして表現していきたい世界観が明確にあるのですか?
前島:アーティスト活動を始動するにあたり、方向性や立ち位置、つまりおっしゃる通り世界観というものを自分でも考えていました。まず、来年予定しているライブに関して言えば、これまで培ってきた「歌って踊る」ことが声優アーティストとしての私の強みだと思っているので、それは今後も大事にしていきたいです。一方で、音楽性を含めた表現全般においては、私にとって一番自分らしいのは、“自分の人生を表現すること”なのではないかと感じています。
私は人が生きるドラマがとても好きなので、アーティストとして何かを一方的に見せるというよりは、音楽やライブを通じてお客さんと一緒に楽しんで、共に作り上げていくような存在でありたいと思っています。お客さんが掛け声を入れてくれたり、一緒にライブ会場で時間を共有することで初めて完成するような、そういう“双方向的なアーティスト”でありたいんです。
もしみなさんにこれまでの前島亜美のイメージと違う部分が見えているなら、それは一緒に私の本当の姿を探しながら見つけていく過程でも良いのかな、なんて最近思うようになりました。
――前島亜美の中にある“未来の可能性”を、ファンのみなさんと一緒に楽しんでいくというか。
前島:そうですね。私はアーティスト活動を長く続けていきたいという目標があるので、焦らずに、一つ一つの出来事をしっかりと記憶していきながら、みなさんと一緒に作り上げ、歩んでいくことを大事にしたいと思っています。
■「まだ先があるんだ」と未来が見えた
――少し抽象的な質問になりますが、前島さんにとって“音楽”とは?
前島:私にとって音楽は、ずっと“華”のような存在なんです。グループとしてデビューした頃、先輩方のライブを見学する機会がたくさんありました。そのときに感じた、音楽が持つ圧倒的なパワーと華やかさは、今でも鮮明に心に残っています。
その後、私は一度音楽から離れ、演劇の世界に飛び込みました。とくに私が魅了されたのは、歌わずに言葉だけで物語を紡ぐストレートプレイという演劇で、言葉とシンプルな演出で舞台を緻密に作り上げていくその繊細さに惹かれていたんです。
そうして役者に専念してきた数年間を経て改めて感じたのは、音楽には“一瞬で人の心を掴む力”があるということ。音楽が持つパワーは、観客全員が一つのエネルギーを共有している感覚を生み出し、その力は舞台演劇とはまた異なる、圧倒的な引力を持っているのだと感じています。
――たしかに。舞台演劇は幕開けから徐々に感情が高まっていくのに対して、音楽ライブでは、最初の曲から観客のボルテージが一気に最高潮に達することもありますよね。一方で、役者として培った経験が音楽活動で活かせる場面も多いのでは?
前島:それは感じますね。グランドミュージカルのオーディションをたくさん受けていた時期には、声楽的な歌のレッスンを受けていて、ポップスとは全く異なる、響きに特化した歌い方を学んでいました。でも、そのときはJ-POPやアニソンのレコーディングにどう活かせるのかが見えなくて、うまく繋がらないなと思っていたんです。
ただ、最近になって人体的に楽で綺麗な音の出し方という点で、クラシック的な要素や声楽で学んだことが今の音楽活動に繋がり、1つのものになってきた感覚があります。とくに、ミュージカルで学んだ「話すように歌う」という劇団四季や宝塚の先輩方の技術に憧れて練習していたことが、時折活かせる瞬間があって。また、歌詞を読み解く過程も台本を読む力に似ていて、結局、すべてが繋がるんだなと実感しています。
――今後の音楽活動における目標はありますか?
前島:何よりも「歌がうまくなりたい」という気持ちが強いですね。これまでも長い期間、いろんな先生方に歌を教わってきたのですが、ある時期には「これ以上は成長できないのかな?」と、自分の限界を感じたこともあったんです。
ですが、アーティストデビューが決まってからは、毎週レッスンを受けながら自分でも音楽を勉強しつつ、家でもずっと歌い続けていたんです。そうしてもう9ヵ月ほど経ったんですけど、少しずつ上達を実感できるようになってきて。本当に小さな一歩なのですが、自分の体の中で響く音が確実に変わってきているのを感じますし、それがレコーディングでマイクを通してディレクターさんにも伝わっていると言われたとき、「まだ先があるんだ」と未来が見えた気がしてすごく嬉しかったです。
だから、もっともっと頑張りたいし、アーティストとしてさらに成長するために、今後も歌を磨いていきたいと思っています。
――素敵ですね。最近私も考えているのですが、「歌がうまい」とか「歌が上達する」って具体的にはどういうことなのかなと。
前島:そうですね。そもそも「うまい」って何を指すのか、という部分もあると思うんですけど、たとえば、今私が指導を受けている先生は、人体の構造に基づいてすごく論理的に教えてくださるので、とてもわかりやすいんです。ただ気合いや気持ちだけではなくて、「声帯がこうなっているから、こうなるんです」と説明していただけると、自分でも予想していなかったコツを掴む瞬間があったりして。
――プロならではの視点ですね。
前島:そうなんです。来年のライブまでにどれだけ成長できるかが、今の頑張りどころだなと思っています。
■きっと何歳になっても私のあだ名は「あみた」
――前島さんの音楽活動の中で“ライブ”はやはり特別なものなのですか?
前島:特別ですね。今回のアルバムもライブを意識して作っていますし、お客さんが入って初めて完成するライブでありたいという想いがあるので、「あの子はライブが楽しい」「ライブに強いアーティストだな」と少しずつ感じてもらえたら嬉しいです。
――とくに今回のアルバムに収録されている「職業:あみた」は、コールアンドレスポンスで盛り上がりそうな楽曲だなと思いました。
前島:そうですね。この曲は前山田健一さんに提供していただいたのですが、これまでの私自身を肯定しながら、これからの私を示しているような、そんな楽曲なんです。
それでいて、昔から私を応援してくださっているファンのみなさんから、これから前島亜美を知っていただくみなさんまで、幅広く楽しんでいただける要素が詰まっていて、まさに「これだよね、これを待ってた!」と思わせてくれるような楽曲になっています。「Determination」にこの曲を入れたことにも大きな意味があると感じていて、私にとってとても大切な1曲です。
――タイトルもいいですよね。
前島:私もすごく気に入っていて、いい言葉だなって思うんです。「職業はなんですか?」と聞かれることが多くて、その度に自分でもどれを答えたらいいんだろうと悩む時期もあったんですけど、前山田さんに「“あみた”として頑張ればいいんだよ」って教えていただいた気がします。
――この楽曲があることで、これまでの前島亜美が継承されているんだなと感じることもできますし、「あみた」という愛称がただの記号ではなく、前島さんとファンのみなさんを繋ぐ合言葉になっているようにも感じられて。
前島:そうですね。これまでがあって今があるっていう、その地続きであることが伝わると嬉しいです。最初は憧れの完璧なアイドル像を目指して作り上げた「あみた」というキャラクターが、いつの間にか自分の内面や年齢、精神性を追い越してしまって、少し持て余しているというか、窮屈に感じて距離を取りたいと思う時期もあったんです。
でも、やっぱり「あみた」と呼んでいただけることや応援してもらえることは本当に幸せなんだなと改めて感じていて。一周回ってまたここに戻ってきたというか、きっと何歳になっても私のあだ名は「あみた」なんだろうなって思います。
(取材・文・写真:吉野庫之介)
前島亜美1stアルバム「Determination」は、11月20日リリース。