出世競争は厳しいものだ。しかし、「昇進が5年遅れると、自動的に配属が変わり、年収大幅ダウン」となれば、その厳しさは相当なものだろう。
とある男性が働く大手カード会社では、そんな制度が数年前に導入され、社員が戦々恐々としているという。
「規定年数で管理職に昇格できなければ、総合職から別の職群に転換になり、年収が数百万円ダウンします」と男性は語る。
男性によると、総合職から一般職への配置換えの対象者は「年々増え続けて」いるという。「未来に希望を持てません」と語る男性に、状況を詳しく教えてもらった。(文:篠原みつき)
入社後に知らされた「タイムリミット」
男性が「昇進が5年遅れると、総合職ではなくなる」という社内ルールを知らされたのは、入社後のことだった。
この会社には、「リーダー候補の総合職グループ」と「一般職的なグループ」があり、採用も別々だ。
総合職は大まかに、係員、主任、副主事、主事などを経て部長代理、次長、部長などの順に役職がある。職位ごとに2年~3年の“モデル経験年数”があり、これを過ぎても昇進できないと「遅れ」ということになる。これが「5年遅れ」になってしまうと、総合職というカテゴリーから追い出されてしまうのだ。いわゆる一般職になれば、仕事内容や待遇が変わり、年収もダウンする。
男性は「入社前には、この制度の説明は一切なかった。入社後の人事制度説明の場で初めて知らされ、内心ショックでしたね。クリーンなイメージがあっただけに非常に残念でした」と語る。
いまのところ「総合職」の男性だが、今後もそうあり続けるためには「モデル経験年数」を大きく外れないように出世し続け、管理職に至る必要がある。
なまじ職位が上だと「落差」が激しい
この所属転換時の「落差」は、総合職だったときの職位が上だった人ほど激しいものとなる。
「主任だったら年収600~750万から500~600万円へダウン。副主事だったら年収700~850万から550~650万円に減額。部長代理だったら800~1000万円あった年収が600~750万円となり、200~250万円もの大幅ダウンです」
百万円単位でダウンすると、それだけで生活に大きな影響があるだろう。その上で男性は「これは、職群転換の名を借りた不当な降格人事であり、違法性も疑われると私は考えています」と主張する。
一般職になると、住宅関連の手当も支給対象外になるという。
「総合職では40歳まで支給対象となっている住宅手当、別居手当、帰省旅費手当がもらえません。また、寮や社宅にいる人は退居しなければなりません」
自分が昇格できたかどうかは、毎年4月1日付で社内全体に発表される「昇格者一覧表」でわかるという。
男性は「規定年数ギリギリだった人は、そこで自身の名前がなければ降格となります。長年企業に尽くしてきた社員が年々降格対象となり年収3割ダウンした姿を見ると、本当に辛いです」と語る。
「管理職」になれた勝ち組は……
男性は、制度の導入前に管理職になっていた人だけが「得をしている」と憤る。
「部長代理の上位グレード以上に昇格した社員は、それ以後一般職へ転換の対象外となり、基本年収1000万を下回る事はなくなります。この制度が導入される前年までに管理職になっていた社員が一番得しています。よって、制度導入時は当然に管理職から反対はが出る訳ありません。現在の係員・主任・副主事である20~30代は、この理不尽な制度の影響をもろに受ける形となっています。」
これ以上出世できないことがわかっても、待遇が「現状維持」なら、少なくとも現状と同レベルで頑張るモチベーションはわく。しかし、「転属=年収ダウン(事実上の降格)」となると、やる気は減衰してしまいそうだ。
「年収が3割ダウンした社員からは『もう一般職になったから面倒な仕事は総合職が引き受けろ』などと、投げやりな言葉が出ていたのを聞いた事があります」と男性は語る。職場の雰囲気が以前と変わり、若手から中堅の離職が止まらない状況だという。
「この人事制度さえなければ辞めなかった社員は大勢いるでしょう。本当に残念です」と語る男性は、OB訪問を受けた際には、必ずこの制度のことを伝えているそうだ。
男性は「非管理職の社員は私も含め、日々降格に怯え働いています。そんな環境下でベストなパフォーマンスを発揮できる訳はありません。期待はしていませんが、人事部はなぜ、この会社は離職が止まらないのかを真摯に受け止め、この問題に本気で向き合ってくれる事を心から祈っています」と語っていた。