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XRグラス「RayNeo Air 2s」、エンタメ用途はバッチリ! じゃあビジネス活用では……?

2024年09月17日 12:21  ITmedia PC USER

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8月15日に、TCL RayNeoが日本でも発売したサングラス型ディスプレイ「RayNeo Air 2s」

 昨今、さまざまメーカーからXR(AR)グラスが登場しています。いずれも似ているようで少しずつ特徴が異なり、選択に迷う状況かもしれません。


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 今回はTCL RayNeoが8月15日に発売したサングラス型ディスプレイ「RayNeo Air 2s」を試す機会を得ました。


 本連載は仕事術をコンセプトとしているので、まずは仕事で使えるかという視点で試してみました。そして、メーカーが第一に考えているエンタメ利用についても検証しているので、それらをお伝えできればと思います。


 正直なところ、ビジネス用途を考えると競合製品と比べて弱さが否めません。しかし、本来のエンタメ利用では製品のシンプルさが功を奏し、非常に使い勝手がよいものだと感じました。


●シンプルなハードウェア


 RayNeo Air 2sはソニーセミコンダクタソリューションズの0.55型マイクロOLED or microOLEDディスプレイを採用しています。メーカー担当者いわく、前方6m先に201型相当のディスプレイを置いた視覚体験を得られるようです。


 ディスプレイは600ニト相当の明るさを持ち、リフレッシュレートは120Hzに対応しています。そしてメガネのテンプル(つる)部分に搭載された4つのダイナミックスピーカーにより、心地よいサウンドを体験できます。


 本体重量は約78gで、ずっとかけ続けていても不快にならないレベルの重量です。バッテリーは搭載せず、接続したデバイスからの給電で動作します。バッテリーの充電管理が不要なのはうれしいポイントです。


 逆に言えば、ハードウェア的な特徴は以上です。他製品にあるような「サングラスの濃さを電気的に変更できる」「3DoFや6DoFに対応しており、空間把握が可能」「トラッキング用のカメラを搭載」「視力補正機能あり」といったものは省かれています。至極シンプルなハードウェアだと感じます。


 個人的には見た目が好きです。スポーツタイプのサングラスのように見えるため、大げさなガジェット感が薄れています。もちろん、使用する際はメガネとデバイスをケーブルで接続するので、何かしらの電子機器だと分かりますが……。


●大いに気に入った装着感


 最近は購入した「Apple Vision Pro」を装着していることが多いからか、当たり前とはいえRayNeo Air 2sの約78gという重さはまるで装着していないような感覚です。


 さらにテンプル部分の構造も良好で、締め付け感がかなり軽減されています。この着け心地は非常に重要で、利用頻度に大きく関わってくる要素だと考えています。個人的には、今まで体験したサングラス型デバイスの中で、一番着け心地が良いです。


 デバイスに接続すると、問答無用で目の前にドーンと画面が表示されます。3DoFなどの機能がある場合、どこかの空間に画面を固定するといった使い方をすることもできますが、本製品では不可能です。


 逆に常に目の前に何かしらが表示されることになります。よく言えば、ARグラスで散見される「右の空間に配置した画面は、視野角の問題から右を向かないと表示されない」といった問題は発生しません。


 極端な話、XRグラスというよりは「USB Type-C接続のグラス型モバイルディスプレイ」とイメージした方が、製品として分かりやすいですね。


●PCでの活用は、付加価値がなかなか見いだせなかった


 Windows/Mac/Android/iOS(USB Type-C搭載モデル)など、USB-Type CのDisplayPort Alternate Modeによるディスプレイ出力に対応しているデバイスであれば、接続するだけで外部ディスプレイとして認識されます。


 ビジネス利用と考えるとPCやMacで使いたくなりますが、なかなか活用方法が見いだせませんでした。可能性がある拡張ディスプレイとしての使い方ですが、RayNeo Air 2sはそもそも画面が目の前に表示され続けます。そして、サングラスもそれなりに濃いため、例えばノートPCの外部ディスプレイとして使おうと思っても、ノートPC本体のディスプレイが見えづらくなってしまいます。


 ありえると思ったのは、ノートPC側の画面表示をオフにし、RayNeo Air 2s側のみ表示して使う方法です。これは、周囲から画面が見られないということで、ノートPCにプライバシーフィルターを装着する以上ののぞき見防止効果が期待できます。実測してはいませんが、ノートPCの画面表示よりもRayNeo Air 2sのみ画面表示させた方が、バッテリー消費が少ないということもありえそうです。しかし「そこまでして使うか」という問題は付きまといます。


 他には、流行のミニPC用のディスプレイとして使うような用途でしょうか。こちらは、相当コンパクトな環境が作れそうです。


 Windows PC用に「TCL NXTWEAR Mirror Studio」という、空間にアプリウィンドウを表示するアプリも無償提供されています。しかし、私のPCとの相性問題か、どうも画面表示がうまくできなかったため諦めました。


 そもそもですが、RayNeo Air 2sとしてはこうしたPCでの利用等は売りにされていません。エンタメ利用のガジェット、という位置付けでしょう。エンタメもビジネス利用も、とお考えの方は、他のXRグラスを選択されるのがよいかと思います。


●エンタメとしての利用は快適!


 エンタメとしての利用、つまり、YouTubeやNetflix、ゲーム等の画面表示としての利用です。これらの体験は、かなり素晴らしいです。


 スマホ等にUSB Type-Cケーブルを接続すれば、目の前にデカデカと画面が表示されます。画面の輝度や音量は、メガネのテンプル部分に物理ボタンがあるため、調整が容易です。この手の操作は、やはり物理ボタンがあるのが強いですね。


 音質も良く、個人的には動画などを見る分には全く気になりません。そもそも音質にこだわる場合は、それなりの専用機材が必要となるでしょう。


 そして「Whisperモード」という、周囲に音漏れしづらくなるモードがあります。こちらを使って身近な人に音漏れ具合を尋ねましたが、かなり音は消えているようです。あまりに静寂な環境でなければ、音が鳴っていると分からなさそうです。ただし、当然音量によるので、マナーを守りつつ楽しみましょう。


 個人的には、カフェなどで「自分には聞こえる小さめの音でYouTubeを見る」という使い方は問題ないと感じます。


 なお、サングラス自体が濃いので、AR(現実世界に、画像情報を浮かせて表示する)というよりは、没入感の方が高いように感じます。とはいえ、完全に周囲を遮断する暗さではないので、そうした利用をしたい方は注意が必要です。


●関連グッズの活用で、さらに快適に


 RayNeo Air 2sの関連グッズである「RayNeo Pocket TV」も試してみました。これは、Google TVが内蔵されているバッテリー付きリモコンです。


 画面のないAndroidスマホみたいなものです。Androidそのままというわけではありませんが、YouTube、Amazonプライム・ビデオ、Hulu、Netflixなど、さまざまな動画アプリが動作します。Androidアプリの追加も可能で、私がよく使うDLNAに対応した「nPlayer」というアプリも利用できました。最大2TBのmicroSDメモリーカードも使えたので、直接データを入れて持ち運ぶことも可能です。


 このPocket TVにRayNeo Air 2sをUSB Type-C接続するだけで、大画面で動画を見られるというわけです。Pocket TVは物理ボタンがあるのが素晴らしく、動画を見るには最高の端末だと感じました。


 十字カーソル移動、決定、戻る、アプリキー、音量調節など、よく使う操作が手元で物理操作できます。やはり物理キーは最強です。


 蛇足ですが、妻は面倒な機器はすぐに使わなくなります。しかしこの組み合わせはシンプルで操作に迷うこともなく、珍しく「このセットは欲しい」と言われました。ドラマなど、手軽に見たい時に使い勝手がいいようです。


 また、Pocket TV以外にも、Nintendo Switchと接続するための「JoyDock」という関連機器もあります。こちらは試せていませんが、バッテリー搭載しているため、電源がない場所でもゲームが遊べます。


●個人的には、Steam Deckに接続しての利用が素晴らしい


 私は、手軽にゲームをプレイしたい時は「Steam Deck」を使用します。しかし、やはり手元の画面を見てプレイすることになるので疲れやすいというのと、本体自体が重いです。とはいえ、ディスプレイ等に接続してまでSteam Deckを使うかというと、それならばPCでSteamを起動すればいいや、となります。


 しかし、Steam DeckはUSB Type-C接続が可能なので、RayNeo Air 2sとケーブル1本で接続するだけで大画面でプレイできるようになります。Steam Deck LCDは、4K/120Hzの外部出力が可能です。RayNeo Air 2sの120Hz表示が生かせることになります。もちろん、どれだけのリフレッシュレートが出せるかは、Steam Deck本体の性能に依存します。


 画面表示とコントローラーが分離できることで、机に置いたままや違った体制でゲームをプレイすることが可能になります。


 私は普段はメガネをするので、こうしたグラスを使う時はコンタクトを装着する必要があります。しかし、コンタクトの装着は何かと手間がかかります。


 RayNeo Air 2sは、矯正メガネを装着できる機構が用意されています。この手のレンズを作っているお店としてはJUN GINZAさんが有名ですが、問い合わせしたところ、RayNeo Air 2sの専用レンズも作成可能とのことでした。後日、作ろうと考えています。


●エンタメ利用は良し! 何を最優先にするかがポイントか


 快適なエンタメ利用と考えると、RayNeo Air 2s+RayNeo Pocket TVといった組み合わせは非常にオススメです。装着感の快適さもあってか、「エンタメ用途にどれか1つを選んでください」と言われたら、私はRayNeo Air 2sを選びます。


 しかし、PCでの活用やAR空間の体験といった、プラスαの使い方をしたいと考えた時、他の製品も視野にいれた方が良いと思います。他の競合製品と比べてRayNeo Air 2sは安いというわけではありません。Amazon.co.jpではクーポン利用で約6万円です。こうしたXRグラスに何を求めるかをよく検討した上で、選択されると良いかと思います。