2024年10月20日 09:40 弁護士ドットコム
自治体やスタートアップ企業の情報発信を支援する会社「Shireru」は、全国の自治体を対象に記者クラブの活用状況を尋ねたアンケート調査で「記者クラブがある」と回答した217自治体のうち、「この5年間でクラブを利用する記者が減っている」と感じる自治体が4割以上に上ったとの調査結果を発表した。
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アメリカでは地元に新聞がない地域が「ニュース砂漠」と呼ばれ、社会課題として認識されつつある。日本でも近年、全国紙が経営難から地方の記者や取材拠点を減らしており、地域の情報発信や行政の監視活動について自治体側も危機感を抱いている状況がアンケートから明らかになった。(弁護士ドットコムニュース・一宮俊介)
記者クラブの定義について、日本新聞協会は「公的機関などを継続的に取材するジャーナリストたちによって構成される『取材・報道のための自主的な組織』」とし、「取材・報道のための組織である記者クラブとスペースとしての記者室は、別個のもの」と説明している。
ただ、今回のアンケートは自治体を対象にしたもので、記者クラブに関する理解にばらつきが生じる可能性があるため、調査結果の「記者クラブ」は「記者室」という程度の意味として捉えたほうがよいという点を最初に指摘しておく。
Shireruは今回、全国の都道府県と市町村の全1788自治体にアンケートを送付。780自治体から回答があった(回答率43.6%)。
アンケート結果によると、回答した780自治体のうち「記者クラブがある」と回答したのは217自治体(27.8%)だった。その多くが比較的都市部にあったり人口が多かったりする自治体だったという。
記者が記者室を利用する頻度を尋ねた質問では、217自治体のうち29自治体が「記者をみかけたことがほとんどない」、26自治体が「月に1日は記者がいる」と回答した。
一方、「常に記者が1人以上滞在している」と回答したのは55自治体で、その多くが都道府県庁や各都道府県の県庁所在地がある自治体だった。
また、217自治体のうちの93自治体(42.8%)が「5年前と比べて(記者室に)滞在する記者が減ったと感じている」と回答した。
今回の調査結果は、自治体の担当者が記者室に張り付いて記者の出入りを厳密にカウントして回答したものではなく、主観的な意見に頼らざるを得ない部分があったという。
ただ、このアンケート結果は、2024年1月まで毎日新聞の記者だった筆者の経験にも沿う内容だ。
というのも、筆者が2015年4月に新入社員として配属された初任地の青森支局(青森市)には当時、支局長とデスク、記者5人がいたほか、弘前市と八戸市に「通信部」と呼ばれる記者1人の取材拠点があった。
しかし、本社への異動をはさんで2021年春に赴任した宮崎支局(宮崎市)では、すでにデスクがいなくなり他県の支局と一緒にまとめられていた。
宮崎県内の通信部も削減されており、新人記者が支局に配属されなくなっていた。2023年春に離任する際には宮崎支局の記者は支局長を含めて3人にまで減っていた。
そのような状態だったため、以前は比較的手厚くカバーしてきた宮崎県庁の記者室に筆者が常駐することはなく、県庁所在地の宮崎市の記者室にも週に数回だけ資料を取りに行くだけとなっていた。
宮崎県で2番目に人口が多い都城市ではすでに通信部が閉鎖されていたため、1カ月に一度行くか行かないかぐらいの頻度でしか都城市役所にある記者室を訪れなかった。そのため、いつも記者室の机に山積みになった市の資料を紙袋に入れて宮崎支局に持ち帰っていたことを思い出す。
こうした取材網の縮小は他の多くの報道機関も同様の傾向にあり、地元紙も県内の人口が少ない自治体から記者を減らしているという話を耳にしたことがある。
筆者が今年1月末に毎日新聞を退職した際には、青森支局の2つの通信部はともに閉鎖され、記者も3人ほどに減っていたと記憶している。
毎日新聞だけでもわずか数年でこれほど変化していることから、報道機関全体としてはさらに地方から急激に記者がいなくなっている事態が推測される。
地域から記者がいなくなることは、その地域に関するニュースが減っていくことを意味する。
Shireruが今回実施したアンケートで注目すべきは、自治体の職員自体がこの傾向に危機感を抱いているという点だ。
記者クラブについて自治体が感じている課題を自由回答で尋ねた質問には、次のような「マスコミの弱体化」を挙げる回答が多かったという。
<小さな町の情報は取り上げられる頻度が少なくなったと感じる><地方自治体のリリースに対応できないほど、報道機関自体が人手不足であると感じる><報道機関の人員が不足している。広報担当者と記者が顔を合わせる機会が減り、お互い満足のいく報道にならないことが多いと感じる><地方行政担当であっても、全国的・国政的な事案に係る取材活動の割合が多くなってきていると思われ、地元独自の事案の取材が少なく感じられる>
さらには、役所の職員が広報する対象といった見方ではなく、一市民としての目線から報道機関の衰退を懸念する声も寄せられたという。
<一記者の(記者室での)滞在可能時間は減っており、「行政監視」という意味が薄れているように感じる>
全国調査を実施したShireruの代表取締役、山田みかんさんは元々、テレビ局で記者をしていた。
自治体が広報する資料には地域の課題やその解決策が記載されていることが多く、山田さんは記者時代、そうしたプレスリリースを読むことが好きだったという。
しかし、現場の取材体制に余裕がなくなる一方で、会社としては視聴率を落とさないことが優先され、行政の取材に力を入れなくなっていることが気になっていた。
「多くの人に読まれるわけではないけど必要な情報というものがあり、その際たるものが行政の施策などの情報だと思っていましたが、記者としてそれらをつぶさに見られているのだろうかという疑問がありました」
そんな思いが強まり、2023年8月、自治体などの情報発信をサポートする会社「Shireru」を立ち上げた。
今回のアンケート結果について、山田さんは驚く点があったという。
「分かってはいましたが、記者室を利用する記者が5年間で減っていると感じている自治体が数値として4割あると聞くと、けっこう深刻だなと感じます。
また、行政職員の側が記者クラブを広報の場としてだけでなく監視される場として認識していて、マスコミが衰退することに危機感を抱いていることが分かったのは新たな発見で、マスコミにいた人間としてはありがたく感じます。この現状をなんとかしていきたいと改めて思いました」
Shireruは現在、全国の自治体情報を一括してデータベース化し、他の自治体やマスコミ関係者が見られるようにして、社会課題を解決するための助けになるようなシステムを構築しているという。
アンケートは2024年5月14日~9月30日に実施。各自治体の広報担当部署にGoogleフォームを送付し、ウェブ上での回答が困難な場合は郵送などで対応してもらった。
回答した780自治体の回答方法の内訳は、▽ウェブ706件▽メール・郵送38件▽回答拒否36件ーーだった。
設問は以下の通り。
(1)今回の調査データは研究や記事作成に使用する予定です。自治体名を公表しても良いですか?(2)都道府県を教えてください(3)市区町村を教えてください(都道府県庁の場合は「庁」と記入ください)(4)自治体内に「記者クラブ」はありますか?(5)記者クラブに「“常に”記者が1人以上」滞在していますか?※平日9~17時に記者が席にいるなど、ご担当者様の印象で構いません。(6)先の質問で「いない」と回答された方にお聞きします。常にではないものの、記者が1人以上滞在することがあれば、その頻度を教えてください。※平日9~17時に記者が席にいるなど、ご担当者様の印象で構いません。(週2~3日/週1日/月1日/見かけたことはほとんどない)(7)記者クラブに加盟する社に対し「水道光熱費」や「電話料」を徴収していますか?(8)記者クラブ担当の事務員(会計年度職員)等を配置していますか?(9)記者クラブ担当事務員含め、記者クラブ維持のためにかかっている行政負担の費用は総額でいくらですか?※およそで構いません、記者クラブのない自治体は「記者クラブがない」と記載ください(10)5年前と比べて、記者クラブに滞在する記者が減っていると感じますか。(11)「報道資料」や「プレスリリース」をどこに配布していますか?(記者クラブがあり、加盟社に手渡ししている/記者クラブがあり加盟者にFAXしている/近隣の市区町村にある記者クラブに配布している/リリース配信サービス(@press、PRTIMESなど)を使っている/プレスリリースを作っていない)(12)記者クラブには報道機関の「行政監視」の意味と同時に、自治体の「情報発信」の役割も担っていますが、現状を鑑みてどのような課題が生じていると思われますか。記者クラブがない場合も、それゆえの課題感についてお答えください。