2024年10月24日 19:20 弁護士ドットコム
障害者の芸術文化事業に取り組む社会福祉法人「グロー」(滋賀県近江八幡市)の理事長だった男性から、長年にわたってセクハラやパワハラを受けてきたとして、元職員の女性ら2人が計約5250万円の損害賠償を求めた裁判の判決が10月24日、東京地裁であった。
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野口宣大裁判長は、前理事長の北岡賢剛氏に220万円、グローに440万円の賠償を命じる判決を言い渡した。この日の判決を受けて、原告の木村倫さん、鈴木朝子さん(いずれも仮名)が記者会見を開いて、長期間にわたる被害と、裁判を振り返った。
判決などによると、グローと提携関係にある社会福祉法人で働いていた木村さんは、グローの理事長だった北岡氏に2012年、都内のホテルで服を脱がされるなどの被害にあったほか、卑わいな言葉を投げかけられたり、メールを送られるハラスメントを受けたと主張していた。
また、グローの元職員の鈴木さんも、北岡氏から2014年に同じホテルでキスや胸を舐められるなどされ、同様のハラスメントを受けたとうったえていた。
北岡氏は障害者アートの第一人者であり、法人内外で大きな力を持っていたという。
2人は2020年11月、北岡氏とグローを相手取って損害賠償を求める訴訟を起こし、北岡氏によるハラスメントを130の不法行為として主張。ハラスメントの事実認定や、グローの安全配慮義務違反、そして消滅時効などが争われていた。
この日の判決で、北岡氏は木村さんに220万円を支払うよう命じられた。判決は、ホテルでの出来事など多くの行為を事実として認めた。
「北岡氏が木村さんに対する性的欲求を実現させるためにした行為であって、遅くとも2012年9月以降、約7年に渡ってほぼ間断なく継続していたものと認められから、木村さんに向けられた一連一体の行為として、継続的な不法行為に当たると認めるのが相当」(東京地裁の判決より)
被告側は、ホテルでの出来事などは、提訴の3年以上前の出来事なので、不法行為の消滅時効が成立すると主張していた。しかし、問題とされていた最後のセクハラ行為が2019年のものであり、継続的な不法行為の消滅時効もそこから起算されるとして、時効の完成はしないとした。
また、グローも鈴木さんに440万円を支払うよう命じられた。
判決は、主要な部分で、北岡氏による鈴木さんへのハラスメント行為を認めたが、消滅時効も成立するとした。一方、ハラスメントの事実を踏まえて、グローの安全配慮義務違反を認めた。
北岡氏は合意があったなどと反論したが、認められなかった。
木村さんは記者会見で、北岡氏が本人尋問の中で「シャレだった」「受けを狙った」といった言葉を繰り返していたとして「人を人として見てないというか、悔しさがありました」と述べた。
「反省しない態度がやるせないです。判決を受けて謝ってほしいと改めて思います」(木村さん)
鈴木さんは、消滅時効の成立に「納得できません」としたが、最初に声をあげた際に性被害を信じてもらえないことに恐怖を感じていたと振り返り、「性暴力やハラスメントのほとんどが事実認定され、判決文を読んだときに安堵して涙が出てきました」と涙声で語った。
原告側によると、権力を持つ相手からの性加害は継続するもので、かつ、性被害を告白するのは時間もかかったという。訴えるには、3年の消滅時効がハードルになるとして、法整備などの議論が求められると強調した。
原告代理人の角田由紀子弁護士は、認定された賠償額が低すぎると指摘した。同じく原告代理人の笹本潤弁護士は、判決には良いところも悪いところもあり、控訴の方針は今の時点では明らかにできないとしている。
グローは10月24日、公式サイトを通じて、判決を受けての見解や方針を後日発信する考えを示した。
また、北岡氏の代理人弁護士は10月25日、取材に「コメントを出すことは予定していない」とした。
(10月25日、北岡氏側への問い合わせ内容を追記)