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河野太郎氏に、スタートアップ著名起業家が直談判 newmo青柳氏、SmartHR創業者宮田氏らとの対談、河野氏は何を答えたか

2024年09月27日 15:01  ITmedia NEWS

ITmedia NEWS

河野太郎氏

 日本の将来を左右する自民党総裁選。解雇規制や税制問題などさまざまな話題が注目される中、経済界ではスタートアップ支援の動向にも関心が集まっている。


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 そんな中、総裁選にも出馬する河野太郎デジタル大臣は9月25日、ベンチャーキャピタル「Coral Capital」が主催する、起業家との対談イベントに登壇。イベントにはライドシェアスタートアップnewmoの青柳直樹代表、SmartHR創業者で株式報酬SaaSを手掛けるNStockの宮田昇始代表、モデレータとしてCoral Capitalの澤山陽平氏らが同席した。


 そして観客としても10人近くのスタートアップ起業家が参加し、それぞれが河野氏に思い思いの質問を直接ぶつけた。スタートアップが河野氏にぶつけた要望や期待、そして河野氏の回答は。


●スタートアップ投資や規制緩和、河野氏の考え方は


澤山氏:これまでの活動や規制改革、デジタル化の取り組みに加えて、今後さらにスタートアップ支援を進めていきたいという話を伺っています。スタートアップやスタートアップシーンについて、どのようなお考えをお持ちなのか、どのような思いがあるのか、少しお聞かせいただけますでしょうか


河野氏:ありがとうございます。日本は自由主義経済、市場経済の国ですが、最近は「政府はどのような経済対策をしてくれるのか」「補正予算はいくらになるのか」といった話になりがちで、それはおかしいと思っています。政府が経済戦略や成長戦略を作って経済が良くなるのであれば、もう今ごろとっくに良くなっているはずです。ソ連は崩壊していないことになります。


 これから金利が上がっていく中で、政府の借金がこれだけあり、利払いが増えていくときに、さらに借金をしてどうするのでしょうか。一方で、企業の内部留保は600兆円あり、おそらくキャッシュだけで300兆円ほどあります。それが動かないのに、政府が借金して金を使うのは筋が通りません。政府に正しい投資先が分かるはずがありません。もしそれができるのなら、ソ連は本当に崩壊していないでしょう。


 政府は有事に大量の資金を投入して困っている人を支えるのが仕事ですが、平時はそのための余力を積み上げるのが筋だと考えています。そうすると、その(企業の内部留保である)300兆円の資金をどう動かすかということになりますが、一つは規制改革です。


 例えば、なぜ日本だけ自動運転ができないのかというと、危険だからという理由で人を乗せなければならないからです。運転しなくてもいいけれども、保安員という名目で一人乗せなければならない。これでは(自動運転事業は)絶対にペイしません。どこに行っても実証実験はやっていますが、実用化はできていません。だからこういう規制を外す必要があります。


 ドローンで配達をする時も同様です。荷物を降ろすところが一番危険だからという理由で、グランドパイロットという資格を持った人を派遣して荷下ろしの管理をさせろといわれていました。しかし、そこに人が行くのであれば、その人が配達すれば良いわけで、わざわざドローンを飛ばす理由がありません。


 もう一つの方法として、例えば2000何年になったら70歳以上の人の運転免許証は全員返納してもらうという規制を作るのです。そうすれば、そこまでに自動運転を実用化しなければ、70歳以上の人は買い物にも病院にも行けなくなるわけですから、そこを目指して技術開発を頑張ってもらう。昔、米国の排ガス規制の「マスキー法」があり、それがあったからこそ、日本のメーカーが猛烈に開発をして排ガス規制をクリアしたという例があります。


 このように、政府は必要な投資を促す、あるいは投資を作らせる、それが政府の仕事だと考えています。政府自体があたかも何でもできるかのようになるのはおかしいと思っています。日本のスタートアップの皆さんがどんどん新しい投資先を作り、またファンドがそれを後押しすることが、日本経済の成長の一番の源だと思っていますので、ここが勝負だろうと考えています。


●newmo青柳代表、スタートアップ税制について質問


newmo青柳代表:1点目はスタートアップ税制について(の質問)です。総裁選を拝見していて、小泉進次郎候補が譲渡益課税免除でいいのではないかという大胆な発言をされており、スタートアップのコミュニティーの人々は一番これに注目していると思います。


 社会課題に取り組むスタートアップ、自動運転や核融合、サイバーセキュリティなども増えてきましたが、本当にそのスタートアップに投資として何百兆というお金が流れ込んでくるのでしょうか。どのようにしてスタートアップ投資を5倍、10倍に拡大していくのかについてお伺いしたいです。


河野氏:スタートアップ税制については、それなりに整備されてきていると思いますが、例えば、今年12月にM&Aを行い、それを再投資したら免除するという制度があります。しかし、12月いっぱいにやってくださいといわれても、それは無理な話です。1月にM&Aして1年以内に投資しろと言うならそれはできるかもしれませんが、なぜ12月も1月も同じ12月31日までにやらなければいけないのでしょうか。これはちょっとありえない話です。


 さすがに財務省もそれは無理だという感覚になってくれていると思うので、直さなければいけないところはあると思います。


 それから、一時金融課税という議論もありましたが、やはりそこはリスクを取った分はちゃんとリターンがあるようにすべきです。全員が成功するなら普通に所得税をかければいいのですが、みんなリスクを取っているわけですから、そこは税制優遇をするというのはありだと思います。


ライドシェア巡る議論、受け止めは


newmo青柳代表:2点目は、今回の総裁選で「ライドシェアの全面解禁を」とおっしゃる方と、一方で許可型がいいのではないかという議論があって、これはまさに規制改革の本丸の一つだと思っています。この規制改革の議論についてのご感想と、本当は自動運転の議論をしなければいけないのに、まだライドシェアの議論をしているという現状についての考えをお聞かせください。


河野氏:規制改革の議論については、私は今回の総裁選挙でなかなか突っ込めなかったのが残念です。みんな沖縄に3時間かけて行って、1人10分喋って3時間かけて帰ってくるという具合でした。やはり「どこどこに補助金を出します」とか「何とか成長戦略を作ります」といった話が多かったのですが、それで成長するなら、みんなもっと早くやっているはずです。もう少し規制改革の目的について議論すべきだと思います。


 私はライドシェアについても、青柳さんがライドシェアを始めると言い出す前から注目していました。(青柳さんが)会社を辞めてでもやると聞いた時は、まだプールに水がたまっていないのに飛び込むのかと思いましたが。


 ライドシェアの議論は、単にライドシェアだけの議論だけではありません。今、地方の経済の7割がサービス産業です。人口が減って需要が減っています。この需要をオープンソースでデータ化して、それを供給者が見ながら、どこにどういう供給をするのが良いのかということができるようにしてあげるといいと思います。それを1社でやれと言ったら全員赤字になってしまうので、供給側のデータを可視化するのはオープンソース、オープンデータでみんなで共有して、供給者がそれを使う。


 それがライドシェアで成功したら、多分医療でも教育でも小売でも観光でも、いろんな分野でそのオープンデータを活用しようという動きが進むのではないでしょうか。だから、タクシーでやるのかタクシーではないのかという議論は、私に言わせるとちょっと矮小な議論です。データをどう使うのかが重要です。


 人口が増えている時はバス停を立てて「ここに乗りたい人は集まってください」と言えばよかったのですが、需要が減っている時は、乗りたい人がスマホで「私はここにいます」と合図すると、バスがそこへピックアップしに来てくれる。それをAIで最適なルートを作るというのが、需要が減っている時の需給調整なのだと思います。それをライドシェアで成功させたら、さまざまな分野に横展開できるはずです。


●河野氏「年末調整を廃止」の真意


NStock宮田代表:(宮田代表が起業した)SmartHRは年末調整などをデジタル化する会社ですが、年末調整に限らず人事向けの仕事全般を扱っています。当時、ベンチャーキャピタルから「年末調整がデジタル化されたらSmartHRは困るのではないか、大丈夫か」とよく言われました。しかし、この9年間、残念ながら年末調整のデジタル化は進んでいません。


 先日、河野大臣が年末調整を全部廃止して確定申告に寄せるとおっしゃっていただきました。私たちにとってはある意味、飯の種が一部なくなるように見えるかもしれません。しかし、基本的には行政手続きのデジタル化は私たちの会社のミッションにとってはすごくプラスなので、ぜひこれを推し進めていっていただきたいと思っています。


河野氏:ありがとうございます。年末調整を廃止するというところだけがメディアに取り上げられていますが、それは完全に副産物です。本当にやりたかったのは、コロナの時に誰が困っているのかを行政が把握できなかったことです。


 政府が持っているのは前の年の確定申告の数字だけで、現在どうなっているかというリアルタイムの情報がありません。一方、英国ではそれがリアルタイムに政府に取れるのです。なぜかというと、給料を払うとその情報を英国の国税庁にデータで提出するシステムになっているからです。


 これを日本でも実現したいのですが、デジタル庁対国税庁で熾烈な攻防になっています。給料を払ったら、その源泉徴収と社会保険料のデータをそろえて政府の窓口に提出してもらい、そこから税務署や市町村、年金機構などにデータで受け渡しをしていくのです。


 その数字を見ていて、一気に収入が下がっているところがあれば、何か起きていると判断してフラグを立て、確認に行きます。本当に困っているのであれば、行政側から「お困りでしたら、こういう支援がありますよ」とか、「支援金を振り込みました」といったことを、プッシュ型で支援できるようにしたいのです。そのためにデジタルデータを集めようとしています。


 そうすると、デジタルデータが全部集まっているので、それをe-taxに入力していけば、1年分の収入、源泉徴収、保険料、それに医療費控除、保険料控除などを加えて「あなたの還付金はいくらです」という計算が自動的にできます。雑所得の経費だけは自分で入れる必要があると思いますが、それ以外は全て自動計算されます。それを見てOKならOKボタンを押せば確定申告が完了します。そうなれば、年末調整も必要なくなるだろうというわけです。


 メディアはそこだけを取り上げて「年末調整廃止」と報道し、私はボコボコに批判されましたが、「いや、確定申告の行列が長くなる」という指摘に対しては、「行列はしません。デジタルでやるんです」と説明しています。


 これをやることで、困っている人が本当にリアルタイムで分かるようになり、行政から支援ができるようになります。シングルマザーの方々と話をしていると、2つ3つ仕事を掛け持ちしていて、子供の面倒も見なければならず、区や東京都がどんな支援をしているのか検索する余裕さえないという状況が分かりました。そのため、本当に困っている人が実は支援の対象になっていないというケースがあったのです。


 これはやはり行政側からプッシュ型で探しに行って支援を提供しなければいけないと考えています。おそらく、そこをデジタル化することで、さまざまな新しいビジネスチャンスも生まれてくるのではないかと思います。


●AI・データセンターで変わった再エネ・原発活用


澤山氏:われわれCoral Capitalは今8年目で、4つのファンドを運営しています。1号ファンドの現在のトップはSmartHRで、2号ファンドのトップが核融合を開発している京都フュージョニアリング社です。時価総額ベースでは現在、最も成長している企業となっています。


 京都フュージョニアリング社には2019年ごろに投資しましたが、当時はまだ核融合はそれほど話題になっていませんでした。その後、急速に世間の注目を集め、政府からも追い風が吹き、今では日本発で世界で活躍する企業に成長しています。顧客のほとんどが世界の大手企業だと思います。


河野氏:日本の電力需要は2007年に約1兆kWhでピークを迎え、その後17年連続で下がっています。これは人口減少と省エネの影響です。私は、このまま行けば2050年には需要が8000億kWhくらいになり、再生可能エネルギーの導入スピードを今の倍くらいにすれば、2050年に約8000億kWhになると考えていました。これでほぼ行き来できるだろうと。そこで脱原発という話になっていたのです。


 しかし、AIとデータセンターの影響で、2050年の需要予測が1兆4000億kWhといわれるようになり、話が変わってきました。再生可能エネルギーは8000億kWh入れられても、原発を再稼働しても1兆kWhにしかなりません。すると4000億kWh足りないことになります。


 おそらく省エネが進み、データセンターやAIの効率も上がっていくので、1兆4000億kWhは多分上限で、そこまでは下がるでしょう。しかし、どこまで下がるかは分かりません。一方で、化石燃料はやはり最近の台風や風水害を見ると使用を減らさざるを得ません。


 残りの4000億kWhをどう埋めるかという点で、水素、アンモニア、核融合、CCS(二酸化炭素回収・貯留)といった技術が注目されています。あらゆる可能性に賭けて、どれが現実的になるかを2050年までに見極めていく必要があります。


 実は核融合にも、トカマク型やレーザー型など、いろいろなアプローチがあります。例えば、米国では(青色LEDを開発した)中村修二教授がブルーレーザー型の核融合に取り組んでいます。その部品を私の地元である茅ヶ崎の由紀精密というメーカーが、非常に高度な微細加工技術を駆使して供給しているのです。このように、核融合の裾野は非常に広いと思います。


 私が欧州のいくつかのスタートアップを見て話を聞いてびっくりしたのは、創業2年目で米軍から注文が来て従業員を500人増やし、その次の年にNATO軍から注文が来て2000人規模になったという話です。現在、S&P500に入っている米Palantirも、米軍との取引が大きかったようです。


 つまり、安全保障上必要な技術だと認められると、欧州でも米国でも、そこに軍のお金が流れ込んで、一気に成長するのです。最も顕著なのは多分イスラエルです。モサドが運営しているファンドにプレゼンをしてもらうと、驚くような技術がたくさんあります。


 例えば、イスラエルでもオレオレ詐欺が多いそうで、電話で話している声を聞いて、その人の顔を描き出すという技術があります。音を聞けば、その音を発している部分がどのように空洞になっているかが分かるので、顔を描けるというのです。実際にやってもらったところ、なんとなく似ていました。


 こういった安全保障関連の技術に、自衛隊や防衛省の予算を投入することも考えられます。昔は軍事技術がGPSやインターネットとして民間に転用されましたが、今は最初から民生用か軍事用か分からない、いわゆる“デュアルユース技術”が多いのです。


 これが使えるとなれば、日本も防衛省の予算を投入する可能性があります。防衛予算は今後5年間で43兆円という話になっていますので、そういった資金の活用もあり得るでしょう。


●医療DXとセキュリティ 改善の方針は


来場者:2024年に医師の働き方改革が始まったり、地方では人手不足が顕著になってきたりしていることから、病院のDXへのニーズもかなり高まってきています。一方で、実際に取り組もうとすると、現在、病院の9割くらいがオンプレミスで、インターネットに接続されていない環境なので、やろうと思ってもできないという状況があります。


 また、電子カルテベンダーがそこをサポートしているので、新しいシステムを導入しようとすると、数百万から場合によっては数千万円かかってしまい、病院側がためらってしまうということがあります。そのため、病院のDXは「やりたいけどできない」という状況が多く、スタートアップとしてもそこを乗り越えるのが難しいと感じています。


河野氏:医療分野のDXはかなり遅れている印象があり、これをなんとかしなければいけないと思っています。しかし、先日のランサムウェア攻撃で病院がいくつか被害を受けたことで、少し過敏になっている部分があります。「インターネットに接続したら危険なのではないか」という懸念があるのです。


 かといって、オンプレミスで接続しないというのは、自治体の基幹システムのような状況になってしまいます。ここを安全にできる、あるいは何かあっても必ずバックアップで戻せるという技術的な安心感を醸成することが一つの課題です。


 また、現在デジタル庁でミニマムの電子カルテを作ろうとしています。それをさまざまなベンダーに組み込んでもらい、そこだけは乗り換えができるようなことを目指しています。そうすれば、ある程度の相互運用性が確保できるのではないかと考えています。


 もう一つの課題は、ベンダーごとに電子カルテのフォーマットが異なることです。これについては、東京大学の松尾豊教授(国内AI研究の第一人者)が興味深い提案をしてくれました。彼は「ChatGPTのような大規模言語モデルは、こういった異なるフォーマットの統一が得意なんです」と言って、3社ほどの電子カルテの記載をChatGPTに統一するよう指示したところ、瞬時に統一されたフォーマットが出てきたのです。


 これを受けて、厚労省が補正予算をつけて、この取り組みをさらに推し進めようとしています。このように、医療DXができるところは後押ししていきたいと考えています。


●AKBではなくBTSになれ? スタートアップへの一言


澤山氏:河野さんから起業家に対して一言いただいて締めたいと思います。


河野氏:デジタル大臣を2年間務めさせていただいて、さまざまな海外のスタートアップやVC、ファンドと話をする機会がありました。彼らが共通して言うのは、日本のスタートアップについてです。


 日本のスタートアップは、最初に日本市場を席巻した後で、グローバルに出ていこうとする傾向があります。しかし、日本市場は外から見てもユニークです。日本市場を取った後で、そのサービスやプロダクトで世界に行こうとしても、もう一度チューニングしなければならない。


 だから、日本のスタートアップにも最初からグローバルに出てきてほしい。そうすれば、日本市場もその中の一つとしてカバーできるはずです。


 私はあちこちで言って、AKBのファンにボコボコにされているのですが、AKBとBTSは同じくらい努力したと思います。しかし、こちら(AKB)は1億2000万人を相手にし、あちら(BTS)は70億人を相手にしました。結果が違うのは当然です。


 だからこそ、最初からグローバルを視野に入れてさまざまな取り組みを行い、どんどんユニコーン企業に成長してもらえるとうれしいです。そうすれば、政府も税収が入ってきて喜びます。ぜひそこは頑張っていただきたいと思います。