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『塔の上のラプンツェル』は毒親との闘い 『ジョーカー』によく似たディズニーヒロイン

2024年10月11日 12:11  日刊サイゾー

日刊サイゾー

塔の上のラプンツェル Blu-ray

 19世紀に成立したグリム童話の一編『髪長姫』を、現代的にどどーんと大アレンジ。それがディズニーアニメ『塔の上のラプンツェル』(2010年)です。日本では中川翔子(歌唱シーンは小比木麻里)が吹き替え、国内興収25.6億円のヒット作となりました。10月11日(金)の『金曜ロードショー』(日本テレビ系)では、『塔の上のラプンツェル』が放映されます。今回はその注目ポイントを掘り下げてみたいと思います。

 ディズニー版のラプンツェルは王家のお姫さまとして生まれましたが、幼いころに400歳の老婆ゴーテルに拐われてしまいます。ラプンツェルの美しい髪には、ゴーテルを若返らせる不思議な力があったからです。ラプンツェルはゴーテルを実の母親と信じて育ち、高い塔の上に閉じ込められて暮らします。

 18歳になったラプンツェルが「外の世界に行ってみたい」と言っても、ゴーテルは「危ないからダメ」「母親の言うことに従えないの?」と許そうとはしません。ゴーテルは誘拐犯であるのと同時に、恐ろしい「毒親」でもあったわけです。

『ルパン三世 カリオストロの城』によく似た展開

 塔の外に出ることができずに悶々としていたラプンツェルの前に現れたのが、大泥棒のフリン・ライダーです。ラプンツェルはフリンに頼んで、外の世界へと連れ出してもらいます。

 塔の中に幽閉されていたお姫さまを盗賊が救い出し、追いつ追われつの大騒動になるという展開は、宮崎駿監督の劇場デビュー作『ルパン三世 カリオストロの城』(1979年)によく似ています。ちなみに原作となるグリム童話では、ラプンツェルのもとに現れるのは王子さまです。王子さまが夜な夜な塔に忍び込み、ラプンツェルと楽しいことをするエロいお話です。ディズニー版とはまるで違います。

 製作総指揮のジョン・ラセターは、宮崎アニメの大ファンですし、『カリオストロの城』もヨーロッパの童話をモチーフにした東映アニメ『長靴をはいた猫』(1969年)の焼き直し要素が強いので、似てしまったようです。『カリオストロの城』のクラリス姫をより現代ふうにアクティブにしたのが、ラプンツェルだと言えるでしょう。

毒親がやたらと出てくるディズニーアニメ

 映画はやはり悪役のキャラが立っていると盛り上がります。ディズニーヴィランであるゴーテルは「外の世界は危険がいっぱい。あなたのために言っているのよ」とずっとラプンツェルに言い聞かせて育てたわけです。洗脳ですよ。

 それでもラプンツェルが「やっぱり外に出たい」と訴えると、「苦労して育てたのに」「どーせ、私は悪者ですよ」と自虐的な言葉を並べて、ラプンツェルを黙らせてしまいます。会話を続かなくさせるのが、うまいんですよ。ゴーテルみたいな毒親、けっこう身近にいるんじゃないでしょうか。

 ディズニーアニメって、振り返ってみると毒親がやたらと多いんですよね。『白雪姫』は母親に若さと美しさを妬まれて、毒殺されます。『シンデレラ姫』の母親は姉たちをかわいがり、シンデレラは召使い扱いされます。

 いやいや、『白雪姫』は継母で血が繋がっていないだろう、と思われる方もおられるかもしれません。でも、グリム兄弟が書いた初版本の『白雪姫』は、実の母親が美しく成長した我が子・白雪姫を殺害しようとします。あまりにも残酷すぎるとグリム兄弟にクレームが寄せられ、第二版から継母という設定に書き換えられたそうです。血が繋がっているがゆえの近親憎悪でしょうか。毒親、まじで怖いっす。

 幼少期に養育者とどのように接して過ごしてきたかは、成長してからもその人の中で人間関係のロールモデルとしてずっと残るため、毒親との歪んだ関係性で育った子どもは大人になり、社会に出てからも苦労することが知られています。毒親に育てられたことから、「自分も毒親になるのでは」と悩む人は少なくありません。

 毒親のせいで悲惨な目に遭った話題の映画キャラクターといえば、ホワキン・フェニックスが演じた大ヒット映画『ジョーカー』(2019年)でしょう。ジョーカーことアーサーは、養子としてメンヘラ系の女性ペニーに引き取られたものの、ペニーはすぐに育児放棄。さらに恋人が幼いアーサーを虐待しても、知らんぷりをしていました。アーサーが緊張すると笑いが止まらなくなるという神経症は、そうした幼少期の体験の影響もあるのではないかと思います。

 そんな過去を知らずに、アーサーは認知症ぎみになった母ペニーの介護をせっせと続けていたわけです。事実を知ってブチ切れて、極悪ピエロのジョーカーになっちゃうのは同情の余地があります。

 なので、大人になって毒親から離れて暮らすようになっても、なかなか毒親の影響下から逃れられないのが毒親チルドレンの実情です。塔を出たラプンツェルが好奇心旺盛に酒場に乗り込み、荒くれ者たちと仲良くなるのは、ゴーテルに育てられた反動もあるんじゃないでしょうか。映画では描かれませんが、お城に戻ったラプンツェルが、その後まっとうに暮らせたのかも気になるところです。

毒親研究のために犠牲になった動物たち

 毒親について研究した米国の心理学者に、ハリー・ハーロウ(1905年~1981年)がいます。赤ちゃんザルを使って、毒親に育てられた子どもがどうなるのかを動物実験したのですが、その実験内容が強烈でした。

 母ザルから引き離した赤ちゃんザルを、針金で作った人工母、柔らかい布で作った人工母にそれぞれ哺乳瓶を備え付けて育てたそうです。その結果、冷たい針金母で育った赤ちゃんザルは精神を病み、自傷行為に走ったそうです。一方の布の母に育てられた赤ちゃんザルは多少マシだったものの、無気力ザルに育ったそうです。それまで赤ちゃんは無菌状態で育てるのがベストと考えられていたのが、スキンシップの重要さが知られることになりました。

 ハーロウはそうした一連の実験だけでは終わらず、定期的に針が飛び出すなどの仕掛けのある代理母(=モンスターペアレント)を使った実験も行っています。赤ちゃんザルはいくら痛い目にあっても、代理母に抱きつこうとしたそうです。ハーロウの実験があまりに残酷だったことから、米国では実験動物たちに対する動物保護運動が始まることにもなりました。

 ハーロウの代理母実験は、『愛を科学で測った男 異端の心理学者ハリー・ハーロウとサル実験の真実』(白揚社)などに記述されているので、興味のある方は読んでみてください。「愛とは何か」を科学的に証明しようとした心理学者の尋常ではない情熱が伝わってきます。

 ディズニーアニメは基本的に、どの作品もハッピーエンドで終わります。それゆえに安心して楽しむことができるわけですが、現実世界には今も毒親に虐待されている子どもたちがいること、毒親研究の犠牲になったアカゲザルたちがいたことも覚えておいてください。

 今夜放送の『塔の上のラプンツェル』のクライマックスを飾るスカイランタンは、犯罪者に誘拐された子どもたち、毒親に苦しむ人たち、動物実験の犠牲になった生き物たち、すべてを慰めるためのものなのかもしれません。