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「iPhone 16」がiPhone新時代の幕を開く 試して分かった大きな違い

2024年09月18日 23:11  ITmedia PC USER

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iPhone 16のウルトラマリンモデルとデザートチタニウムのiPhone 16 Pro

 毎年新しくなる「iPhone」――変化が小さい年もあれば、大きい年もあるが、今回発表された「iPhone 16」「16 Plus」「16 Pro」「16 Pro Max」の4モデルは、大きく飛躍した製品だ。


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 iPhoneは毎年、新モデル発表と同時に過去2年間の標準モデルが価格を下げて継続販売されるが、近々iPhoneの買い替え予定がある人は少し価格面で無理をしてでも、16番台以降の製品を買ってほしいと思う。記事の最後で触れるが、このモデルを境にiPhoneでできることが根本から変わってしまうからだ。


 2025年以降、15番台以前のモデルは急速にできないことが増えて陳腐化してしまう。これに対して16番台以降は高くてもその分、長く最新技術の恩恵を受けられるはずだ。


 もっとも16番台のiPhoneは、そういった不確かな将来性だけでなく、新しい撮影スタイルを可能にする「カメラコントロール」の採用や、オーディオ関連の新技術など見所が満載の新製品になっている。


 いち早く全モデルを試す機会を得たので、早速検証してみたい。


●鮮やかなカラバリの標準モデル 画面が少し大きくなったProモデル


 標準モデルとなる6.1型のiPhone 16と、6.7型と画面の大きなiPhone 16 Plusだが、 最初に感じるのは鮮やかな製品カラーバリエーションの魅力だ。これまで新モデルが出るたびにiPhoneの本体色は薄くなっていく傾向があったが、今回はそこから一転して、ビビッドで鮮やかな印象を与えるピンク/ティール(緑系)/ウルトラマリン(青系)などのモデルや、ひときわ明るいホワイトのモデルが用意された。


 そういったビビッドさが好みに合わない人に配慮したのか、ツヤ消し仕上げでかなり落ち着いた印象のブラックモデルを加えた計5色のカラーバリエーションが用意されている。


 その鮮やかな背面に用意されるカメラレンズの並びも変更になった。これまでは正方形に近いプレート(起伏部)の上に2基のレンズを斜めに配置していたが、今回からは縦一列になり、それに合わせてプレートも小さくなり、より引き締まった印象を与える。


 レンズの再配置は空間ビデオ、空間写真撮影のためで、本体を横に構えた時、水平に並ぶ2つのレンズが人間の左右それぞれの目の役割を果たすことになる。


 進化したのは背面だけでない。肉眼では分からないがディスプレイの上にコーティングされたCeramic Shieldと呼ばれるディスプレイ保護層も新しくなり、ディスプレイそのものと比べて2倍の頑丈さ、業界の他のシールドと比べても50%以上頑丈という安心感を付与してくれる。


 それに加えて側面にも変化が加わった。ディスプレイの左側、音量ボタンの上のサイレントスイッチがあった位置がボタンに切り替わったのだ。


 iPhone 15 Proシリーズにも採用されていたアクションボタンというもので、消音や懐中電灯、iPhoneを虫眼鏡として使う機能など、ユーザーがよく使う機能を割り当てておいて一発で呼び出すためのボタンになっている。最近のiOSで、カレンダーに入力した予定情報などに基づいて自動的に本体をサイレントモードに切り替える「集中モード」が加わり、以前ほどサイレントモードを使う機会が増えたことから行われた仕様変更だ。


 だが、新製品の1番の目玉はディスプレイ右側にある。16番台のiPhoneから初搭載されるカメラ操作用のセンサー、カメラコントロールだ。


 この機能については、後でしっかりと検証をしたい。


 その前に、上位モデルとなる6.3型のiPhone 16 Proと、6.9型と大きなiPhone 16 Pro Maxの外観も振り返ってみよう。一見するとiPhone 15 Pro/15 Pro Maxとは、カメラコントロールの追加以外に変化がないように見える16 Pro/16 Pro Maxだが、実は画面も本体も少しだけ大きくなっている。


 16 Proの3辺は約71.5(幅)×149.6(奥行き)×8.25(厚さ)mmで、厚さは従来と同じだが、縦/横がそれぞれ約3mm/約0.1mm大きくなり、重さも12g増えた約199gになった。


 16 Pro Maxは約77.6(幅)×163(奥行き)×8.25(厚さ)mmで、やはり厚さは共通のまま、縦/横が約3.1mm/約0.9mm大きくなっていて、重さも6g増加した約227gになった。


 もちろん、画面解像度も少し上がって16 Proが2622×1206ピクセル(460ppi)、16 Pro Maxが2868×1320ピクセル(460ppi)となっている。


 Proモデルからは、可能なら少しでも画面を大きくしようというAppleの執念が伝わってくる。


 本体の素材は15 Proと同じで、宇宙工学でも使われているグレード5のチタニウムだ。カラーバリエーションは4種類でブラックチタニウム、ホワイトチタニウムと人気のナチュラルチタニウムはそのままだが、青系のブルーチタニウムに代わって、ややピンクみを帯びた新色「デザートチタニウム」が用意された。かつてのiPhone Proモデルのローズゴールドを思わせる色だ。


 こちらは、おなじみの正方形のプレートに配置された3眼レンズを継承する。それだけに、本体サイズが変わったのに、一見しただけではiPhone 15 Proシリーズと区別がつかない。


●「カメラコントロール」でiPhoneがデジカメに進化


 では早速、注目のカメラコントロールを検証しよう。カメラコントロールを押し込むと、すぐにカメラが起動するカメラ専用の操作部になっている。


 カメラが起動した状態でもう一度カメラコントロールを指で押すと、ディスプレイのカメラコントロール直下の場所に撮影設定を切り替えるアイコンが現れる。指を左右にスライドさせ設定項目を選び、押して選択する。その状態で、再び指をスライドさせてカメラを構えたままズームや露出といった撮影設定を切り替えることができる。


 これは、コンパクトデジタルカメラにトドメを刺す機能かもしれない。iPhoneのカメラは、これまで撮れる画質だけで勝負をしていて、撮影する時の快適さまでは工夫していなかった。カメラ操作は全てディスプレイに表示されるので、一度カメラを両手で構えても、右手を構えた状態から離してディスプレイに表示されるボタンを押したり、露出調整をスワイプして調整したりする必要があり、これが手ブレやビデオ撮影時に余計な音が録音される原因にもなっていた。


 これに対して、専用のカメラではカメラを構えた時の指の位置を基本に操作部を配置しており、それだけに撮影条件を細かく調整しながら快適に撮影ができた。


 カメラコントロールはこの問題を解決するためのもので、iPhoneカメラに初めて「操作性の向上」という概念を持ち込んだ画期的な仕様変更だ。


 では、その出来栄えはというと、正直、最初は配置場所が本体の内側に寄りすぎかなと感じた。筆者は、これまでiPhoneの4つの角を両手の親指と人差し指の腹で押さえて撮影していたが、これだと人差し指がカメラコントロールに届かない。必然的に右手を内側にスライドさせて、画面の一部を右手で覆うような状態での撮影になってしまう。


 おそらく、この配置はiPhoneを縦に構えた場合の撮影に配慮したものだと思う。縦に構えた時にカメラコントロールがあまりにも外側にあると、(片手で持って親指で操作をするにしても、左手でホールドし右手人差し指で操作をするにしても)iPhoneが少し不安定になる。


 正直、最初は不満に思いながら撮影していたが、その後、iPhone 15 Pro Maxで撮影をしようと思ったら、指が自然とカメラコントロールを探していた。そして逆にカメラコントロール無しで撮影していたのが、何と不自由であったかを思い知ることとなった。


 よく考えてみれば、手に隠れてしまう部分も一瞬だけ手をどければ確認はできるし、実はそこまで深刻な問題ではないのかもしれない。


 操作は最初だけ戸惑うが、一度慣れてしまえば問題はない。それどころか、全ての撮影設定が1カ所で指1本を使えば変更できるというのは極めて快適だ。


 1つ不満もある。せっかくこれだけ撮影設定を変えられるのに、ピント合わせ(焦点距離の変更)ができないのだ。確かにiPhoneには優秀なオートフォーカス機能が付いているが、完璧ではない。いや、むしろかなり大雑把で、フォーカスを当てたい被写体を画面上で指でタップして四角い枠で囲んでも、必ずしもピントが合うとは限らない。


 中秋の名月で月面のクレーターまでしっかり入れ込もうと思っても、ほとんどピントが合うことはない。ソフトウェア的にはできることだと思うので、いずれソフトウェアアップデートでぜひ対応してもらいたいと思った。


●最適解の写真はAppleではなくユーザーが作る


 カメラコントロールでピント合わせができないのは残念だが、Appleが対応しなくても、今後、他社のアプリを使ってカメラコントロールでのピント調整が可能になるかもしれない。Appleは、このカメラコントロールの利用を同社の標準アプリだけに限定せず、必要ならカメラコントロールを押した時に、標準カメラではなくいきなり他社製アプリが立ち上がるようにも設定できる。


 他社に課せられたルールは、「カメラ以外の用途には使わないこと」というただ1つだけだが、1つの操作系にいくつもの意味を持たせるのはユーザーに混乱を招き、使われなくしてしまう最大の要因なので、これは良いルールだと思う。


 最近、iPhoneではライカ製のカメラアプリなども出て人気を博しているが、今後、カメラコントロールで起動するアプリによって、同じiPhoneで撮った写真でも撮る人によって個性が分かれてくるといったことが増えるのかもしれない。


 いや、それどころか標準のカメラアプリでも、今後は写真の出来栄えがユーザーごとに変わってきそうだ。


 iPhone 13から、ユーザーが撮影写真を自分らしい個性で味付けするフォトグラフスタイルという機能が提供されたが、iPhone 16からはこの機能が大きく進化した。


 Appleのエンジニア達が突き詰めて研究した結果、撮影写真の個性で大事なのは色のトーンと色合いだということが分かった。そこでiPhone 16シリーズでは、縦軸がトーン、横軸がカラーのグリッド上の点をドラッグして、よりきめ細やかに自分のスタイルを作り込むことができるようになった(カメラコントロールで、トーンとカラーを単体で調整することも可能だ)。


 これまでデジタルカメラ写真の仕上がりはメーカーごとの味があり、例えばやや緑黄色がかった写真が撮れるスマートフォンや色の強調が強めなモデルとか、端末メーカーそれぞれが出した写真の仕上がりの最適解があって、ユーザーはそれを受け入れるしかなかった。


 これに対して、これまでずっとニュートラルな色作りに徹してきたAppleが、ここへきてベースがニュートラルだからこそできる、ユーザーごとの味付けを支援する方向に舵を切ったのは面白い。メーカーが写真の見栄えの最適解を決める他のスマートフォンに対して、iPhoneはユーザーが最適解を決める仕様に進化した、といってもいいかもしれない。


 レンズそのものも進化している。標準モデルレンズは標準モデルもProモデルも48MP Fusionカメラだ。約4800万画素であること、一部切り出しで約1200万画素の2倍光学ズームレンズで撮れることなどは従来通りだが、センサーのデータ読み出し速度が倍に高速化されたため、約4800万画素の写真の撮影も一瞬で終わり次の撮影までのラグがない。


 今回、大きく変わったのは超広角レンズだ。iPhone 16と16 Plusは超広角レンズがマクロ撮影に対応した。


 一方、Proモデルの超広角レンズはこれまでの約1200万画素から約4800万画素に解像度が向上し、マクロ撮影などもより鮮明に撮れるようになった。


 Proモデルだけが備えていた望遠レンズは、前世代ではProモデルが3倍、Pro Maxのみ5倍ズーム(35mm換算で120mm相当)だったが、今回から本体サイズが小さいiPhone 16 Proも5倍ズームレンズを搭載するようになった。


●空間オーディオでビデオ撮影し後から自動でミキシング


 ビデオ撮影に関しても大きな進化がある。4K画質で毎秒120フレームの撮影が可能になったことも大きい。しかも、コントラスト比が高い映像を忠実に再現できるDolby Visionでの撮影が可能だ。


 だが、個人的にそれと負けないくらい大きな変更点として、音を立体的に再現できる空間オーディオで記録できるようになったことを挙げたい。マイクが4基あるProシリーズの方が、より立体的に録れるが、標準のiPhone 16でも空間オーディオでのビデオ撮影が可能だ。


 撮影した動画は空間オーディオのデータと、ステレオの両方の音声トラックが含まれているようで、書き出す時には互換性重視でステレオ音声のみが書き出されるため、今のところ撮ったビデオを空間オーディオで楽しむにはiPhoneで再生する以外の手段がないが、間もなく「Final Cut Pro」や「iMovie」といったアプリが空間オーディオの編集に対応するかもしれない。


 あまり話題になってないが、筆者はただ空間オーディオでビデオが撮れるというだけでも、かなりすごいことだと思う。しかし、Appleはそこにとどまらず、新たに空間オーディオ録音のメリットを感じやすい「オーディオミックス」という機能も用意した。


 これは映像を撮影後に音をリミックスする機能で、例えばガヤガヤしているところで2人の人物が話しているところを撮影しておいて、後から映像に写っている2人の会話だけを強調したり、背景での話し声も聞こえるようにしたりとサウンドを調整できる。


 こんなすごい編集が、OS標準の写真アプリでできてしまう。これからはソーシャルメディアにアップされるビデオの音質もかなり向上しそうだ。


 残念ながら、録音アプリのボイスメモは空間オーディオではないものの、ステレオ録音に対応する。さらに重ね合わせ録音(2トラックの多重録音)もできるはずなのだが、今後のOSアップデートで提供予定なのか今回は発見できなかった。


●AI処理で圧倒的な差が! 長く使い続けたいなら最新モデルを


 最新となる、16番台のiPhone。ここまで紹介してきた機能だけでもかなり魅力的だが、それ以外にも例えばバッテリー動作時間が長くなっていたり、iPhone 16 ProシリーズがWi-Fi 7に対応していたりと細かい違いはたくさんある。しかし、製品の長期的な価値を考える上で最も大きな違いが出るのが、搭載プロセッサの変化だ。


 iPhone 16と16 Plusが備えるはA18プロセッサで、iPhone 16 Proと16 Pro MaxはA18 Proプロセッサとなる。どちらも2023年発売のスマートフォン、iPhone 15 Pro/Pro Maxが搭載するA17 Proの性能を、一部を除き大きく上回っている。


 定番テストプログラムのGeekbench 6と、AI処理をテストするGeekbench AIで検証した。


 従来の最高峰モデルであるiPhone 15 Pro Maxを基準にすると、iPhone 16/16 PlusはGPU性能こそほぼ同じながら、CPU性能は20%高速化し、ニューラルエンジンを使ったAI処理では最大約33%高速化していた。


 iPhone 16 Pro/16 Pro MaxはCPU性能が25%、GPUが18%、そしてNeural Engineを使用したAI処理は最大33%ほど高速化している。


 この大きな性能差の内、特にニューラルエンジンの性能差がかなり良くなっていることが分かると思う。これは16番台以降のiPhoneがAI処理に注力していることを示す証拠で、Appleが開発しているApple Intelligenceの時代に備えたモデルであることが分かる。


 ちなみに、実はiPhone 15 ProのA17 Proも、それなりにAI処理に最適化されており、Apple Intelligenceにも対応する。


 だが、同じく2023年に発表されたiPhone 15だと、ニューラルプロセッサを用いた半精度という処理の性能がiPhone 15 Pro Maxの51%、iPhone 16の38%ほどの性能しかなく、Apple Intelligenceを動かすことができない。


 ここではApple Intelligenceの詳細は省くが、今はまだ米国のみに対応(10月にβ版提供予定)のApple Intelligenceも、2025年以降は日本でも利用できるようになる。そして、あと数年もするとアプリに用意されたさまざまな機能も、これまでのように人間がアルゴリズムを書いて処理させるのではなく、AIが機械学習によって得た直感で処理するようになる。


 そしてApple Intelligenceは、どんなアプリがどんな機能を提供するかを理解し、ユーザーがSiriに伝えた要望をどのアプリ、どのAIに割り振ればより良い結果が得られるかを判断して仕事を振リ分けるようになる。要するにiPhone利用の多くがAI処理に変わっていく。


 A18以降のプロセッサを搭載した16番台以降のiPhoneであれば、この恩恵を受けて、これから先5年くらいは最先端のスマートフォンの利用方法を享受できるが、それ以前のプロセッサを搭載しApple Intelligenceが利用できないiPhoneはこれまで通りの使い方しかできず、できることの差が大きくなって価値が下がってしまう。


 だから、これからiPhoneを乗り換えるのであれば、多少値段が張ったとしても16番台の最新iPhoneを手に入れた方がいいというのが筆者の持論だ。幸運にも、今回はお手頃価格の標準モデルでも、かなり魅力的な機能を備えているからだ。