2024年09月30日 17:31 ITmedia NEWS
「iPhoneにタイヤをつけたようなクルマ」と表現されるTesla。IT・ビジネス分野のライターである山崎潤一郎が、デジタルガジェットとして、そしてときには、ファミリーカーとしての視点で、この未来からやってきたクルマを連載形式でレポートします。
この原稿を書いているのは8月です。猛暑が続き、全面ガラスルーフのTesla乗りには厳しい季節です。納車後、日よけシェードを別途購入したのですが、昨シーズンから付けなくなりました。シェードの装着は手間がかかる割には、体感温度が劇的に下がるわけでもないからです。エアコン自体、とてもよく効くので、風向を調整すれば快適な車内空間を維持可能です。
ただ、後席に人を乗せる機会が多い人は、後席だけでもシェードを付けた方がいいかもしれません。後席にはエアコン吹き出し口が中央に1つしかなく、風向を満足できる状態に調整できないことから、思うような快適性を得られない可能性が高いからです。
全面ガラスルーフからは夏の暑さばかりを連想しがちですが、冬の晴れた日は、ぽかぽかと暖かく、シートヒーターだけで快適性を確保可能で、エアコンによるエネルギー消費を節約できます。ここはトレードオフの関係なので、致し方ない部分もあります。
今回の話題は2つ。運転支援機能であるオートパイロット(AP)で遭遇した案件と、Teslaのバッテリーに関連する話を紹介します。
●高速道路工事規制や路肩作業に遭遇したらオートパイロットを切れ
最近、高速道路でオートパイロット(AP)を使用中、工事による車線規制や路肩作業に遭遇した状況でアラート共に自動ブレーキが出来(しゅったい)する事態に何度か遭遇しました。そのうちの2度は車載のGoProで動画を撮影していたので、どのような状況だったのかを映像でご覧ください。
この動画は、中央道の下り線相模湖付近の上り坂でのことです。路肩作業車を左に見ながらAPを入れたまま走行車線を走っているとき、アラート音とともに自動ブレーキが作動し、82km/hから52km/hまで一気に減速しました。
この映像をコマ送りで見ると、スクリーン上では、当初、工事車両群先頭のトラックとワゴン車の2台を認識していませんが、接近したら突然ワゴン車を認識し、つまりスクリーン上に表示され、その際、先頭のワゴン車が、注意喚起を促す印として、赤く表示されます。まさにこの瞬間にアラートが鳴って減速が始まっています。
ただ、認識の仕方が不可解です。ワゴン車が通常状態で表示され、一瞬消えたかと思うと、赤く表示された状態で再び現れています。ということは、Teslaのコンピューターが、このワゴン車を一瞬見失った後、再び発見した際に危険であると判断して自動ブレーキを作動させたものと思われます。
2つ目の動画は横浜横須賀道路の上り車線です。キャリアカーに乗せた故障車からヘルメット姿の作業員が降りてきたそのときにアラートと共に自動ブレーキが作動し、80km/hから59km/hに減速しました。スクリーン上では、ヘルメット姿の作業員が1秒にも満たない時間、赤く表示されています。前述のワゴン車と異なり、ここでは人の飛び出しに対して警告を発した模様です。
このような経験を何度かしたことから、路肩作業や工事による車線規制に遭遇した際は、APを解除したり、場合によっては身構えながら走行したりしています。
●自動ブレーキは誤作動にあらず? 安全側に振った設定か
以前、本連載の「テスラ車に潜む『ファントムブレーキ』という“幻影” オーナーが実際に体験した一部始終」においても、AP使用時の自動ブレーキを紹介しました。そのときに寄せられたSNS等のコメントでは、この自動ブレーキを「誤作動」と断じ、APに対し否定的な意見を多くいただきました。
しかし、実際に遭遇した当事者として、この挙動を単なる誤作動として片付けてしまってもいいのかどうか、という疑問を感じたことも事実です。もしも、路肩のワゴン車が何らかの事情で急に走行車線に飛び出したり、ヘルメット姿の作業員が足を踏み外して、よろめいて車道側に倒れ込んだりしたらどうでしょうか。
このTeslaのアラートや自動ブレーキのおかげで、手動運転時よりも早く、危険回避行動や急制動を実現できたかもしれません。すべて仮定の話になるので、筆者の考えが正しいと主張するつもりはありません。
しかし、Teslaのコンピューターが、フェイルセーフに立脚した上で安全側に振った判断を下し、ドライバーに注意喚起をうながしたと同時に自動ブレーキという形でサポートしたという見方もできます。当事者として「誤作動はけしらからん!」という単純な話ですませたくない想いです。
件の記事のSNSのコメントのいくつかに、「後ろを走行しているドライバーの身になれ」という意見も複数頂きました。確かに前のクルマが急に減速したら驚くでしょう。申し訳なく思います。自動ブレーキがかかった瞬間、事故の危険がないと瞬時に判断してアクセルを踏んでいる自分がいるので、自身の中に、後続車に対する気遣いと追突されては困る、という感情が複雑に交錯しているのかもしれません。
しかし、そもそも論を言わせてもらうと、教習所では、「前の車が急に停まっても追突しないよう、安全な車間距離を保て」と教わったはずです。道路交通法第26条においても、車間を空けることを義務付けていますし、それを怠ると「車間距離不保持違反」となります。
「安全側に振った判断」というのであれば、高速道路での路肩作業や工事に遭遇した場合、もっと手前から減速し、その横を臨時の制限速度に従って徐行しながら抜けていくようにプログラムされるべきなのかもしれませんが、それはそれで、後続ドライバーの神経を逆なでする可能性は否定できませんし、それが原因でトラブルに巻き込まれるのは御免です。
高速道路において、工事よる車線規制の区間をAPを解除し、速度を落とし、臨時の速度標識に従って50km/hで慎重に走っていると、「速く行けい~」とばかりに後ろにピタリとくっつかれたことは一度や二度ではありませんから…。
ちなみに、ハンズオフ(手放し運転)が売りである日産の運転支援機能「プロパイロット2.0」では、高速道路の工事区間に入ると、運転支援機能はそのままで、ハンズオフだけがキャンセルされるようです。
●EVのバッテリーは、乾電池の寄せ集め?
少し前に、EVのバッテリーに関するXのあるポストが話題になりました。投稿自体は、2023年7月のものですが、炎上したEVのバッテリーを検証する様子の動画です。バッテリーケースの中に焼け焦げた円筒形の充電池がたくさん並んでいます。投稿者は、「2Aの充電式バッテリーだった」として、EVに民生用の充電池を流用していると揶揄しています。「2A」が、2アンペアを指すのか、AA=単三電池を指すのかわかりせん。
その投稿をリポストした日本語の投稿にも多くのコメントが寄せられ、その中に「ン百万円もするEVのバッテリーがこれではお粗末」「乾電池使ってんのかよ(笑)」といった発言も見受けられました。筆者も含め人々のこのような反応に驚いたTeslaユーザーは多いのではないでしょうか。
というのは、初期の量産型のモデルにおいて、電動工具やノートパソコンなどに使われていた直径18mm×長さ65mmの「18650」と呼ぶリチウムイオンタイプの充電池が搭載されていることは、Teslaユーザーの間では比較的有名な逸話です。
Teslaが採用した「18650」充電池は、パナソニックと共同で開発されたもの。円筒形のその形状は、一見乾電池に見えることは確かですが、蓄えられるエネルギー量でいえば乾電池などの比ではありません。これを約7200本(ウォルター・アイザックソン著、『イーロン・マスク』より)用い、バッテリーパック化し床下に搭載しています。
その後のModel 3には、直径21mm×長さ70mmの「2170」と呼ぶ、少し太く、長くなったEV向け円筒形セルを採用していますし、最新のモデルの中には、直径46mm×長さ80mmの「4680」セルを採用したものもあります。2022年2月のパナソニックのニュースリリースによるとパナソニックエナジーの和歌山工場で「4680」セルを生産するとしています。
TeslaやEVに興味のない人からすると、焼け焦げた円筒形の物体を見た瞬間に「乾電池」や「エネループ」を連想するでしょうし、たくさんの円筒形のセルがバッテリーパックに収納されクルマの床下に設置されていることなど想像もつかないのかもしれません。「誤解するのも、しょうがないよね」と思いつつ、このような、下調べ抜きの瞬発的ポストを他山の石として自分自身の情報発信行動を戒めたいと思った出来事でした。