2024年10月06日 09:40 弁護士ドットコム
千葉県四街道市立保育所で、当時3歳だった男児がホットドッグをのどに詰まらせて重い障害が残ったとして、男児と家族が慰謝料を求めて訴えていた裁判で、東京高裁は9月、四街道市に約1億800万円の支払いを命じた。
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一審判決を取り消した逆転勝訴となったこの裁判。判決では市側の責任をどのように判断したのだろうか。
この事故は2017年2月、保育所でおやつに出されたホットドッグを誤嚥し、一時心肺停止になったというもの。男児は一命はとりとめたものの、寝たきりになるなど重い後遺症が残った。
当時、保育所はどのような状況だったのだろうか。判決文ではまず、次のように事実を認定している。
・男児は運動や言語に発達の遅れがあったことから、1歳児クラスで保育されていた。健康に問題はなかった。
・男児の噛む力が弱かったため、保育所側の保育経過記録には「パン、果物などそのままでも手で握り、口に入れることができるようになる。小さく刻むと、喉に詰まることがある」などと記載。また、両親も保育所との面談で、硬いものが食べられないなどと伝えていた。
・男児の担任保育士であったAさんは「パンが好きでどんどん口に入れてしまう」、同じくBさんも「パンを小さく刻んでしまうと、次々に口に運んでしまい、急いで食べて咳き込むことがあった」などと認識していた。
判決では、さらに事故当日の経過を次のように認めている。
・事故当日、おやつとしてホットドッグと牛乳が提供された。ホットドッグは、キャベツの千切りを皮付きの粗挽きウインナーソーセージを炒めて味付けしたものをパンに挟んだものだった。ホットドッグは半分に切られていたが、ウインナーは長さ約9センチで、縦半分にきられておらず、表面に切れ目も入っていなかった。
・男児はホットドッグを食べたことはなかった。
・ホットドッグがおやつとして出された当時、男児を含む10人の園児に対し、AさんやBさんを含む保育士3人と実習生1人が配置されていたが、ホットドッグが出された直後、Bさんが現場を離れ、保育士2人と実習生1人になった。
・Bさんの机に座っていた園児1人が食事前から泣いていたため、Aさんの隣に移動させた。男児は長方形の机の長辺を挟み、Aさんと向かい合っていた。
・Aさんは、泣いている園児の背中をさすりながら手を伸ばし、男児にホットドッグを食べさせていた。ホットドッグは食べやすい大きさにするため、手でちぎり、男児はこれをそのまま口に入れていた。Aさんは男児以外の園児2人にも同じようにホットドッグをちぎって与えていた。
・Aさんがホットドッグの4口目を男児に手渡した後、隣で泣いている園児に顔を向けて食べるように声をかけていたところ、突然、男児が椅子から立ち上がり、息を荒げて苦しそうにした。
・保育所は緊急通報をおこない、男児の背中を叩いた。保育所側は、救急隊員に「約2センチのソーセージを吐き出したが、食べていたソーセージはもっと長いことからまだ詰まっている可能性がある」と訴えた。
・救急隊員は、ただちにドクターヘリを要請し、救急車に収容した。再度確認したところ呼吸停止状態にあり、その後、心肺停止状態になった。救急隊員は心配蘇生をおこない、病院に移送されて治療を受けたが、低酸素性能症と診断され、現在も寝たきりの状態で療養している。
東京高裁の判決のポイントは、市側の責任を認めた点だ。
厚労省は2016年、「教育・保育施設等における事故防止及び事故発生時の対応のためのガイドライン」(以下、ガイドライン)を取りまとめている。ガイドラインでは、過去に誤嚥や窒息などの事故が起きた食材や、食事を介助する際の注意点が指摘されている。
判決文によると、このガイドラインは事故が発生した保育所にも提供され、保育士らも閲覧していた。また、保育所はこのガイドラインの内容をもとに、危機管理マニュアルを作成していた。マニュアルには、ウインナーやソーセージについて、注意する食材とはされていなかった。
また、当時消費者庁の発表では、2010年から2014年まで、14歳以下の窒息死事故が623件あり、そのうち食品による窒息事故は103件だった。ホットドッグや菓子パンによるものは4件あった。
こうしたことから、判決文では、保育所の所長ら管理職員には、窒息のおそれがある食材としてパンとウイナーがあることや、現に死亡事故が起きていたホットドッグの危険性について、調理担当者や保育士に十分認識させる必要があったと指摘した。
誤嚥防止のためには、「ホットドッグを小さく切り分ける」「皮付きのウインナーを提供するのであれば縦半分に切る、表面に切れ目を入れる」など、提供方法に十分配慮するよう調理担当者や保育士に周知、実践させる義務があり、職務上の注意義務に違反があったと結論づけた。
男児や家族の代理人はこの裁判の中、保育所で提供されたホットドッグの再現実験もおこなっている。
その結果、提供されたホットドッグは細くちぎるのが難しく、皮付きのあらびきウインナーの皮は子どもの狭い気道に張り付いてふさいでしまう可能性が高いと結論づけている。判決でも、ホットドッグは厚さ5センチ、直径1.8センチ程度で、小さくちぎってたという市側の主張を否定した。
男児側の代理人弁護士3人は判決を受けて10月3日、東京・霞が関の司法記者クラブで会見を開いた。代理人の一人、千原曜弁護士はこの事故について次のように語った。
「誤嚥事故を防ぐために、厚労省などから食材の選定や提供方法など、詳細なマニュアルが出ています。これを守っていれば基本的に事故は防げるという形になっています。しかし、マニュアルの内容を知っていながら、保育所ではほぼ守られていなかった。そのために不幸な誤嚥事故が起きてしまった。
一方で、現場で保育士の数が足りないということも、一つの要因になっていると思う。この事故でも、男児たちに食事をあげている時、隣の子が泣いており、振り返ったら男児が誤嚥していた状況がある。保育士の配置は十分だったのかということを強調したいです」