2024年10月26日 12:41 ITmedia NEWS
先週、幕張メッセで開催された「Japan Mobility Show Bizweek 2024」──その日産自動車ブースでひときわ目を引いたのが、赤い大きなぬいぐるみと小さなぬいぐるみでした。2つのぬいぐるみの正体は、子守支援ロボットの「イルヨ」です。
イルヨは、日産とアカチャンホンポの共同プロジェクトで、ハードウェア開発はユカイ工学が担当しています。大きいイルヨを後部座席のチャイルドシートにいる赤ちゃんの近くに置くと、親の声(いくつかのウェイクワード)に反応して赤ちゃんをあやしてくれます。
例えば「いないいないばぁ」というとイルヨは両手を動かして顔を隠し、「こっちだよー」というと両手と顔を動かすといった具合です。そして親の言葉を検知してくれるのが、運転席の近くに置く「ベビーイルヨ」。それだけではなく、赤ちゃんが寝ているのか起きているのかをまぶたの開閉で親に知らせてくれます。
もちろんベビーイルヨから赤ちゃんの様子は見えません。側にいるイルヨが、内蔵カメラで赤ちゃんの様子を検知してベビーイルヨに伝えます。イルヨとベビーイルヨは互いにコミュニケーションしているわけです。
まだチャイルドシートに乗せるしかない赤ちゃんを連れて車で移動する場合、運転している親は赤ちゃんをあやすことができません。そして、せっかく寝ている赤ちゃんを起こしてしまうというのは最も避けたいところ。そこに特化してサポートするロボットというのは、子育ての実態をよく分かっている素晴らしいプロジェクトだと思います。
赤ちゃんが見えなくても、その様子が分かる仕組みだから「イルヨ」。開発時に実際の親子にイルヨを試してもらったところ、赤ちゃんの9割がイルヨを注視したそうです。しかもイルヨが動くことで、半数以上の赤ちゃんの感情がポジティブになったそうで、これなら親は安心して運転できるというわけです。
そして、そのイルヨに「マダイルヨ」という新機能が追加されました。
●置き去りを防ぐ「マダイルヨ」
マダイルヨは、イルヨの支援機能からさらに踏み込んで、社会問題ともいえる「置き去り事故」を防ぐ新機能です。
赤ちゃんを車内に置き去りにするなんて……と思う人もいるかもしれませんが、毎日生活のあれこれに追われていると、“うっかり”ということはあるんです。それぐらいに子育て中の親というのは忙しいんです。
実際、三洋貿易が昨年実施した調査では、保護者の5人に1人が1年以内に「子どもを残してクルマを離れたことがある」と回答しています。また、アカチャンホンポ会員を対象にした調査では、赤ちゃんを車に乗せる頻度が高い親ほど子どもの車内置き去りについて「うっかり自分がやってしまうんじゃないか」と心配・不安に思う割合が高いことも分かりました。
だから、置き去り事故は誰にでも起こりうるという前提に立ち、テクノロジーで事故が起きないようにサポートしようという試みであるわけです。
具体的にマダイルヨでやっていることは、イルヨ(と赤ちゃん)と事前に登録した親のスマートフォンを無線で接続し、距離が離れたことを検知したらスマホ通知で警告するというもの。この警告は距離が縮まらない限り届き続ける仕様になっています。
意外とシンプルな仕組みではありますが、これを親が意識することなく自動化しているのが素晴らしいわけです。そもそも意識できていれば、置き去り事故は起こらないわけですから。
このイルヨ、現時点では商品として販売することが決まっているわけではありません。しかし、自動車メーカーが車にまつわる社会課題に対して、テクノロジーで問題解決のあり方を見せていくというのは、企業の啓発活動として重要ではないでしょうか。