第33回ファンタジア大賞を受賞したライトノベル『魔王2099』がテレビアニメ化。10月12日よりTOKYO MXほかで放送スタートする。本作は、500年前に勇者に討伐された伝説の魔王、ベルトール=ベルベット・ベールシュバルトが未来都市・新宿に再臨し、新たな世界を支配すべく躍動する姿が描かれる。ベルトールを演じる日野聡は、魔王たる威厳を出す芝居について「昔なら意識していたかもしれないが、今は無理やり威厳を保とうと意識していない」と一言。さらに、「自分の立場が変わることによって表現する幅も変わってきた」と、キャリアを積む中での変化について語ってくれた。
【写真】スーツ×眼鏡のシックなコーデがステキ! 日野、撮り下ろしカット(全7枚)
■最近の魔王に思うこと
――アニメの放送と出演が決まったときは、どんなお気持ちでしたか?
日野:アニメ化が決定する以前に、マキナ役の伊藤美来さんと原作のPVを収録したことがありまして。今回再び我々を呼んでいただけたのが、すごくうれしかったです。PVのときはポイント、ポイントでのセリフが多かったので、物語を通じてベルトールを演じられる喜びをかみしめています。
――改めて原作を読んだときの印象を教えてください。
日野:非常にエンタメ性にあふれた作品ですよね。王道なファンタジーの中に、配信者など現代やサイバーパンクの要素も組み込まれている世界観が面白いです。すごく緩急がついていて、見ている人を飽きさせない作品だなと思いました。
――演じるベルトールの紹介をお願いします。
日野:非常に順応性の高い人物ですね。魔王という印象だけ聞くと利己的で、自分本位なイメージを持たれるかもしれませんが、彼は人の意見を聞く耳を持っていて、いろいろなものを吸収しようとする力もあるんです。配下や仲間にプラスになる動きを見せてくれるところも彼の魅力じゃないかな。恐怖ではない部分で配下の心を掌握する魔王ですね。
――日野さんの中では、魔王という存在は利己的で自分勝手というイメージがあった。
日野:僕が小さい頃に見てきた作品だとそういうイメージでしたね。倒されるべき存在みたいな。ただ、本作をはじめ自身が関わる作品の魔王は、それとは反対に位置するような気がします。「怖いのかな」と思ったら、「えっ、いい人じゃん、すごく格好いいじゃん」みたいな魔王が多いという印象がありますね。
――それは、完全な勧善懲悪ではなく、敵側にも視点が向けられる作品が今は多いというのも関わっているのかもしれません。
日野:多角的にいろいろな物事を見られる世界になってきたからこそ、本作を含めて、魔王に主軸を置いた作品も誕生しているのかもしれないですね。
■正直、後輩であり続けるほうが気は楽なんです(笑)
――ベルトールを演じる上で、現場ではどのようなディレクションがありましたか?
日野:コミカルなシーンで「もうちょっとギャグっぽさを抑えて」という演出を受けたことがありました。というのも、視聴者目線では面白いシーンであっても、ベルトール自身は面白くしようとしてやっている訳じゃないんですよね。王としてのたたずまいから自然と出る驚きなどが、結果的にコミカルに見えるんです。すっとんきょうに「えっ、そうなの!?」って聞いちゃうところが、彼の面白さなんですよね。
――魔王としての威厳みたいなものは、演じる上では意識されていましたか?
日野:今は無理やり威厳を保とうと意識を持って演じてはいないですね。もっと若いときだったら、自分の年齢的にも、経験的にもそういうのは頑張って表現しなきゃと思っていたかもしれません。長年、さまざまな現場で先輩方から学ばせていただき、自分もたくさんの経験を積む中で自然と表現するようになっていった気がします。
――そういった表現の幅は、経験によって身に付く部分もある。
日野:仕事の経験値だけでなく、例えば私生活での発見や自分の立場が変わることによって、表現する幅もありがたいことに変わってきたかなと思います。
――私生活での経験が、芝居をする上でも活きているんですね。
日野:意識的にというよりかは、恐らく無意識的に影響しているんだと思います。例えば、独り身だった頃と2児の父になった今とでは、役への向き合い方がちょっと違うんですよ。守るべき存在ができたから、ベルトールの配下・仲間=家族をどう守っていくかという思いに、より共感できるようになった気がします。
――なるほど。声優としてのキャリアを積む中で、後輩ができたと思います。その中での変化みたいなものもありますか?
日野:ありますね。正直、後輩であり続けるほうが気は楽なんです(笑)。先輩の立場になると、なかなか失敗もできないじゃないですか。常に成功例を後輩たちに提示していかないといけないなと思うと、プレッシャーも大きいですね。逆に言えば、後輩の立場であるうちはどんどんチャレンジしていけばいいと思っています。何度失敗したって、チャレンジャーとして立ち向かっていっていいんじゃないかな。
■先輩・浪川大輔が演じる勇者は“ギャップ”が魅力
――さまざまなキャラクターが登場する本作。中でも日野さんが注目して欲しいキャラクターを教えてください。
日野:濃さで言うと、マルキュスですね。原作から印象的なキャラクターでしたが、アニメでは演じる松風雅也さんがものすごくマルキュスの魅力を引き出しているので、非常にインパクトが大きいキャラクターだと思います。
――はやくお芝居を聞いてみたくなりました。
日野:どのキャラクターもバッチリですよ。500年前にベルトールを倒した勇者のグラムも私が尊敬する先輩・浪川大輔さんが演じてくださっていて。勇者としての格好よさと、現代でも生き続け心が疲弊しきった姿のバランスが絶妙で、きっと見ている皆さんも、そのギャップに「格好いい!」と惹(ひ)き込まれると思いますよ。あとは、高橋(菱川花菜)が個人的には好きです。彼女はいい距離感で壁を突き破ってくれるんですよね。ポジティブ要素が強い子なので、「ああいう風になれたらいろいろな人に元気を与えられるんだろうな」と思えるキャラクターです。
――原作のPV収録でもご一緒だったマキナ役の伊藤さんの印象はいかがですか?
日野:マキナはベルトールを一心に支えてくれるキャラクターなのですが、伊藤美来さん本人も現場で僕のことをいろいろとサポートしてくださって。後ろでちゃんと現場を守ってくれる人がいるおかげで私も心強く、集中してベルトールとしてのお芝居ができました。
――ベルトールは2099年の世界に再臨し、動画配信者となって活躍します。日野さんは、いまから70数年後、2099年の未来に飛ばされたとしたら、どんなことをやりたいですか?
日野:正直、2099年の未来に飛びたくはないですね(笑)。どういう世界になっているのか見てみたいなとは思いますが…。僕はアナログ人間なので、行ったところで生きていける自信がないです。街の端っこのほうでプルプル震えながら、「どうやって生きていけばいいんだ…」っておびえてそう(笑)。
――例えば未来の世界でも、声優の仕事ができるならやりたいですか?
日野:どうでしょうね? それが生きる術になるならば、一筋の光が見えるかもしれないです!
――最後に作品の見どころを含めたメッセージをお願いします。
日野:非常にエンタメ性にあふれた作品で、楽しんだり、ドキドキしたり、切なくなったりと、ジェットコースターのように見ている方の心も激しく動くと思います。昨今は時の流れが早く進んでいるなと感じているのですが、それによって環境の変化も大きくなっていると思うんです。本作には、変化に順応して、何かを見つけていくというテーマも込められていると個人的には感じているので、エンタメとして楽しんでいただきつつも、変化から得るプラスを、本作を通じて見つけていただければうれしいですね。
(取材・文:M.TOKU 写真:小川遼)
テレビアニメ『魔王2099』は、10月12日よりTOKYO MXほかにて毎週土曜24時00分から放送。