トップへ

「うちはブラックだよ」親切な先輩が教えてくれた職場の真実 入社1日目で退職できるのか?

2024年09月30日 10:10  弁護士ドットコム

弁護士ドットコム

記事画像

入社しましたが、ブラック企業だとわかり、1日で会社を辞めたいと思っていますーー。 このような相談が弁護士ドットコムに寄せられました。


【関連記事:■カップル御用達「ラブパーキング」、営業拡大で3年目へ 70代男女管理人を直撃】



相談者は、パートとして採用され、出社しましたが、当日に社員から、入社した会社が ブラック企業である事を明かされた、と言います。



具体的には、(1)毎月の給与の計算が間違っていて、実際に勤務した日数(時間)分の給与より少ない為、その度に上司に申告しなくてはいけなかったり、(2)上司の機嫌次第で、みんなが挨拶を無視されたりしています。



相談者は、未だ雇用契約書を交わしていない状況であるため、会社にメールを送り、退職したいと考えていますが、可能なのでしょうか。山田長正弁護士に聞きました。



●双方が合意した時点で「雇用契約は成立」

——雇用契約書を交わしていない段階でも、会社との間の雇用関係は生じているのでしょうか。



はい。法律上、雇用契約書の作成は義務付けられていませんので、双方が合意した時点で雇用契約は成立し、効力が生じています。



民法623条において「雇用は、当事者の一方が相手方に対して労働に従事することを約し、相手方がこれに対してその報酬を与えることを約することによって、その効力を生ずる。」とされております。



また労働契約法6条においても「労働契約は、労働者が使用者に使用されて労働し、使用者がこれに対して賃金を支払うことについて、労働者及び使用者が合意することによって成立する。」とされているとおり、雇用契約は、双方の合意だけで効力が生じ、雇用契約書を作成しなくても有効です。なお、雇用契約書未作成でも、罰則規定はありません。



——社員から聞いた話を理由として、退職することはできるのでしょうか。



退職は不可能ではありませんが、退職するためには「やむを得ない事由」が必要です。



正社員などの無期雇用労働者の場合は、民法627条によって、2週間前に申請すれば退職できることが定められています。



一方で、正社員以外の、パートタイム労働者やアルバイト、契約社員、嘱託社員などは通常有期雇用労働者であることが多いですが、退職するためには原則として、民法628条の規定により、「やむを得ない事由」が必要です。



ただし、労働基準法137条により、有期雇用労働者であっても、1年を超える期間を設けた有期雇用の場合、勤続年数1年以上の段階であれば、上記の無期雇用労働者の場合と同様、民法627条の規定により、2週間前の申請で退職が可能です。



今回の相談者は「パートとして採用」とあるので通常は有期雇用労働者と考えられます。そうであれば、入社後1日しか経過していない段階では、労働基準法137条は適用されず、基本的には正当な退職理由が必要となります。



すなわち、民法628条の規定により、「やむを得ない事由」がなければ一方的に退職できず、雇用期間満了までに労働者から退職を申し入れても、会社側は拒否することができます。



この「やむを得ない事由」とは、通常、「本人のケガや病気」、「親族の看病、介護」、「ハラスメントを受けた」などを指します。3つ目の「ハラスメントを受けた」について、今回の相談者の方は、他の社員から単にブラック企業であるとの噂を聞いただけであり、実際にハラスメントを受けた等ではないため、原則的には「やむを得ない事由」があったとまでは認められないでしょう。



——退職する場合の会社への連絡方法についてですが、会社にメールを送るだけで退職することはできるのでしょうか。



退職の申し出自体の有効性は、メールでも問題ありません。



しかし、後々のトラブルを未然に防ぐため、真意であることがわかる、手書きで名前等をサインした退職届等の書面での提出が、双方にとって望ましいといえます。




【取材協力弁護士】
山田 長正(やまだ・ながまさ)弁護士
山田総合法律事務所 パートナー弁護士
企業法務を中心に、使用者側労働事件(労働審判を含む)を特に専門として取り扱っており、労働トラブルに関する講演・執筆も多数行っている。
事務所名:山田総合法律事務所
事務所URL:https://www.yamadasogo.jp/