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「大きなストレス」と“体重”の影響。安定感は抜群も、ポルシェは弱点多し?【ロッテラー&マコウィッキ特別対談(1)】

2024年10月05日 11:30  AUTOSPORT web

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ポルシェ・ペンスキー・モータースポーツのアンドレ・ロッテラーとフレデリック・マコウィッキ。カメラを向ければ、このとおりサービス精神旺盛だ
 2024年のWEC世界耐久選手権も、最終戦・バーレーンでの8時間レースを残すのみ。ハイパーカークラスのタイトル争いでは、ドライバー、マニュファクチャラーともにポルシェがリードし、フェラーリとトヨタが追う展開となっている。

 ポルシェが高い安定性を見せているシーズンとも言えるが、その戦いの内情はどのようなものなのか。今回はポルシェ・ペンスキー・モータースポーツから参戦する、日本に馴染み深いふたりの対談から、それを探ってみたい。

 ご登場願ったのは、ポイントリーダーの6号車ポルシェ963のアンドレ・ロッテラー、そして僚友5号車のフレデリック・マコウィッキである。かつて日本のトップカテゴリーを戦ったふたりは、いまや年齢的にもそれぞれのクルマを引っ張るリーダー、というポジションを担っている。

■「僕らは決して最速ではない」「総合力はトヨタが一番」

──6号車の優勝を筆頭にポルシェ勢が表彰台を独占するなど、今シーズンの開幕戦カタールでは、ポルシェ963の圧倒的な速さがとても印象的でした。

フレデリック・マコウィッキ:カタールのコース(ルサイル・インターナショナル・サーキット)が、僕たちの963に合っていたのは事実だ。路面がかなりフラットだったので車高を下げることが可能になり、それによって963は高いダウンフォースを得ることができていた。

アンドレ・ロッテラー:確かに僕らはカタールで速かったけれど、それは車高を下げることができたからだけではない。クルマのセットアップもかなりうまくまとめることができていた。でも、カタールで苦戦してもル・マンでは速かったクルマもあった。ル・マンに特化して設計されているクルマが少なくないんだなと思ったね。

マコウィッキ:ル・マンはカタールよりも路面がバンピーなので、車高に関してはマージンをとらなくてはならなかった。このカテゴリーでは車高が1mm違うだけでダウンフォースもラップタイムも大きく変わってくる。それもあってル・マンでの僕らのクルマのダウンフォースレベルはカタールほどではなかったけど、クルマのフィーリング自体は決して悪くなかった。昨年のル・マンはバランスも良くなかったから、それと比べるとかなり進化したと言えるね。

ロッテラー:リザルトを見てもらえれば分かると思うけど、僕ら6号車が優勝したのは実はカタールだけなんだ(※この対談後、6号車は第7戦富士でシーズン2勝目をマーク)。僕らは決して最速ではないけれど、もっともミスやトラブルが少なく、ここまで安定してシーズンを戦ってきている。その結果として、シーズンをリードすることができているんだと思う。

マコウィッキ:個人的には、今シーズン、総合力に関してはトヨタが一番だと思ってる。彼らは予選が良くなくても、決勝では確実に順位を上げてくるからね。僕たちの963も確かに速いと思うし、全体的にコーナリングスピードは高いんだけれど、トップスピードの面でいつも少しだけライバルに負けている。

 たとえば今年のル・マン24時間では最初と最後のセクターは速かったけれど、セクター2の長いストレートでは最高速がライバルより5km/h低かったんだ。理由はハッキリとは分からないけれど。昨年と比べると、自分たちが遅くなったというよりも、ライバルが速くなったように感じる。ストレートでライバルのすぐ後ろについてトゥを使っても、簡単には抜くことができないんだ。

ロッテラー:そうだね、ル・マンではトップスピードが伸びなかった。僕たちの6号車は7~10km/hくらい低かった。クルマの挙動自体は決して悪くなかったんだけど。

マコウィッキ:ル・マンだけでなく、どのサーキットでもトップスピードは少しずつ負けている。1周のラップタイム自体は同等でも、トップスピードが伸びないから決勝ではオーバーテイクが難しい。もし、レースのことを考えなければ、セッティングで5km/hくらいは補えるかもしれないけど。

ロッテラー:あと、体重もかなり影響していると思うよ。たとえば、ドリス・ファントール(15号車BMW MハイブリッドV8)は、僕やケビン(・エストーレ)よりも体重が20kgくらい軽い。BoPによってクルマは2~5kgくらい車重が変化するけれど、ドライバーの体重が18kgも違えば、それはとてつもなく大きな差になる。ル・マンでは、10kg違うと1周で0.4秒近くラップタイムが変わってしまうんだ。

マコウィッキ:アンドレが言うように、体重はかなり大きく影響する。これは、今後に向けてレギュレーションで考慮すべき要素だと思うね。

ロッテラー:ただ、ストレートスピードに関して言うと、今回富士でFP1を走った限り、レースではル・マンほど大きな影響はないように思う。相変わらずセクター1とセクター3のバランスをとることは簡単ではないけど、クルマ自体のバランスは決して悪くない。充分に戦えるはずだ。

■“LMGT3化”が及ぼしたレースの変化

──今シーズンはクラス構成が大きく変わり、これまでのLMGTEアマがLMGT3へと置き換わりました。今までよりも速度が低いクルマと一緒に走ってきて、どのような違いを感じていますか?

ロッテラー:そうだね、LMGTEからLMGT3になって、オーバーテイクは少し難しくなったと思う。トップスピード自体は低くなったけれど、僕らのクルマも決して速くはないから。

 それにLMGT3はABSがあるから、アマチュアドライバーであってもブレーキをロックさせることなく、コーナーのかなり奥まで勢い良く突っ込んでくる。だからコーナーの進入で抜かすことはかなり難しくなったし、かなり気をつけなくてはならない。その点については、正直大きなストレスを感じるよ。

マコウィッキ:LMP1の時代は、(ル・マンでもっとも低速の)アルナージュなんて簡単にGTを抜かすことができたのに、今ではそうはいかない。LMGT3同士でかなり激しく戦っているし、なかなか楽には抜けないよ。

ロッテラー:ル・マンではLMP2も走っていたけれど、むしろLMP2の方が一緒に走りやすいと思った。コーナリングスピードはそれほど大きく変わらず、ポルシェ・コーナーなんてほぼ同じスピードだったし。

マコウィッキ:LMP2にトップドライバーが乗っている時なんて、僕らハイパーカーよりコーナーが速いことも少なくなかった(笑)。だから、前を塞がれるようなことはあまりなかったし、少し待てばストレートでは抜くことができた。LMGT3を抜くときの方が神経を使ったね。

※後編(https://www.as-web.jp/sports-car/1135841)へつづく

■Profile
アンドレ・ロッテラー:1981年11月19日生まれ、ドイツ・デュイスブルク出身。欧州でステップアップ、ジャガーF1のテストドライバーも経験した後、2003年に来日。全日本GT選手権/スーパーGT、フォーミュラ・ニッポン/スーパーフォーミュラに参戦し、スーパーGT・GT500では2006年と2009年にタイトルを獲得。2011年にはフォーミュラ・ニッポンを制した。アウディから出場したル・マン24時間レースでは、2011、2012、2014年と3度総合優勝に輝いている。

フレデリック・マコウィッキ:1980年11月22日生まれ、フランス・アラス出身。欧州のGT選手権を中心にキャリアを重ね、2013年に来日してホンダHSV-010GTでスーパーGT・GT500クラスへ参戦。翌年からポルシェと契約するも、シーズン途中から再びGT500にエントリーした。2019年には三度来日、ニッサンGT-Rでフル参戦。WECには初年度の2012年からGTカテゴリーに参戦し、2022年にはル・マンで悲願のクラス優勝を果たす。2023年より、ポルシェ963のドライバーを務める。