2024年10月24日 14:31 ITmedia NEWS
中国・北京に本社を置くXiaomiが10月10日、2024年下半期に日本で投入予定の製品発表会を開催した。冒頭にかなりの時間をかけて紹介されたのが11月後半に投入されるスマートフォン「Xiaomi 14T Pro/14T」だったが、その他にもスマートバンドやテレビ、ロボット掃除機なども発表された。
【画像を見る】100インチで30万円を切ったチューナーレステレビ
Xiaomiといえば、日本ではリーズナブルなAndroidスマホ/スマートバンドメーカーというイメージだが、中国本土では総合家電メーカーに成長しており、電気自動車から冷蔵庫まで幅広い製品群を抱えている。祖業はスマートフォンだったことからそれ関連の製品は大いにしても、2010年創業でここまで手を広げるというのは、日本では見られないスタイルだ。
筆者はオンラインで記者発表会に参加したが、今回日本に投入された製品は、Xiaomiが扱う多くの製品の中から、特に日本向けにピックアップされたものであり、Xiaomiが日本市場をどのように見ているのかが、なんとなくつかめてきた。
世界企業となったXiaomiが日本のどこで勝とうとしているのか、その戦略を分析してみたい。
●スマートフォンの勝負どころ
Xiaomiのスマホといえば、2024年前半に発売が開始された「Xiaomi 14 Ultra」が注目を集めたところである。ライカと共同開発したカメラを4基も搭載し、公式サイト価格19万9900円というスーパーハイエンドモデルである。
企業名を冠したモデルがハイエンドで、低価格モデルはRedmiシリーズとして区別されている。今回発表になった「Xiaomi 14T Pro/14T」は、「Xiaomi 14 Ultra」のエッセンスを買いやすい価格にまとめたモデルで、14T Proのオープンマーケット版市場想定価格は、256GBモデルが10万9800円、512GBモデルは11万9800円。一方14Tのオープンマーケット版は発表されなかった。
上位のProモデルで10万円チョイという価格設定は、14 Ultraの半額近い価格設定であり、Google Pixel 9 Proの最低価格が15万9900円であることから考えれば、これで十分戦える。ただ現在のスマートフォンの購入方法は、自動車と同じで前モデルの下取りありきとなっていることから、ブランド力によるリセールバリューを抜きには考えられなくなってきている。
例えばGoogle Pixelを公式サイトで購入する場合、他社製スマホも下取り対象としているが、Xiaomi製品はその中に入っていない。いわば「バリューなし」としてランク付けされているわけだ。Xiaomiとしては、ブランド力向上が喫緊の課題である。
そこで頼りにするのが、Leicaのブランド力だ。XiaomiとLeicaは22年に長期的なパートナーシップを結んでおり、カメラ部分における協業は今年で3年目となる。14Tシリーズでは、撮影された写真データに、Leicaロゴをあしらった撮影データが書き込まれるモードが搭載されている。14 Ultraの半額であっても、どうしてもLeicaブランドを搭載する必要があった、と見るべきだろう。
もちろん協業の成果は、性能にも現われる。今回のイベントで強調されたのが、暗部撮影性能である。14bit色深度のRAWデータ8枚を重ねて処理することで、SNを向上させる技術だ。夜景の「エモさ」とLeicaブランドで差別化を図るということだろう。
スマートフォンの夜間撮影については、20年頃からトレンド化し始め、iPhoneやPixelでは長時間露光モードや専用の夜景モードを搭載するようになった。数秒間カメラを固定することで、暗所でも明るく撮影する技術だ。一方14T Proでは、1/10秒程度のシャッタースピードでかなり明るく撮影できるようだ。重ね撮りのスピードを飛躍的に向上させることで、通常の撮影と変わりないレスポンスを提供するという事だろう。
カメラ機能はいまだスマートフォンの強い差別化要素だが、昨今ではもう1つの軸が出てきた。AI対応である。Googleは自前のAI「Gemini」を大々的にアピールし、出遅れたAppleは「Apple Intelligence」こそがAIの本質であると主張する。
その中でXiaomiがアピールするのは、AIをエッジ側で処理するというアプローチだ。AI処理に強い「MediaTek Dimensity D9300+」を搭載することで、クラウド側ではなく、端末側で処理を行うという。現在は各社が提供するAIにて膨大な演算が行われており、クラウド側の消費電力やネットワークトラフィックの増加が社会的問題となりつつある。AIのエッジ処理は、それらに対する回答というわけだ。
さらに14T Proは19分でバッテリーをフル充電にできるという「120W Xiaomiハイパーチャージ」機能を備えている。120W充電対応は、20年頃から登場したXiaomiの独自技術である。なかなか追従するメーカーがないのは、それだけまねしにくいということもあるだろうが、もう1つはそれほど強いヒキになると考えられていないという事情もあるだろう。ユーザーが求める方向は、バッテリーが長持ちすることだからである。
純正充電器もそれなりにデカいのだが、昨今では窒化ガリウム(GaN)の採用で、USB Type-C小型充電器でも120W対応のものが数多く登場している。スマホの急速充電対応がヒキになる下地は、次第に整いつつある。
Ultra 14はさすがに買えない値段だったが、14T Proはトータルで見ればかなり魅力的な端末であることは間違いない。AndroidではGoogle Pixel 7シリーズが2022年ごろから強力な価格攻勢でシェアを伸ばしたことは記憶に新しいが、14T Proがオープンマーケット市場で実勢価格10万円を切るようであれば、シェアを大きく伸ばせる可能性がある。Xiaomiとしては、スマートフォンの次のトレンド、「折り畳みの一般化」に突入する前に、日本でもハイブランドとしての足場を固めておきたいはずだ。
●意外に少ない100インチテレビ
スマートフォン以外の製品で驚きを以て受け止められたのが、100インチの4Kスマートテレビ「Xiaomi TV Max 100 2025」である。
ポイントは3つある。1つは、100インチというサイズのテレビは、日本国内には意外に少なく、手薄な部分という事だ。本体サイズは横幅が2m30cm、高さ1m30cmぐらいになるので、日本の家庭にはそうそう置き場所がないサイズということもある。
この100インチというサイズが大画面の象徴なのは、テレビの大画面化による競争が激しかった06年のCESで、パナソニック、サムスン、LGエレクトロニクスが一斉に100インチ越えのプラズマテレビを発表したのが発端である。ただし解像度はフルHDであった。
筆者も当時現場で現物を見ており、貸し出し機もありますよと言われたのだが、サイズも重量も相当あり、室内では角が曲がれないので、搬入はリビングの窓を外してそこから真っすぐ搬入するしかないという事であった。まあ、一般家庭ではあり得ないサイズなわけだ。
現在販売されている100インチ前後のテレビは当然4Kだが、低価格のものではゲオ、オリオン、TCL、ハイセンスといったメーカーが出している。それでも40万円~80万円台である。ハイエンドになればLGエレクトロニクスやTVS REGZAに製品があるが、こちらは100万円~400万円台となる。そこにXiaomiは、30万円以下という価格で参入してきた。すでに定価ベースで最安である。
2つ目のポイントは、この価格でありながら144Hz量子ドット技術のQLEDパネルを採用したことである。現行の100インチテレビでは、TCLやハイセンス、TVS REGZAがQLED製品を出しているが、どれも50万円オーバーである。最先端のトレンドを押さえつつ、Xiaomiは一般黒物家電でも既存メーカーと勝負できるという、大きなインパクトを与えるのが目的だろう。
3つ目のポイントは、これがGoogle TV搭載のチューナーレスであることだ。このサイズで見るものは、もはやテレビ放送ではないだろうという割り切り…、ではない。例えば「テレビ放送波が受信できないものはテレビとは呼ばないんじゃないんじゃないか」という感覚は日本だけのもので、テレビ放送もそのままネット経由で見られるというのが、世界のスタンダードである。
イギリスではすでに地上波の放送は辞めてもいいんじゃないかという議論もあるぐらいで、むしろチューナーレスのほうが世界標準なのだ。
狙いでチューナーレスなのではなく、これが世界のスタンダード。この感覚を、保守的な日本のテレビ市場に堂々と持ち込んだというのが、みどころなのである。チューナーがないので、B-CASやACASの支配も受けない。この100インチテレビをきっかけに中型サイズのXiaomi製テレビが市民権を得てくれば、日本にとっては大きな転換点となり得る。
ちなみにXiaomiは米国市場向けにはテレビは販売しておらず、主力はゲーミングモニターである。中国Huaweiのような輸入規制を受けることを警戒しているのか、家電ビジネスとしてはヨーロッパのほうが大きいようだ。また中国本土においては、100インチモデルとして「Redmi MAX 100 2025」というモデルをリリースしているが、これはRedmiブランドからも分かるように、廉価ラインアップである。日本およびワールドワイドで発売される本モデルとは別物だ。
日本においてテレビは、耐久家電という扱いである。一般的にテレビの寿命はおよそ10年と考えられている。以前筆者はTCLの43インチテレビを買ってみたことがあるが、1年ちょっとしか保たなかった。保証期間もちょうど切れたタイミングであり、有償でも修理しようと思ったら、購入価格より修理費のほうが高額というバカバカしい事実に直面した。エコにうるさい日本において、「買い直した方が安い」は許されない。
Xiaomiの場合、スマートフォン以外の家電の品質はどうなのか、あるいは修理サポートはどうなのか。一般家電で日本に参入してきた今、これからそれが「日本人の目」で厳しく問われる事になる。