2024年10月11日 18:51 弁護士ドットコム
ベンチャーキャピタル大手のジャフコグループ(本社・東京都港区/三好啓介・取締役社長)で、セクハラを受けたうえに不当な雇い止めをされたなどとして、当時契約社員だった女性(40代)の代理人が10月11日、東京・霞が関の厚労省記者クラブで会見を開いた。
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代理人によると、女性は2019年12月、忘年会から帰宅しようとしたところ、同社幹部と社員の男性2人に引き止められたあと、首を絞められ、無理やり胸を触られた。女性は会社側に被害を告発し、男性2人は謝罪して懲戒処分を受けた。
しかし、その後、女性は同社から不当な退職勧奨を受けたうえに、再契約にともなって賃金も半減され、体調を崩して雇い止めされたと訴えている。女性は現在、雇い止めは不当であるとして、女性の地位確認や安全配慮義務違反による損害賠償などを求めている。同社は「契約雇用の終了は適正だった」としており、双方の主張は対立している。
(編集部注:記事中にはセクハラや暴力の描写があります。十分ご注意の上、お読みください)
女性は2018年11月、同社に入社した。
女性の代理人である指宿昭一弁護士と髙橋済弁護士によると、以下のような出来事があったという。
女性は入社直後から、同じチームだった男性社員A氏に「一対一で飲みに行こう」と誘われたり、午前3時に何度も電話で呼び出されたりするなどのセクハラを受けるようになった。
A氏は女性に対して「俺はやめさせられないから大丈夫」などと言って性的行為を迫ったり、女性のほほにキスしたりするなどつきまといを繰り返していた。
また、同社の幹部だったB氏もA氏と一緒になり、午前0時に女性に電話して酒席に呼び出し「来なければ仕事に協力しない」などと言った。
そして、2019年12月にオフィス内で開かれた忘年会に出席した女性が帰宅しようとしたところ、エレベーターホールでA氏とB氏が女性を呼び止めた。
B氏は「もう帰るのかよ」と声をかけ、女性のマフラーで首を絞め、A氏に対して「お前もそっちを持て」などと言った。A氏は「俺はこっちのほうがいい」などと言って女性の胸を無理やり触った。
女性はセクハラ被害を会社に告発し、同社は2020年1月に男性2人に対し懲戒処分をおこなった。
しかし、女性がセクハラを告発したあと、女性が望んでいないにもかかわらず、三好社長の指示により、社員集会でA氏が謝罪させられた。指宿弁護士によると、これをきっかけに女性がセクハラ被害者であることが多くの社員に知られてしまったという。
指宿弁護士らが公開した女性のメモには、当時の様子がこう書かれている。
「セクハラの件が知れ渡って話題になった後、社内の人たちの対応が変わった」
「ランチに行くなど仲良くしていた同僚(女性)に距離を取られるようになった」
「仕事の相談をよくしていた同僚(男性)に『関わりたくない』と言われた」
女性は専門性の高い要職にあったが、2年ごとに契約更新される契約社員だった。セクハラ事件後には、1カ月の残業時間が76時間~84時間という過重労働が続き、次の契約更新時期となる2020年10月、執行役員から「退職勧奨された」という。
指宿弁護士が記者会見で公開した執行役員との会話記録には、次のような発言があったという(女性の代理人による書き起こしより抜粋)。
「(女性の性格について)いい意味での軽さ、あとはしたたかな感じ」
「(女性の)性格とかもいろいろ垣間見えるところを見てても、今後組織の中で今一緒にやっていくっていうのは(女性にとって)相当のストレスになっちゃうんだろうなって」
「この後のことを(女性と)考えたほうがいいなと思っていて、契約上は一応更新の条件を提示します」
「ただ、条件については、相当変わらざるを得ないかなと思っていて、今の契約の条件は、会社として、ちょっと出すつもりはないという」
「ちょっとハラスメントチックになっちゃうから、本当につらい話なんだけど(略)、(女性について)うちの中で異質な人を採用しました」
「無理をして一緒にやっていくっていう選択をしなくても良いんじゃないですかっていう話」
「(女性との)今までのやりとりを考えていたら、今後正直にいうと必要してませんってことっていう前提で言われた時に、結局どうしますか、それでも継続したいですかってそういうことなの」
執行役員は退職金も提示したが、女性は退職ではなく契約更新を希望し、給与を半減するという会社が提示した条件の契約を結んだ。指宿弁護士はこうした会社側の対応について、こう批判した。
「執行役員による退職勧奨の中で、何回も女性について異質だという言葉が出てきますが、具体的に業績が下がったなどの指摘はありませんでした。通常は契約を更新しない、給与を減額するなどの場合は、会社の業務に影響を与えたなどの理由が説明されます。ただ異質だということは、合理的な理由にはならないと考えています」
指宿弁護士らによると、女性は2020年12月、路上で倒れ、急性ストレス性胃炎と診断された。ハラスメントと退職勧奨を理由とする精神的不調から休職をせざるを得なくなり、約1年11カ月間の休職期間を経て雇い止めされたという。
女性側は、社内で起きたセクハラ暴力事件やその後の対応について、会社側の安全配慮義務違反があったとして損害賠償を求めている。また、一方的な給与の減額や退職勧奨、休職後の雇い止めについても、合理的な理由を欠けとして、無効を訴えている。
女性は体調不良で会見に参加していないが、「ハラスメントだけでなく、(同社社員などからの)セカンドハラスメント、(同社からの)サードハラスメントについても心を痛めています」と話していたという。
指宿弁護士らによると、同社は女性側の訴えに対し、安全配慮義務違反などは認められないなどとして、主張は対立しているという。
指宿弁護士らは会見で、ベンチャーキャピタルによるスタートアップ企業の女性経営者らに対するセクハラの多発が社会問題となっていることから、同社の執行役員が常任理事もつとめている業界団体「日本ベンチャーキャピタル協会」に対しても、今年9月、同社に対して謝罪や賠償など被害者に対する措置をとるよう要望したと明らかにした。
弁護士ドットコムの取材に対し、同社は次のようにコメントを寄せた。
「元⼥性社員は、弊社におけるセクハラ⾏為の発⽣は、会社が安全配慮義務を果たしていないことによるものであり、また、退職がセクハラ⾏為に関連した雇⽌めであるとして⼆次被害が発⽣した旨を主張し、弊社に対する損害賠償を求めています。
しかしながら、弊社は、ハラスメント防⽌に関する就業規則を定めており、従業員への周知・啓発を⾏っておりました。
また、本事案発覚後、適切な事実調査を⾏うとともに、元⼥性社員の就業に⽀障がないよう配慮措置も講じました。さらに、本件事案発覚後、弊社は本事案の発⽣を重 く受け⽌め、その防⽌を改めて社内に周知するとともに、定期的に全役職員を対象とした ハラスメント研修を実施するなど、再発防⽌に努めております。
元⼥性社員との有期雇⽤契約の更新、終了につきましても、元⼥性社員と弊社との間で⼗分な話し合いのうえ、適正に行なわれたものであり、セクハラと雇⽤契約終了との間に関連は全くございません。弊社は、これまでも、元⼥性社員との間で、本件の解決に向け誠実に協議を重ねてきましたが、双⽅の主張には隔たりがあり、和解には⾄っておりません」
【編集部より】記事の内容を一部、修正しました。(10月11日 22:45)