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【24年秋ドラマ】『ベビわる』TV史に残るガンフーアクション! ルサンチマンを爆発させた社畜と新章の始まり

2024年10月16日 15:01  日刊サイゾー

日刊サイゾー

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 すごいことになりました! TVドラマ『ベイビーわるきゅーれ エブリデイ!』(毎週水曜 深夜1時~、テレビ東京系)の先週(10月9日)放映された第6話。殺し屋コンビの杉本ちさと(髙石あかり)と深川まひろ(伊澤彩織)が参加した殺人合宿は、衝撃の結末でした。もし見逃した人がいたら、TVer かU-NEXTで急いでチェックしてください。

 伝説の殺し屋・宮原(本田博太郎)の10年ぶりとなる復帰仕事「風林火山」ですが、宮原はターゲットに手を下すことができませんでした。自分の手を汚せなくなった宮原は、代わりにAI搭載の爆撃ドローンを使って、ターゲットの家ごと吹っ飛ばしてしまいます。殺し屋としての美学を、かけらも感じさせないやり方でした。

 殺し屋協会でマネージメントをしている夏目(草川拓弥)は、新人時代に宮原の薫陶を受け、6年間にわたって「風林火山」の準備を進めてきました。「これからはAIを相棒にする」という宮原の言葉を聞き、夏目はショックを受けます。宮原に今までさんざん尽くしてきたのに、彼は一度もパートナー扱いを受けたことがありません。

「フード理論」では、食事を不味そうに食べる人もアウト

 精神錯乱した夏目は、殺し屋協会から来た先輩職員らを皮切りに、合宿に参加していた銃器プランナーの武井(天木じゅん)らまで全員射殺します。そして、夏目の怒りを甘く見ていた宮原も、あっけなく処刑されます。社畜のルサンチマンが核爆発したのです。合宿所の2階で帰り支度をしていたちさと&まひろだけは、難を逃れることができました。

 ダメ上司に仕えてしまった部下の悲しい反乱です。阪元裕吾監督によると、イ・ビョンホンがホテルの有能マネージャー兼殺し屋を演じた『甘い人生』(2005年)をイメージしたそうです。いくら仕事の能力が高くても、上司選びを誤ると悲惨な目に遭うことがありありと描かれています。『ベビわる』が社会派ドラマだなと感じる一面です。

 先週のコラムで「フード理論」に従えば、食べ物を粗末に扱った悪党は残念な末路が待っている……と触れましたが、その通りの結果になりました。恐るべし「フード理論」。ちなみに夏目にとって最後の食事となったのは、ストロング系の缶チューハイとカルボナーラでした。夏目はせっかくのカルボナーラを不味そうに缶チューハイで押し流していました。「フード理論」的には、これもアウトでしょう。

 知り合いが死んだような目で食事をしていたら、気をつけたほうがいいかもしれません。

ハイレベルなアクションが可能になった秘密

 殺し屋協会に所属するメンバー同士での殺し合いは禁じられています。その禁を破った夏目を、現場にいたちさと&まひろが粛清することになりました。ここからはTVドラマ史に残る、超絶バトルシーンです。ガンアクションに格闘技/カンフーを交えた「ガンフー」の世界です。キアヌ・リーブス主演のハリウッド映画『ジョン・ウィック』(2014年)ばりのガンフーが深夜ドラマで繰り広げられます。これはもう事件ですよ。

 予算も撮影日数も限られているTVドラマで、ここまでハイレベルなアクションを可能にしたのは、劇場版『ベビわる』三部作に続く園村健介アクション監督らアクション部の貢献が大です。現在劇場公開中の『ドキュメンタリー オブ ベイビーわるきゅーれ』を観ると、ハイレベルなアクションが可能になった具体的な秘密が明かされています。

 池松壮亮が最凶の殺し屋としてちさまひと激突するシリーズ第3弾『ベイビーわるきゅーれ ナイスデイズ!』(公開中)のロケ現場に密着した『ドキュベビ』ですが、スタントパフォーマーでもある伊澤彩織はもちろん、アクションの習得にも貪欲な髙石あかりも、身体能力がとても高いことがわかります。

 それに加え、撮影現場ではスマホがフル活用されています。リハーサル時からキャストの動きをスマホの動画機能で撮影し、すぐその場で本人も交えて動画をチェックします。映像的に修正すべき点を、本人たちはしっかりと理解し、本番の撮影に挑んでいたわけです。

 Z世代の俳優は総じて演技がうまいと言われていますが、これは普段からスマホで自分の表情や演技をチェックしているからでしょう。また、本格的アクションは初めてだった夏目役の草川拓弥は、音楽ユニット「超特急」でのダンサー経験があるので、複雑な殺陣の手順を覚えるのも平気なのだと思われます。ただの若手イケメン俳優かと思って舐めていたら、ちさまひと互角にやり合う超絶アクションに驚かされました。

 完全な老害ジジイと化していた宮原に仕えた夏目の社会人生活は悲惨なものでしたが、最期は自分がスカウトしたちさまひを相手に自身の能力をフル発揮できたことに満足そうでした。自分のことを分かってくれる仲間に、トラブルだらけだった合宿の終わりにようやく出会うことができたのです。

 ちさまひは「夏目さんはがんばったじゃない」「私たち、あいつの代わりに謝るよ」と優しい言葉を、死を覚悟した夏目に贈ります。まさに地獄の合宿で、ちさまひが「生殺与奪の権」を持つ戦場の乙女=ワルキューレであることを感じさせた前半シリーズのエンディングでした。

クズ男を演じると輝き出す柄本時生の参戦

 今夜(10月16日)放送の第7話から、新章のスタートです。ちさまひのシスターフッドムービーとして定着していた『ベビわる』ですが、殺し屋協会内のジョブ・ローテーションによって波乱の後半シリーズとなりそうです。ちさまひはコンビを一時的に解消して、どちらかがデスクワークを経験するのか、新しいパートナーと組むことになるのか。『ベビわる ナイスデイズ』で好演していた入鹿みなみ役の前田敦子は、第6話以降もドラマに絡むことになるのか。

 後半シリーズのメインキャラクターを演じる柄本時生のクズ男っぷりにも期待できそうです。アカデミー賞国際長編映画賞にノミネートされたヴィム・ベンダース監督、役所広司主演映画『パーフェクト・デイズ』(2023年)でも、柄本時生は惚れ惚れするような「ミザリー・デイズ」を演じていました。『ベビわる エブリデイ!』では、さらなるクズ男っぷりで、ちさまひをのけぞらせることでしょう。お兄ちゃんの柄本佑がエリート役を演じることが多いのに対し、柄本時生はクズ中のクズを演じるとがぜん輝き始める稀有な俳優になりつつあります。

 ちさとの家族の登場も見逃せません。ちさとの両親(橋本じゅん、中島ひろ子)は予告編を見る限り、すごく優しくて温かそうです。そんな家庭で育ったちさとが、なぜ殺し屋になったのかという謎も浮上してきます。いずれにしろ、ちさとの素顔を知ることになる非常にレアなエピソードになりそうです。

 これまでの『ベビわる』はゆる~い日常描写の直後に、過激なバイオレンスシーンが訪れるのがお約束になっていました。ちさとが温かい家族と再会し、まひろもその温かさに触れることになりそうなだけに、その後の展開が怖くもあります。今夜から始まる後半シリーズ、要チェックです。