2024年09月28日 08:30 弁護士ドットコム
大阪地裁は2024年9月、AV出演被害防止・救済法(AV新法)違反等で起訴された40代の男性被告人に対して、懲役2年(執行猶予3年)、罰金100万円(求刑:懲役2年、罰金100万円)の判決を下した。
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2022年の施行時に大きな話題を呼んだ法律であるが、裁判事例はまだ少ない。
被告人も公判で「新法を理解していなかった」と供述するなど認識の甘さが垣間見えたが、“貴重な”AV新法絡みの事件として振り返ってみたい。(裁判ライター・普通)
起訴状によると、被告人は以下の3つの罪状に問われている。被告人はいずれの事実も認めた。
(1)スカウトの人物と共謀し、路上で2名の女性に対してアダルトコンテンツへの出演勧誘を行った職業安定法違反
(2)女性2名が出演するわいせつ動画を海外に本社があるアダルトサイト内で不特定多数に頒布したわいせつ電磁的記録等送信頒布罪
(3)映像出演に際し、出演内容を明確にする契約書を交付しなかったAV新法違反
検察官の冒頭陳述によると、被告人はコンテンツ制作の依頼を受けた後、別のスカウトの人物に女性の勧誘を依頼した。スカウトは主にパパ活のアプリを使って女性を探し、出演交渉を行ったが、最終的な採用や報酬額などの決定権は被告人にあった。
被害者2名は、「パパ活目的であったが、報酬目当てで了承してしまった」と供述している。
実際の出演に際して、被害者に契約書が交付されることはなかった。知人に知られることなどはないと口頭で説明をし、撮影の了承を得た。しかし、知人に発覚したことで、作品の公開について被害者と被告人が揉め、事件が発覚した。
被告人は、初公判では身柄拘束され、憔悴しているような印象を与えたが、2回目の公判段階では保釈されており、饒舌に、時に緊張感を感じない含み笑いを交えながら、被告人質問に答えていった。
被告人はフリーランスとして映像制作などを行っており、元々はモザイク処理がされたアダルトコンテンツの制作を行っていたが、コロナ禍で当時の職を失ったところ、今回の映像制作について声をかけられた。撮影では責任者を任されていたが、報酬は販売者から受け取っていた。
弁護人「どうして契約書を交付しなかったのですか」 被告人「新しい法律をよく理解していなかったのと、動画の販売サイトが海外のものだから大丈夫だろうと思って」
弁護人「その後、正しい認識を持ったのはいつですか」 被告人「昨年末くらい(起訴された事件の半年~1年後)です」
弁護人「それはどうしてですか」 被告人「ニュースで逮捕者続出って見て、勉強しなきゃと思って」
その後も、海外のサイトだから大丈夫と思っていたという言い分を続ける被告人。被害者の女性について聞かれると「デジタルタトゥーという言葉がありまして、ネットの波に流されたのは申し訳ないなと」と、どこか他人事のような供述をしていた。
検察官からは、事件当時の被告人の役割と、AV新法に関する認識についての質問がなされた。
女性らの最終的な採用決定権は被告人にあったが、「強要してはいけない」という認識があるくらいで、スカウトがパパ活アプリを用いていること以外は、具体的な方法もその問題性も認識していなかったと主張した。
被告人は、契約書等について、1名に対し一度でも交付すれば問題ない認識だったが、実際は出演する制作物ごとに契約を締結し、契約書等を交付する必要がある(AV新法4条)。
被告人なりの契約書は用意し、出演者に内容の確認はしてもらっていたものの、それを新法と照らし合わせて適正か確認することはなかった。
検察官「その契約書にはどのようなことが記載されていたのですか」 被告人「著作権は販売者に譲渡するとか、裁判をする場合はどことか」
検察官「どのような内容の撮影かの記載はありましたか(編注:記載がなければAV新法4条3項違反等)」 被告人「ありません」
検察官「この法律が女性にとって望まない出演を規制する法律であるということは」 被告人「そういう女性がいるのも知ってたし、できるのは当然なのかなと思います」
法律の趣旨を把握しながらも、やはり他人事のような反応を示す被告人。本件の発覚については、制作物が被害者の知人に見られたことを被告人に相談したことからであった。その点、被告人は「知人らに知られることはない」と説明していた。
しかし、AV新法5条の説明義務として「撮影された映像により出演者が特定される可能性があること(1項3号)」とある。まさに女性にとって望まない出演を避けるために定めた同法の規定に反する犯行態様だった。
判決は懲役2年、罰金100万円、執行猶予3年(求刑懲役2年、罰金100万円)であった。
裁判長は判決の理由として、適切に契約内容を説明しなかったことは、契約を正しく締結させなかったのみならず、被害者女性から検討の機会を奪うものであり悪質と非難した。
また、被告人が法律の詳細を把握していなかった点は認めつつも、知らなかったでは済まされないとし、一連の出演交渉等における中心的な人物としての責任の重大さを挙げていた。