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「勝訴したけど元気だった子は帰ってこない」保育所のホットドッグ誤嚥で寝たきりに 判決受け両親が声明

2024年10月03日 15:20  弁護士ドットコム

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千葉県四街道市立保育所で、当時3歳だった男児がホットドッグをのどに詰まらせて重い障害が残ったとして、男児と家族が慰謝料を求めて訴えていた裁判で、東京高裁は9月、四街道市に約1億800万円の支払いを命じた。一審判決を取り消した逆転勝訴となった。


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この判決を受け、両親らは10月3日、代理人弁護士を通じて声明を公表した。「私たちは、安堵はしていますが、喜びはありません。勝訴したところで、元気だったあの頃の子供は帰ってこないからです。賠償額についても、子供を生涯にわたって介護していかなければならないことが認められたものと認識しています」などと語った。



また両親は声明で、「平穏な生活を送ること」が希望であるとして、報道機関に対し、「プライバシーに配慮した報道となるよう、お願い申し上げます」と呼びかけた。



⚫︎ 守られなかった誤嚥防止のマニュアル

この訴訟は2017年、保育所で男児がおやつに出されたホットドッグをのどに詰まらせて一時は心肺停止に陥り、その後、寝たきりとなる重い後遺症が残ったことから、両親らがホットドッグの提供方法などが違法であるとして訴えていた。   判決などによると、男児は発達に遅れがあり、1歳児クラスに通っていた。噛む力が弱く、固めのものは口から出してしまうこともあった。ホットドッグは食べたことがなかった。



2022年10月の東京地裁判決では、ホットドッグの危険性は高くないとして、請求を退けた。しかし、東京高裁は9月26日、窒息の恐れがあるホットドッグの危険性について、保育所所長は調理担当者や保育士に十分に認識させ、提供方法について十分配慮するよう周知し、実践させる義務を怠ったと指摘、職務上の注意義務違反を認める判決を下した。



両親らの代理人弁護士3人は同日、東京・霞が関で会見を開いた。判決の意義について、代理人の一人、千原曜弁護士は次のように述べた。



「誤嚥事故は日本中で起きていますが、それを防ぐために、厚労省などから食材の選定や提供方法など、詳細なマニュアルが出ています。これを守っていれば基本的に事故は防げるという形になっています。しかし、マニュアルの内容を知っていながら、保育所ではほぼ守られていなかったということです。そのために不幸な誤嚥事故が起きてしまった。



判決では、保育士個人の過失ではなく、組織自体において誤嚥事故を防ぐシステムがとられていなかったことが強調されています。今回の判決は画期的なものと考えています」



賠償金額が高額になった理由については、男児は今も寝たきりの状態が続いており、将来の介護費用として7600万円が含まれたと代理人の一人、金裕介弁護士は説明している。



⚫︎ 「私たちの今後の望みは平穏な生活」

男児の両親は同日、代理人弁護士を通じて、声明を公表した。以下に全文を掲載する。



【両親の声明全文】



 私たちは本裁判の控訴人で、子供の両親です。控訴審の終了直後であること、また現在の 生活上の精神的な理由でこの場に参加できないことをご容赦いただきたいと思います。



 私たちの子供は生まれつき病名のつかない、原因不明の発達遅滞のある子供でした。そのため子供の成長を少しでも促進させようと、病院への通院、施設への通所、訪問リハビリなど色々な手段を試みていました。



 しかし私たちはお互い仕事もあり、生活の都合上保育所に入所させる必要があったので すが、少し特殊な子供でもあったので受入先の保育所がなかなか見つかりませんでした。そ こで市の窓口へ相談したところ、保健師のいる本保育所を紹介いただき、また保育所の先生とも面談をしたうえで入所したという経緯があります。



 保育所での生活にあたっては、やはり普通の子供とは少し違う部分もあったので、日々の 会話や定期的な面談の中でお互いの環境での状況を共有するようにしていました。そういうこともあり、当時3歳であった子供も1歳児クラスでみていただいていました。こういった配慮をいただいたことには今でも感謝しています。



 そのような中であの事故が起こってしまいました。私たちも最初は状況が把握できず、かなり動揺しました。しかし状況が分かるにつれ、重大なことが起こってしまったと理解しました。保育所からの説明を受けた際に「ホットドッグを手でちぎってあげていた」ということを聞き「そんなことはあり得ない」と思い、提訴に至りました。



 今回の裁判で問われたのは「組織としての食事提供の管理責任」です。保育士の先生方個人を責めるつもりは当時も今も全くありません。一審では私たちの主張はほぼ認められませんでしたが、控訴審では全く逆の結果となりました。このことに私たちは、安堵はしていますが、喜びはありません。勝訴したところで、元気だったあの頃の子供は帰ってこないからです。賠償額についても、子供を生涯にわたって介護していかなければならないことが認められたものと認識しています。



 このような重大な事故であったにも関わらず命が助かったことは、私たちの子供の強い意志であると感じています。しかし子供は、今も寝たきりで、全介助が必要な状態です。想定以上に裁判に時間がかかってしまいましたが、私たちの今後の望みは平穏な生活を送ることです。報道機関の皆様におかれましては、このような状況を鑑み、プライバシーに配慮した報道となるよう、お願い申し上げます。