2024年10月05日 10:10 弁護士ドットコム
10月1日から郵便料金が値上がりした。今の時代はスマホ1台あれば他人とすぐに情報を交換できるが、日常の連絡を郵便に頼らざるを得ない人もいる。それが自由を制限された刑務所の受刑者たち。今回の値上げに塀の中からは悲鳴の声が上がっている。(弁護士ドットコムニュース・一宮俊介)
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日本郵便は10月1日から、▽はがき63円→85円▽定形郵便物・25グラムまで84円、50グラムまで94円→50グラムまで110円▽レターパックライト370円→430円ーーなどと郵便料金を変更した。
値上げの理由について日本郵便は、郵便物数の減少や人件費、燃料費の上昇などを挙げ、「今後とも、郵便サービスの安定的な提供を維持していくためには、郵便料金の引上げをお願いせざるを得ない状況にあります」と説明している。
総務省の資料によると、国内の郵便物数は2001年度の262億通をピークに毎年減り続けており、2022年度は144億通だったという。
背景には、インターネットやSNSの普及、水道やガスなどの各種請求書のデジタル化などがある。
スマートフォンがインフラ化している現代において、個人間で連絡を取り合う手段として郵便を利用する人が少なくなるのは当然の流れかもしれない。
そんな中で例外的な存在が、刑務所や拘置所で服役している受刑者たちだ。
受刑態度によって電話の利用が許されることもあり、親族であれば面会することもできるが、家族が住む場所から遠く離れた刑事施設に収容されることも珍しくなく、外部との連絡を手紙に頼る囚人は多い。
そんな彼らに今回の郵便料金の値上げについて尋ねると、悲鳴にも似た声が返ってきた。
「何もかもが物価高騰で値上がりしているこの状況で、郵便料金が値上がりしてしまうのも仕方ないのかなと私はそう受け止めるように心掛けてはいますが、定形郵便物の郵便料金が84円→110円へと一気に上がったのは正直きついですね」
九州地方の刑務所で服役する30代の男性受刑者がそう吐露するのには金銭的な事情がある。
受刑者は日々の刑務作業によって「作業報奨金」を得られるが、その額は社会とは比較にならないほど低い。
作業の内容や上げた成果などによって変わり、1時間あたり7円~56円ほどだ。法務省によると、作業報奨金の1人1カ月あたりの平均支給計算額は、2022年度は約4537円だったという。
郵便料金と比較すると、値上げ分の報奨金を得るために約4時間分の作業が必要になる受刑者もいるとみられる。
この男性受刑者は現在、「6等工」という上から6番目の基準にいるといい、1日約7時間の作業で月2000円前後の報奨金を得ている。
ただ、刑務所に入った時に持っていたわずかなお金はすでになくなった。唯一連絡が取れていた姉から手紙の返信が来なくなり、知人らもいないため、外部からの金銭の差し入れも期待できない状況だ。
男性は他の受刑者を代弁するように塀の中の状況を次のように説明する。
「物価高騰で刑務所内でも日用品等が値上がりしている中で、社会との唯一の連絡手段である切手の料金が上がるのは、かなりの出費であり痛手です」
「今回、郵便料金が上がったことで刑務所内では社会へ手紙を出す受刑者の人達の数が減ったりする等の影響が出るんじゃないかなと私は考えています」
「お金無い人はきついと思いますよ」
東日本の少年刑務所に服役中の20代の受刑者は 手紙でそう感想を送ってきた。
現在、時給21円の水準で刑務作業に取り組み、月に得られる作業報奨金は約2400円だ。
同じ工場で作業をしている受刑者の中には、郵便料金の値上げに伴って「手紙を送らない」と話す仲間がいたという。
一方、長期刑の受刑者を収容する刑務所のある受刑者は月に5000~6000円ほどの作業報奨金を得ているといい、値上げについて「私の周りの受刑者で不満に思っている人はいません」と明かす。
ただ、下着や便せんなど刑務所で購入できる物品の価格が社会にいた時よりも高いことに納得できない様子だ。
”臨時収入”を得るため、家族の協力を得て獄中からフリマアプリで私物を出品したが、買い手がつかなかったという。
この受刑者によると、受刑者でも政府による非課税世帯への給付金を受給できるといい、「(給付金が)なくなったら(作業報奨金以外の収入は)ゼロですね」と話した。