2024年09月21日 08:30 弁護士ドットコム
九州の多くの高校には「朝課外(あさかがい)」という長年続いてきた風習がある。1時間目が始まる前の早朝の課外授業のことで、塾や予備校が少ない地方で経済的負担がかからない方法として数十年前に始まったとされる。
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ただ、時代の変化によって生徒や教員への重い負担が問題視されるようになり、宮崎県のある公立高校では3年前、生徒自らが見直しを求めて声を上げた。その影響かは不明だが、九州各県でその後、朝課外を廃止する動きが加速。今は大学生となった元生徒会長に当時の思いを聞いた。(弁護士ドットコムニュース・一宮俊介)
ーー鹿児島大学歯学部2年の早田立貴(はやた・りつき)さん(21)は、宮崎県立延岡高校で生徒会長を務めていた2021年、生徒会が主導して朝課外のあり方を見直そうとしました。なぜそのような行動をとろうと思ったのですか?
ぶっちゃけ言って、生徒会長は行事ごとに対応すればあとはほとんど何もしなくていいんです。中には肩書きほしさに生徒会長になる人もいます。
話が少し遡りますが、僕が中学の時、生徒会長として合唱コンクールのプログラムを変えて文化祭のような行事に生まれ変わらせたり、分厚い生徒手帳を廃止したりしたことがありました。
ありがたいことに中学の評判が噂になって、高校でも生徒会長をすることになりました。 僕は高校でもどうせ生徒会長になるなら何かを変えるためにアクションを起こしたいと思っていました。
どこから手をつけようかなと考えていた時、一番やっかいなのが朝課外だなと思い至りました。
というのも、進学校である延岡高校では生徒が実際は朝課外を廃止するために行動したいと思っていても、大学受験を控えているので学校側に嫌われて受験に不利になるんじゃないかという怖さがあって生徒たちは何もできないんです。その代表である生徒会長も変革を起こせません。
僕の場合は成績がそんなに良くなかったこともあり、捨て身でやってみようと思えました。
ーー見直しに向けた最初の取り組みとして、朝課外について生徒たちが本当はどう思っているのかを可視化する生徒アンケートの実施を学校側に提案したそうですね。
朝課外を考える上では、生徒、保護者、先生という3つの視点があります。それぞれ朝課外の否定派と肯定派がいると思いますが、この3者の意見がうまく噛み合っていないと感じました。
そんな中で最初から「朝課外を廃止しろ」と言ってもデータがないと何も変わらないことは目に見えていたので、僕が生徒会長としてできるのは生徒の視点から意見を集めることだと考え、まずは一旦、生徒たちの声を整理しようとアンケートを取ろうと思いました。
でも、それを学校に伝えたら「先生たちの間ですでに議論が始まってる」と言われ、そもそもアンケート自体を取ることすらさせてもらえませんでした。しかし、今考えると、その議論には生徒の視点が欠落していて、理想的な進め方とは思えません。もうちょっと先生たちと話がしたかったです。
ーー実際、早田さんや同級生たちは朝課外についてどう思っていましたか?
僕らの時は、年度の始めに全校生徒を対象に、課外を受講するか、受講しないかを選ぶ調査がありました。でも、実際は9割以上が朝課外を受けていたと思います。
今でも覚えていますが、2年生の時、「課外って取らないといけないんですか?」と質問したら、先生が「難関の大学や学部に合格した先輩方はみんな通ってきた道だから」と言ったんです。
でも、17、18歳ぐらいで大学受験をまだ経験していない生徒たちにとって、そんなことを言われたら何も言えません。大学生になった今考えてみると、みんな朝課外を受けていれば、中には難関大学に受かる人もそりゃいるだろうなと思います。
高校生の頃、朝課外はだるい、しんどい、きつい、なくなればいいと思っていました。もちろん部活や宿題もあるわけです。必然的に睡眠不足になります。僕は朝7時前に家を出て、まぶたが半分閉じたような状態でチャリンコをこいで学校に向かっていました。
今考えると恐ろしいですが、若くて体力がある高校生だからなんとかやっていけるのだと思います。朝が早すぎるので、朝課外の時は眠く、授業の内容が頭に入ってきませんでした。ぶっちゃけ寝ていた授業もあります。保護者も朝早く起きて弁当を作らないといけません。
正直、みんなよく分からないまま何となく受けていたと思います。学校は選択制と説明しますが、ほぼ強制的だったんじゃないでしょうか。
ーー早田さんの問題提起の後、偶然タイミングが重なったためなのか、熊本県などで朝課外を廃止する動きが加速しました。延岡高校を卒業した今、朝課外についてどう考えていますか?
高校生の時、僕個人としては内心「こんなものとっととやめた方がいい」と思っていましたが、生徒会長としては中立かつ冷静に考える必要があるという思いもあり、「一気に廃止しないとしても、現状維持は負担が大きいので、本当の選択制にしましょう」と提案したつもりでした。
その手始めに生徒アンケートを取ってほしいと伝えましたが、取らせてもらえませんでした。それは卒業した今も納得できません。
大学に入って九州以外の出身の友だちと話すと、そもそも「朝課外」というワードが全く出てきません。こちらから切り出すと、「そんなものがあるの?」と驚かれます。
子育てや介護がある先生たちはかなり大変だと思います。教員になりたいと思う人が減るのも分かります。朝課外の時間を有効活用すれば、先生も授業研究の時間に当てることができて授業の質が上がるかもしれません。
僕は行きたい大学に進学できたので、今さら怒りはありません。卒業してしまった今、当事者ではない僕が声を上げても外部の一意見にしかなりません。今の高校生たちの声を一番大切にしてほしいと思います。
後輩たちには充実した高校生活を送って夢の実現に向けて頑張ってほしいです。正しく議論が進んでみんなにとって良い結論が出ることを望んでいます。