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なぜ顔だったのか?「新テニスの王子様」のヘアゴム発案者に聞く

2024年10月07日 18:36  コミックナタリー

コミックナタリー

「新テニスの王子様 The Prince Goes Abroad 総集編 アクセサリーゴムコレクション」のサンプル。
「新テニスの王子様 The Prince Goes Abroad 総集編 アクセサリーゴムコレクション」をご存じだろうか。2023年に開催された「新テニスの王子様」と東京・ナンジャタウンのコラボイベント「新テニスの王子様 The Prince Goes Abroad 総集編」のグッズの1つとして誕生した商品だ。その存在が知られるや否や、「テニプリ」ファンを中心にネット上では話題沸騰。顔のみにフォーカスした斬新なデザインから、XなどのSNSでは「生首ヘアゴム」と呼ばれて親しまれ、イー・ガーディアンが発表した「SNS流行語大賞2023」にもノミネートされるなど、世間の注目を浴びた。その後も「アクセサリーゴムコレクション」の新作や類似アイテムが続々と登場。たびたびXのトレンドワードに浮上し話題をさらっている。

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いったい全体、なぜキャラクターの顔をアクセサリーにしようと考えたのか。「アクセサリーゴムコレクション」の発案者であるバンダイナムコアミューズメントの渡辺絢子氏、笠原千佳氏にインタビューを行い、その誕生秘話に迫るべく、企画の成り立ちから商品化に至るまでの話を聞いた。

取材・文 / カニミソ

■ 話を聞いたのはこの人
□ 渡辺絢子(ワタナベアヤコ)氏
事業自体は多岐にわたるが、主にナンジャタウンでのアニメ・マンガ・ゲームなどのキャラクター作品とコラボしたタイアップイベントの企画・制作を担当している。「テニスの王子様」では柳生比呂士推し。

□ 笠原千佳(カサハラチカ)氏
バンダイナムコアミューズメントが展開するナンジャタウンやバンダイナムコ Cross Storeキャラポップストアの商品・物販・ミニゲームなどの商品開発に携わる。「テニスの王子様」では桃城武推し。

■ すべての始まりは“お面”だった
──いきなり本題となってしまうのですが、「新テニスの王子様 The Prince Goes Abroad 総集編 アクセサリーゴムコレクション」はどういった経緯で生まれた商品なのでしょうか。

渡辺 2022年3月から1年を通して行ったお誕生日企画「新テニスの王子様 The Prince Goes Abroad」が発端ですね。そもそも私たちがまだ入社していない頃……10数年前になるのでしょうか。ファンとして遊びに行っていた時代からナンジャタウンと「テニスの王子様」はコラボを行っていて、そこでキャラクターのお面が出ていたんです。「テニプリ」界隈では、そのお面を使ってファンの皆さんが遊んで楽しむという文化が根付いていて。

──具体的に皆さん、どんなふうに楽しまれていたのでしょう。

渡辺 例えば自分の好きなキャラクターだけではなく全員分集めたり、お面自体を部屋の扉に貼って垂らしたり、紐でつなげて飾ったり、キャラクターの身長のところに目星をつけて貼ったり。そんなふうにいろいろな形で楽しまれていて、反響もすごくよかったので、これだけで終わらせるのはもったいないと、2023年にもう一度「新テニスの王子様 The Prince Goes Abroad」でお面を作りたいとなり、版権元さまにご相談しました。

笠原 「新テニスの王子様 The Prince Goes Abroad」というのが、アニメ「新テニスの王子様U-17 WORLD CUP」とナンジャタウンとのコラボイベントでして。日本代表の中学生メンバー14人にスポットを当て、各キャラクターの誕生日に合わせて展開していきました。お面は学校ごとのミニゲームの景品として制作しました。

渡辺 それから「新テニスの王子様 The Prince Goes Abroad」シリーズの総集編として、キャラクター全員が揃うイベント「新テニスの王子様 The Prince Goes Abroad 総集編」を開催することになって「新しく何を作ろう」と考えたときに、「じゃあこのお面を小さくするのはどうか」という話が持ち上がりました。

──……小さくする?

笠原 小さくすれば気軽に身に着けられますし。「テニプリ」はぬいぐるみなどたくさんのグッズがあるので、思い思いのグッズにつけられたほうがいろいろアレンジできるんじゃないかと、汎用性の高いヘアアクセサリーである「ヘアゴム」という形で提案し「アクセサリーゴムコレクション」ができました。

──なるほど。普通に考えたら「新テニスの王子様 The Prince Goes Abroad 総集編」の描き下ろしイラストのお顔を使ってヘアゴムにしそうですけど、「アクセサリーゴムコレクション」はお面を小さくしたものであるから、お顔の絵柄が違ったんですね。

笠原 実は「アクセサリーゴムコレクション」には“お面の跡”があるんですよ。

渡辺 お面にあるゴムを通す穴の部分を残しているんです。

──あ! 本当だ!

渡辺 お面をそのまま小さくして再現したという。こだわりですよね。裏話で「ヘアクリップ」の案もあったんですけど、そうしてしまうと髪にしかつけられないとか、遊びとして制限されてしまうので、「今回は『ヘアゴム』の形で一旦世に出しましょう」と。それがむしろ功を奏しました。

■ あのとき誰もおかしいことだと思っていなかった
──「アクセサリーゴムコレクション」を最初に社内で提案したとき、部署の皆さんはどのように反応されましたか?

渡辺 全然、なんでしょうね。あのとき誰もおかしいことだと思っていなかったです。

笠原 お面を再現するという前提があるので、「全然いいんじゃない」って。そんなに変とは思われず好印象でした。

渡辺 まず私が笠原さんから「ぬいぐるみにつけられるものにしたい」という案を聞いたときも、「すごくいいじゃん、作ろうよ」って返しました。

──コラボイベントのグッズって主要キャラクターだけになりがちですけど、45人ものキャラクター全員分グッズ化するのは相当大変でしょうし、作品愛がないとできないことだなと思いました。商品化に至るまで苦労されたことなどはありますか?

渡辺 こちらに関しては苦労したところはほぼないです。カットラインをきれいに切り抜くという点にはこだわってもらいましたが。例えばキャラクターによっては髪の毛がツンツンしているんですけど、そこもお顔そのまま……お面通りに細かくギザギザに切ってもらいました。

笠原 キャラクターグッズには見えるところに版権表記を入れる必要があるんですが、そのために版権表記用のスペースを空けるのではなくて、お顔に沿って変な形にならないようにするとか。見た目的にきれいになるように、違和感ないようにというのは、気を付けて調整しました。

──大げさではなく「アクセサリーゴムコレクション」は一大ムーブメントを生み出したと言っても過言ではないと思っているのですが、実際に反響を受けていかがでしたか。

笠原 お面を再現しつつ、いろいろ遊びができるようにと制作したのが功を奏したんだと思います。今までミニキャラとかではよくヘアゴムが出ていたんですけど、等身イラストの顔のみをフィーチャーした商品はなかったので、そこがおそらく皆さんに響いたのではないでしょうか。

渡辺 お面だと大きいので、お持ち帰りも大変だったでしょうし。フランクに遊べるものになればと思っていましたが、まさか「生首ヘアゴム」という愛称もいただいてバズることになるとは想像もつかなかったです(笑)。ただやっぱりここまで盛り上がったのは、お面で文化を築き上げた「テニプリ」界隈の皆さんのおかげですね。

笠原 懐の深さと創作意欲がさすがですよね。

■ 会社の理念に基づき、モノだけではなくコトを作る
──お話をお伺いしていて、「ファンの方にどう楽しんでもらうか」という気持ちをすごく大切にしてらっしゃるんだなと感じました。今回の「アクセサリーゴムコレクション」のようなアイデアは、普段どういったときに思い浮かぶものなのでしょうか。

笠原 「何を作ったらファンの方々に喜んでもらえるんだろう」というのは、常に話し合っていますね。私のほうでは「これはこういうふうにしたら、もっと刺さるんじゃないか」とか、パッと思いついたアイデアをメモしておいて。いざ商品提案のときに「じゃあこれをこうすれば形にできるね」って意見を交換し合って、考えをアップデートするというのを常日頃から行っていますね。

渡辺 私の場合は自社・他社関係なく、よいものを見つけたらレポートにまとめていて、社内のみんなに共有したりとか。自分たちだけの中で完結せずに、いろんな人たちと話し合いながら常に作っています。もちろん私たち自身も遊びに行ったりしたときに、「どういった商品が出てるのか」とか、「それを持ってお客さまはどういう遊びをしているのか?」というところは、自分たちがきちんと遊んで楽しみつつ、常に考えている部分ではあります。

──いろんなところに遊びのアンテナを張ってらっしゃるんですね。

渡辺 商品開発もタイアップイベントの企画・制作もそうなんですけど、弊社はやっぱり“遊びを作る会社”なんですよね。自分たちが遊びを好きでないと、遊び心があるものは生まれない。アクリルスタンド、缶バッジをただ出すだけじゃなくて、その先どういうふうに使ってもらえるかというところが、一番考える肝になってくる。「アクセサリーゴムコレクション」はファンの力を借りながらにはなりましたが、そこがしっかり確立できた1つの商品……というか、もう“遊び”ですよね。遊びとして確立できたのは本当にうれしかったなと思います。

笠原 よく“モノ売り”だけになりがちですが、“コト売り”としてそのあとも遊んでいただけたので。ちゃんと会社の方針にあった商品が作れたかなと思っています。

渡辺 これからも作品のファンの皆さんの身近に感じていただける、作品とファンの方々をつなぐ1つの橋渡しになるようなイベントや商品をずっと展開し続けていきたいですね。

■ 「新テニスの王子様 The Prince Goes Abroad 総集編 アクセサリーゴムコレクション」ギャラリー
(c)許斐 剛/集英社・NAS・新テニスの王子様プロジェクト