トップへ

ニンテンドーミュージアムは京都・宇治市の観光を救う? 「資料館」が地域にもたらすもの

2024年09月19日 08:41  ITmedia ビジネスオンライン

ITmedia ビジネスオンライン

ニンテンドーミュージアムが10月2日オープンする

 任天堂が「ニンテンドーミュージアム」を10月2日にオープンする。この施設を紹介した公式YouTubeライブ配信「ニンテンドーミュージアム Direct」は9月19日現在までに135万回以上視聴され、話題を呼んでいる。


【画像】2カ月先までチケット完売…...気になるニンテンドーミュージアムの内観(全4枚)


 任天堂がニンテンドーミュージアムを開館する狙い、そしてこれが地域・日本社会にもたらす効果について考察したい。


●任天堂の「資料館」という側面


 ニンテンドーミュージアムは宇治小倉工場の土地を再利用してオープンする。この工場は任天堂が1989年、花札やトランプの製造工場(当初は宇治工場)として設営し、後にゲーム機の修理業務を行っていた。


 ミュージアムは大きく分けて、1階の体験フロアと2階の展示フロアという構成となっている。まずは同施設の「資料館」としての立ち位置について紹介したい。


 2階の展示フロアでは、任天堂が過去に製造・販売していたさまざまな玩具・ゲーム機を展示する。任天堂は今でこそ家庭用ゲーム機器メーカーとして知られているが、1889年の創業から花札やかるた、トランプなどを強みとした玩具メーカーでもある。


 長い歴史を持つ任天堂の資料館らしく、展示内容は充実している。展示フロアには「ファミリーコンピュータ」(ファミコン)はもちろん、花札やトランプ、ボードゲーム、ラジコンといった玩具のほか、後のデジタルゲーム機につながる「光線銃」シリーズ、任天堂初の家庭用ゲーム機である「カラーテレビゲーム6」など、40~50代の世代ですら初めて見るであろう製品が多く展示される。


 ファミリーコンピュータ以降のゲーム機やゲームソフトについても、任天堂が発売した全てのゲームタイトルが並べられており、今となっては見ることができない旧作のゲーム画面も鑑賞できる。


●既に2カ月先までチケット完売


 体験フロアの1階は、創業時からの製品であるかるたと現代のスマートフォンを組み合わせた体験コンテンツや、かつて任天堂が展開していたレーザークレー射撃システムを現代風に再生したアミューズメント設備を体験できる。この体験で使う銃も過去にコントローラーとして発売された玩具がモチーフであり、人気ゲームタイトル「スプラトゥーン」の作中に登場する“ブキ”のデザインにもなっているなど、世代を問わずファンを喜ばせる仕掛けを施している。


 その他、花札遊びや花札作りの体験コーナー、カフェやグッズショップも設置する。


 任天堂ブランドの人気、展示や体験の充実度を見るに、宇治市の新たな目玉スポットとなることは間違いないだろう。事実、開館から2カ月後までの事前予約チケットは完売しており、現在は12月の来館予約を受け付けている。


●ニンテンドーミュージアムがもたらす効果とは


 多くの来場者が見込まれるニンテンドーミュージアムは、多方面にポジティブな効果をもたらすと考えられる。分かりやすいのは任天堂ファンの熱量向上だが、加えて述べたいのはニンテンドーミュージアムが位置する宇治市の観光振興だ。


 任天堂がIPを積極的にゲーム以外の領域に活用し、より広い層にアプローチしようとしていることは以前の記事で触れた。任天堂の持てるIPをふんだんに活用したニンテンドーミュージアムは、ファンがより熱量を上げ、また新たなファンを獲得する格好の施設となるだろう。


 宇治市からの期待も大きい。宇治市は今年の大河ドラマ『光る君へ』の舞台の一つでもあり、平等院をはじめとした多くの寺社がある人気観光地だ。一方で、観光スポットが宇治駅周辺に固まっており、市内を周遊する機会に乏しいことが課題だった。


 ニンテンドーミュージアムの最寄り駅は同市の西側にある近鉄小倉駅であり、近鉄小倉駅から宇治駅、またはその逆といった形で、宇治市内を東西に横断する人流を作るきっかけになる。


●宇治市も動く


 宇治市も、ニンテンドーミュージアムに合わせた動きを計画している。国土交通省の令和6年度「共創・MaaS 実証プロジェクト」の一つ、「新たな観光拠点創生にともなう地域交通の再生事業」だ。


 この取り組みは、京都京阪バスが7月から、京阪宇治駅~JR宇治駅~ニンテンドーミュージアム~近鉄小倉駅を結ぶ新路線を運行するというもの。ニンテンドーミュージアムの開業に合わせて、運行時間帯の拡大を計画している。このように、地域の自治体や企業からも観光の目玉施設として期待が寄せられている。


 最後に筆者が特に注目しているのは、ニンテンドーミュージアムが持つ、日本の娯楽文化の歴史資料館・博物館としての機能である。


 任天堂のように、130年以上日本の子ども世代の娯楽領域でビジネスを行い続けた企業は多くない。明治期からの日本の娯楽文化を一貫して追い続け、新たな娯楽を創出し続けた歴史や、娯楽の中心がデジタル機器へと変遷していく経緯を、当時の製品とともに鑑賞・体験できる唯一無二の施設が、このニンテンドーミュージアムである。


 今や日本の一大産業に成長したエンターテインメント領域。その礎となる日本の娯楽文化の歴史がここにある。この歴史的価値は時間がたつごとに高まり、国内のみならず国外からも多くの注目を集めるだろう。そう遠くない未来に、日本の名だたる博物館と並び称される存在となることに期待したい。


●著者プロフィール:滑 健作(なめら けんさく) 


 株式会社野村総合研究所にて情報通信産業・サービス産業・コンテンツ産業を対象とした事業戦略・マーケティング戦略立案および実行支援に従事。


 またプロスポーツ・漫画・アニメ・ゲーム・映画など各種エンタテイメント産業に関する講演実績を持つ。