2024年10月05日 09:30 弁護士ドットコム
首都高で車の通行を遮断するようにトラックが停まり、その運転手が外に出て、後続車に何か叫びながら暴れる——。9月、X(旧Twitter)に投稿された動画が拡散し、運転手が勤務していた運送会社が謝罪する事態となりました。
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実際に動画を見ると、高速道路上でトラックの運転手がトラックで車線を塞ぎ、後続車のドアをむりやり開けようとして暴言を吐いたり、暴れたりしているように見えます。さらに両車線とも後続車両も通行できなくなっており、渋滞が発生しているようでした。
弁護士ドットコムニュースで、トラック運転手の刑事責任について記事を配信すると、大きな反響がありました。その中には、自分がこのような事態に巻き込まれた場合、このトラック運転手にどのような法的責任を問えるのか、と疑問を持つ人もいました。
そこで、民事ではどのような責任が問われる可能性があるのか検討してみたいと思います。
まず検討したいのが、トラック運転手が絡んだ黒い自動車の運転手(直接の被害者と考えられるため、「被害者」とします)に対する請求です。
車を傷つけられた場合には、車の修理代等は請求できるでしょう。愛車の修理の間、代車が必要になった場合には、代車料もある程度(通常代車として必要と認められる金額の範囲で)賠償されると思われます。
また、被害者は、怒鳴られたり、窓越しに殴りかかられたりしているため、不法行為(民法709条)に基づく慰謝料請求(同法710条)も可能と思われます。
なお、弁護士を頼んだ場合には、弁護士費用も相当な範囲で損害賠償請求が可能です。
次に、黒い車の後ろで待たされた人たちに対する請求について考えます。
たとえば、
(1) 目的地への到着が遅れたことで生じた損害の賠償(例、大事な商談に間に合わず、商談が破談になったとか、面接に間に合わずに採用してもらえなかったとか)
(2) 長い間待たされたことで体調がおかしくなったことへの賠償(病院費用など)
(3) 慰謝料
などが考えられます。
(1)については、結論から言えば、損害賠償請求は非常に難しいと思われます。
待たされた人達が、トラックの運転手に対して損害賠償を請求する場合も、被害者と同じように、民法上の不法行為責任を追及することになります。
しかし、不法行為に基づく損害賠償の範囲は行為と相当因果関係のある損害に限定されます(民法416条、最判昭和48年6月7日)。今回のケースでは、この相当因果関係の範囲にあることの立証は非常に困難だと予想されるからです。
(2)の病院費用などは一見すると請求できそうなのですが、トラックの運転手による妨害のために具合が悪くなった、という立証は相当に難しいです。しかも金額もそれほど高くないでしょうから、現実的ではないでしょう。
(3)については、しばらく待たされてイライラした、という程度だと、慰謝料請求の対象となるほどの精神的損害が発生しているとは認められないと考えられます。
記事を配信すると「懲戒解雇は免れないだろ」「懲戒解雇は当然やし、会社から損害賠償を請求されても文句は言えない」というコメントもありました。
懲戒解雇の要件は非常に厳しいです。「懲戒」ということ自体、(ⅰ)懲戒事由が就業規則に明示されていること、(ⅱ)懲戒事由の内容が合理的であること、(ⅲ)労働者の行為が懲戒事由に該当すること、(ⅳ)懲戒処分の相当性、といった要件を満たさなければなりません。
そのうえで、懲戒解雇は懲戒の中でも最も厳しい処分ですから、(ⅳ)の相当性はなかなか認められず、簡単にはできません。
しかし、今回は会社のロゴが入ったトラックで、日本中に知られるような問題行動を起こしてしまったことや、勤務先が運送会社で、運送会社の運転手として、まさに運転している中での行動と思われることから、運送会社の信用を著しく失墜させているといえます。
もちろん、会社の懲戒規定がどのようになっているのかは分かりませんし、ニュースに出ていた事情以外にも様々な事情があるでしょうから、一概に断言することはできませんが、一般論としては懲戒解雇の可能性はありそうです。
トラック運転手の行為は、会社の信用を失墜させています。また、会社に対して抗議の電話が殺到するなどして、会社の業務にも悪影響があったかもしれません。
こういったことから生じた損害については、会社からトラック運転手に対して、損害賠償請求がされる可能性があります。
なお、トラック運転手が会社から解雇された場合に、退職金がある場合でも、退職金不支給とすることが許されるのか、別途問題となります。
この点については、鉄道会社の職員が痴漢で懲戒解雇されたケースが参考になります。このケースでは、この職員はそれまでにも何度か、就業先とは別の会社の鉄道内で乗客に痴漢をして、警察に捕まったり、会社から懲戒(解雇ではない懲戒)をされていました。
しかし、最終的にまた電車内で痴漢をしてしまい、懲戒解雇された上に、退職金を不支給とされました。
このケースでは、懲戒解雇の有効性と、退職金の不支給の有効性が争われたのですが、裁判所は、懲戒解雇は有効だが、退職金をゼロにすることはできない(3割は払いなさい)としました(東京高判平成15年12月11日)。
なお、このケースでも、第一審(東京地判平成14年11月15日)では、退職金をゼロにすることもできるとしました。第一審(地裁)と控訴審(高裁)で判断が違うのです。
本件でも、仮に退職金の不支給などがあった場合、その有効性は、トラック運転手がこれまでどの程度会社に貢献してきたのか、といった点なども考慮しながら判断されることになります。