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デコトラにパラパラに頭文字D !? 日本カルチャーと世界的トレンドをLDH流に昇華したf5ve「Underground」の先進性

2024年09月24日 16:01  日刊サイゾー

日刊サイゾー

 チカチカ地下地下チッカ地下♪

 クセになるメロディとともにパラパラを踊る映像を見たことのある人も少なくないのではないだろうか。もし、まだ見ていいない人はすぐに見てほしい。これはf5ve(ファイビー)という5人組ガールズグループの「Underground」という曲だ。

 同作品はすでに、kemioや櫻坂46の小池美波と山﨑天、NiziUのリオとマユカから、K-POP界からもILLITのモカ、RIIZEのショウタロウとソヒらなどが踊る映像をアップされており、TikTok上での楽曲再生数は累計2000万回を突破。7月末にはSpotifyの国内バイラルチャートで2位となった。この楽曲の魅力はどこにあるのだろうか?

ビヨンセやガガを手がけるヒットメーカーがバックアップする日本人グループ

 まずf5veについて説明しよう。彼女たちは、昨年9月に解散したガールズグループ「Happiness」のメンバーだったKAEDE、SAYAKA、RURI、MIYUUの 4 ⼈(全員E-girlsのメンバーでもあった)と、2019年にデビューした3人組「iScream」のRUIによって結成された5人組。特筆すべきは、カルヴィン・ハリスやウィロー(ウィル・スミスの娘)らを抱え、世界的な影響力を持つ米マネジメント会社/エンタメ企業の「Three Six Zero」と、彼女たちが所属する「LDH JAPAN」がタッグを組んだプロジェクトになっている点だ。

 エグゼクティヴプロデューサーを務めるのは、ブラッドポップ(BloodPop®)。ビヨンセやジャスティン・ビーバー、レディー・ガガ、マドンナらの楽曲を手がけたヒットメーカーとして知られ、ジャスティン・ビーバーの「Sorry」は2016年アメリカで年間2位となる特大ヒットに。ガガとは、2016年作『Joanne』と2020年作『Chromatica』の2作を全面プロデュースするなど信頼が厚く、ガガ&アリアナ・グランデ「Rain On Me」などのヒットも生んだ。近年は、ジョングク(BTS)のソロ・デビューアルバムのオープニングを飾った「3D」のプロデュースも担当している、売れっ子中の売れっ子だ。

 アメリカを活動の拠点とする彼女たちは、当初は「SG5」というグループ名で2022年に始動。翌年、カニエ・ウェストらを手がけるハドソン・モホーク、BABYMONSTERの「LIKE THAT」も手がけたカウント・バルドーがブラッドポップとともに制作に携わった「Firetruck」でデビューし、未来的なサウンドとビジュアルで注目を集めた。そして、空白期間を経て2024年、「f5ve」にリブランドされて再出発。f5veとしてのデビュー曲「Lettuce」を5月に発表したのに続けて、7月に飛び出したのが、先述の「Underground」だ。

 引き続きブラッドポップとカウント・バルドーの2人が制作の軸となっているものの、「Firetruck」はトラップ色が強かったのに対し、「Lettuce」はR&B色が押し出され、ドリーミーな世界観に。こうしたヒップホップ~R&Bをポップスに昇華した方向性で行くかと思われた矢先、「Underground」はまったく異なるアッパーなダンスサウンドとなっていて驚かされたのだが、これが実におもしろい楽曲&コンセプトになっている。

 f5ve「Underground」でもっとも印象に残るのは、ミュージックビデオに登場するデコトラと、振り付けの一部として取り入れられているパラパラダンスだろう。

 華美に飾られた「デコレーショントラック」の略称であるデコトラは、警察の取り締まり強化などにより国内では衰退の一途をたどっているが、ここ10年でその独自のカルチャーが国内外で(再)注目を集めており、米CNN放送や英ガーディアン紙など海外メディアがたびたび取り上げているほか、今年3月末に緊急来日したビヨンセがデコトラをバックに写真を撮ったことも話題に。2021年の東京パラリンピックでも、その開会式を彩ったことが記憶に新しい。

 日本独自の統一性のないカラフルさとギラギラした装飾という景観は“海外ウケ”する要素であり、それはブルーノ・マーズが最近手がけたドン・キホーテの宣伝CMからも見て取れる。デコトラはその個性的なイルミネーションが「芸術」として捉えられはじめており、写真集が発売されるなど“注目の日本カルチャー”のひとつなのだ。

 ちなみに「車」というキーワードでは、ビジュアライザーの映像の終盤 は、日産・フェアレディZ風のデザインのCGカーがドリフトする様子がループするものになっており、名作マンガ&アニメ『頭文字(イニシャル)D』を想起させる。こちらもまた、アジアや欧米で人気のある日本コンテンツだ。

令和の「木村拓哉がパラパラを踊る動画」バズと、「Y2K」トレンド

 パラパラもたびたびリバイバルの波が起こるが、2021年の初め、あるパラパラ映像が海外でバズっている。木村拓哉が『SMAP×SMAP』(フジテレビ系)で「バッキー木村」というギャル男ふうのキャラクターに扮してパラパラを踊っていた過去映像が英語圏ユーザーと思しきアカウントから投稿され、5万リポスト、17万いいねを稼ぐ反響を起こしたのだ。激しいユーロビートサウンドに反し、無表情で踊るシュールな光景がウケたとみられる。このバズの件を意識したかは定かではないが、この振り付けを取り入れた背景には、パラパラが日本発祥のダンスであることが影響しているのは間違いないだろう。

 パラパラは90年代末に隆盛を極め、バッキー木村のコントも00年代初頭。まさに近年のトレンドである「Y2K」カルチャーのひとつだ。ミュージックビデオに登場するファッションも、(セクシーなのオフィスファッションを経て)Y2K的なストリートスタイル。当時のギャルファッションもミックスされており、Y2Kトレンドにうまくアプローチしている。

 f5ve「Underground」は177 BPM(Beats Per Minute=テンポの速さを表す)という超ハイスピードなダンストラックだが、音楽的にもやはり「Y2K」――90年代後半に流行した「ハッピー・ハードコア」を彷彿とさせる。

 ハッピー・ハードコアは近年リバイバルが指摘されるレイヴ・ミュージックの派生ジャンルのひとつで、160 BPM以上の高速ビートと、「レイヴスタブ」と呼ばれる象徴的なシンセの音色などが特徴。ユーロビートやトランスとも隣り合う多幸感あるハイスピードなダンスサウンドを、2020年前後からメインストリームで存在感を放つなど今のトレンドのひとつ=「ハイパーポップ」のフィルターを通して現代的に再解釈したような曲が「Underground」なのだ(ミュージックビデオの地下のクラブシーンはレイヴ・パーティを意識したものだろう)。

 このハッピー・ハードコアはハイパーポップのルーツのひとつに数えられる場合もあり、そのためかやはり2020年前後から再び注目を集めている様子だが、要するに、「Underground」は“ただ懐かしいパラパラ系のサウンドを引っ張ってきた”といったアプローチではなく、“2024年にアツい”ダンスミュージックを目指したうえで生まれたものだろうということだ。ちなみに、9月10日にリリースされたリミックス集の中には、原曲よりさらにハッピー・ハードコアやユーロビートに寄った(揺り戻した)リミックスもある。

 また、とくにサビにおける機械的な歌い方やメロディなどは、ボーカロイド文化からの影響も感じられる。かつては中田ヤスタカのユニット=CAPSULEにハマるなどJ-POPにも造詣のあるブラッドポップだけに、ボカロは当然把握しているのではないだろうか。実際に初音ミクに「Underground」を歌わせるカバー動画なども登場しているが、違和感のない仕上がりだ。

千葉雄喜にNewJeans…広がる日本語歌詞の可能性

 ボカロから影響を受けているのだとしたら当然ではあるが、「Lettuce」では英語詞中心だったのが、「Underground」ではほぼ日本語詞となっていることも重要なポイントだ。

 いま、日本語詞でグローバルヒットを狙える可能性が注目されている。米人気ラッパーのメーガン・ザ・スタリオンは今年6月に発売した最新作に収録した「Mamushi」にKOHH改め千葉雄喜をゲストに迎えたが、日本人プロデューサーのKoshyが単独で手がけた同曲は日本語をフィーチャー。千葉のパートだけでなく、フック部分でメーガンが「お金稼ぐ 私はスター♪」と歌う同曲は全米チャートトップ40にランクインし、ニュージーランド、マレーシアなどではトップ10入りするなどグローバルヒットとなっているのだ。

 近年はアニメ人気の恩恵を受ける形で米津玄師「KICK BACK」やYOASOBI「アイドル」などのタイアップ曲が海外でヒットする例があるが、「Mamushi」はそれとは別ルートでの“日本語ヒット”の可能性を示唆する成功例と言える。なにせ、先日ニューヨークで開催された音楽の祭典「2024 MTV Video Music Awards」でもメーガンは千葉雄喜を招いて「Mamushi」を披露。日本人ラッパーがアメリカの音楽業界が注目する一大ステージで(メーガンとともに)日本語でラップするという事態にまで及んでいるのだから。

 ここ最近ではNewJeansが日本デビュー曲となった「Supernatural」で英語、韓国語とともに日本語をミックスしたことも話題になった。世界的な音楽業界動向としてラテン市場に続いてアジア市場のさらなる拡大が注目されるなか、日本語楽曲のポテンシャルはますます高まるとみられる。「Underground」は日本カルチャーに根差した世界観ということもあって日本語詞に振り切ったのだと思われるが、こうしたトレンドと共振しているとも指摘できるだろう。

 長々とあれこれ語ってしまったが、「Underground」はそのハイブリッド感がおもしろさのキモだ。

 単純に、カッコいいガールズグループが景気のいい世界観の映像のなかでクールにパラパラを決めるというシュールさのインパクトだけでも十分に強いのだが、紐解いてみると、欧米目線でウケる日本のカルチャーをただ詰め込んだのではなく、日本語詞やボカロ的要素でJ-POPに根差しつつ、現行トレンドとうまく組み合わせてスタイリッシュに昇華していることに気づく。その歌詞も、チカチカ地下地下……とフザけているようでいて、競争の激しいストレス社会から逃げ出そうというメッセージを込めたクラブ賛歌であり、「東京発の異次元ドリームグループ」というコンセプトとも噛み合う。LDH JAPANと、エグゼクティヴプロデューサー・ブラッドポップの掛け合わせが生んだ化学変化なのだ。

 なお、SG5時代の「Firetruck」から、f5veの楽曲は一貫として絵文字ひと文字で表現できるタイトルになっており、SNS時代を意識したこのコンセプトも興味深い。消防車、レタス(絵文字は葉物野菜)、そして地下(絵文字は穴)。f5veの次なる一手が楽しみだ。