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セ・リーグの優勝争いが佳境に。「最終盤までもつれた過去のシーズン」を振り返ってみた

2024年09月19日 16:01  日刊SPA!

日刊SPA!

J_News_photo - stock.adobe.com
いよいよ佳境にむかえているプロ野球。パ・リーグはソフトバンクが独走状態で優勝マジックを淡々と減らしている。セ・リーグの優勝争いは、巨人、広島、阪神の「三つ巴の争い」となっている状況だ。本記事では、これまでプロ野球から高校野球まで野球関係の記事や書籍を幅広く執筆している野球著作家のゴジキが、最終盤までもつれた3つのシーズンを振り返りつつ、今後の展開を予想してみよう。
◆2007年は巨人・中日・阪神のデッドヒート

2007年は、シーズン終盤まで巨人・中日・阪神のデッドヒートとなり、最終的には5年ぶりに巨人がリーグ優勝を果たした。巨人は、チームリーダーだった小久保裕紀がソフトバンクに復帰したが、日本ハムの小笠原道大がFAで加入。また、トレードで入団した谷佳知が2番打者として復活を遂げたのもこの年だ。

内海哲也や高橋尚成、木佐貫洋を中心に先発陣も好調なことから、開幕からチーム状態が良く、4月から6月終了時点で首位に。

しかし、夏場から投手が打ち込まれる場面が多くなる。これが小笠原が調子を落として、得点力が低下した時期と重なった。これにより、巨人は7月を大きく負け越して、後半戦は中日・阪神との三つ巴の戦いとなった。

8月、9月は3チームとも譲らず各チーム首位に立った。特に、9月7日からの東京ドーム対阪神戦では、桧山進次郎が巨人の守護神・上原浩治から勝ち越しホームランを放って勝利し、その勢いのまま、3タテで10連勝を飾った。その後の甲子園での試合でも負け越し、巨人は3位にまで転落するのだ。

◆中日の一騎打ちを制した一戦

しかし、ここで食い下がらないのがこの年の巨人だった。9月19日の試合で内海が好投して阪神の勢いを止めると、逆に阪神はここから大型連敗に。優勝争いから脱落した。

以降は、巨人と中日の一騎打ちになった。直接対決の天王山1戦目は、タイロン・ウッズの意表をつく盗塁や井端弘和の気迫の内野安打などで中日が勝利し、マジック7が点灯。

次試合も4回にウッズが同点ホームランを放つも、その直後の阿部慎之助の満塁ホームラン、5回の高橋由伸のホームランで突き放して勝利し、再度首位に入れ替わった。

3戦目は初回に4点を許すが、李承燁が同点ホームランを放ち、8回裏、脇谷亮太が決勝ホームランで勝利。その勢いのまま2002年以来のリーグ優勝を決めた。

この年の巨人の勝因は、投打の運用がうまくハマったことだろう。前年までエースだった上原がクローザーに回って、大車輪の活躍を見せ、不安定だったリリーフ陣を立て直した。また、野手に関しても脇谷、木村拓也、古城茂幸をうまく運用し、外野陣も調子を見極めた上での起用が当たっている。

◆勝負強かった2010年の“落合中日”

2010年のセ・リーグは、各球団がシーズン終盤まで熾烈な優勝争いを繰り広げ、最後まで読めない展開となった。リーグ優勝を果たしたのは中日だった。“落合中日”の真骨頂が示されたのは、監督最終年だった2011年はもちろんのこと、この2010年シーズンもそうだったのではないか。

巨人は、長野久義が加入して打線に厚みが増したが、盤石だった投手陣が崩壊。セットアッパーだった山口鉄也が先発に転向したものの、失敗に。越智大祐の勤続疲労や、マーク・クルーンの衰えも重なった。先発では、内海が二桁勝利をあげたものの不調に終わり、セス・グライシンガーやディッキー・ゴンザレスも打ち込まれる場面が多々。

対する阪神は、新加入のマット・マートンが、1番打者として214安打と打率.349を記録。2番の平野恵一もキャリアハイとなる打率.350を記録し、驚異の1.2番を形成した。

さらに、3番に座っていた鳥谷敬は、リーグトップの得点圏打率.360、満塁打率.500を記録するなど勝負強さを見せて、プロ野球の遊撃手のシーズン最多打点となる104打点を記録。4番新井貴浩、5番クレイグ・ブラゼルも100打点を記録。新加入の城島健司も攻守に渡る活躍を見せて、打率.302 28本 91打点を記録して元メジャーリーガーの底力を見せた。が、エース能見篤史の離脱が影響したこともあって優勝は逃してしまう。

◆10月まで優勝争いがもつれることに

巨人と阪神を押し除けてリーグ優勝を果たしたのは中日。シーズン序盤は荒木雅博と井端和弘の二遊間をコンバートした影響もあり、貯金を作るだけでギリギリの状況。6月の時点では、前年まで3連覇していた首位巨人と8ゲーム差をつけられていた。

しかし、夏場からじりじりと追い上げていき、9月には巨人・阪神に並ぶ。落合中日特有の勝負強さといえよう。広い本拠地の特徴を活かし、ホームのナゴヤドームでは51勝17敗1分の勝率7割5分と、抜群の強さも発揮した。

前年最多勝の吉見一起と、前年最優秀防御率のチェン・ウェインを中心に中田賢一や山井大介、山本昌などでローテーションを形成。さらに、リリーフ陣の勝ちパターンを高橋聡文、浅尾拓也、岩瀬仁紀で確立させ、優勝を経験しているベテランの平井正史や鈴木義広、小林正人らがおり、層の厚い投手陣が強み。チーム防御率はリーグで唯一の3点台前半という成績を残した。

一方、打線はチーム打率・本塁打・総得点はすべてリーグ5位。巨人や阪神ほどの圧倒的な打力はなかった。ただ、この年のシーズンMVPにもなった4番の和田を中心に、要所で得点を積み重ねていったことが大きい。最終的に2位阪神とは1ゲーム差、3位巨人とは2ゲーム差という僅差となり、10月まで優勝争いがもつれたシーズンだった。

◆最後の最後にヤクルトが突き抜けた2021年

2021年のセ・リーグは、シーズン後半戦から首位争いに加わってきたヤクルトが6年ぶりにリーグ制覇を果たす。チーム打率・チーム防御率はともにリーグ3位だったものの、監督である高津臣吾氏のマネジメント力が光った。

8月まで巨人、阪神との争いだったが、ヤクルトは終盤に強かった。9月が13勝8敗5分、10月が11勝4敗1分と勢いがさらに加速した。逆に、前半戦(3~5月)に首位争いをしていた阪神・巨人は、終盤まで決め手を欠いたままもつれる形になった。

巨人は、勝負どころでつまづいた。9月3日から9月5日の阪神との3連戦で1勝もできなかったことで、チームの勢いが一気に失われたと言っても過言ではなかった。その結果、優勝争い真只中の9月は月間成績で6勝14敗5分と大きく負け越した。

阪神は、シーズン前半こそ好調をキープしていたものの、決め手に欠いた結果になった。弱点はシーズンを通してディフェンス力だった。失策の数は12球団最多の86を記録しており、失点につながる場面も多々見られた。

また、開幕から活躍していた佐藤輝明がシーズン終盤に絶不調に陥ったことも痛かった。その結果、巨人と同様に終盤で息切れするような形で、ヤクルトに首位を譲った。

◆ブルペンの層が厚いうえ、大事に使った

そのヤクルトは、東京五輪の決勝でホームランを放った村上宗隆が、続く2021年シーズンも絶好調だったことが非常に大きかった。結果的には、39本塁打、112打点を記録し、シーズンMVPに輝く活躍。また、山田哲人も34本塁打、101打点を記録し、上位3球団の中で、打線の軸は一番安定していたと言ってもいいだろう。

投手陣も、高橋奎二は登板数こそ少ないものの、安定した投球を見せており、奥川恭伸は9勝を挙げた。この若手2人以外にも、ベテラン勢も躍動した。大ベテランの石川雅規は防御率3.07と、安定した投球ぶりを見せた。エースとして優勝を経験している小川も9勝を挙げ、新外国人のサイスニードは6勝を挙げた。

ブルペンの層は厚く、クローザーのスコット・マクガフを中心に、最優秀中継ぎ賞を獲得した清水昇、田口麗斗、石山泰稚、今野龍太、坂本光士郎、大西広樹などのリリーフを上手く運用。

優勝した要因と言えるのは、シーズン中は原則的に3日連続登板までとするなど、巧みなマネジメント術を見せたこと。ライバル2球団の状態が落ちてきたところで、安定した試合運びをして20年ぶりの優勝を成し遂げたのだ。

◆2024年の優勝争いは巨人が一歩リード

2024年の巨人は、9月11日のビジターでの広島に対し、初戦を菅野智之の力投で勝利。2戦目は栗林良吏を攻略し、劇的な逆転勝利した。苦手としているマツダスタジアムで連勝できたことにより、勢いにのっているのは間違いない。シーズン序盤こそ、投手と野手の運用が不安視されていたが、徐々に改善されつつある。

野手に関しては、シーズン中盤以降は大城卓三を上手く起用し、バランスがよくなったように感じられる。また、坂本勇人の衰えが顕著に現れている中で、丸佳浩の復活や岡本和真、吉川尚輝らの主軸が結果を残し続けていることや、新外国人のエリエ・ヘルナンデス、ココ・モンテスの加入が打線の起爆剤となり、得点力が向上し、起用法のバリエーションが増えたのも大きい。

投手陣は、近年安定している戸郷翔征や山﨑伊織が試合を作っているが、復活した菅野がMVP級の活躍をしているのがプラスに働いている。さらに、リリーフ陣の登板管理も改善され、シーズン途中に大勢が復帰した後は、大崩れしていない状況だ。勝負どころは、広島、阪神との2連戦が続く9月20日から23日だ。巨人からすると、この期間で一気に決め切りたいところである。

2007年、2010年、2021年の3チームの優勝争いを振り返ると、Bクラスにいるチームの取りこぼしをなくすことや、投手・野手の運用を上手くできるかがポイントである。

セ・リーグの優勝争いは、まだまだ目が離せない。

<TEXT/ゴジキ>

【ゴジキ】
野球評論家・著作家。これまでに 『巨人軍解体新書』(光文社新書)・『アンチデータベースボール』(カンゼン)・『戦略で読む高校野球』(集英社新書)などを出版。「ゴジキの巨人軍解体新書」や「データで読む高校野球 2022」、「ゴジキの新・野球論」を過去に連載。週刊プレイボーイやスポーツ報知、女性セブンなどメディアの取材も多数。Yahoo!ニュース公式コメンテーターにも選出。日刊SPA!にて寄稿に携わる。Twitter:@godziki_55