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伊藤忠商事、突出した高給に、部長4千万円・平社員2千万円…年収一律1割増

2024年09月07日 18:00  Business Journal

Business Journal

伊藤忠商事(「Wikipedia」より/Rs1421)

 総合商社の伊藤忠商事が、2025年度の社員の平均年収を24年度見込みから10%程度引き上げる方針であることがわかった。24年度の純利益の計画値8800億円が達成できた場合、成績最優秀者の年収は「BAND6(部長)」が4110万円、役職がない「GRADE3(担当者)」でも2500万円となる。一部SNS上では「医師たちが『俺も総合商社に行けばよかった』とか言ってる」「最上位社畜たちの椅子取りゲームをナメるな」など、総合商社と同じく激務かつ高年収とされる医師の待遇と比較する声や、仕事のキツさや出世競争の激しさゆえに安易に憧れるのは禁物だといった声もみられる。伊藤忠商事の社員の実態とは。そして、仕事の大変さを勘案するとこの年収水準は妥当といえるのか。業界関係者の見解を交えて追ってみたい。


 4大総合商社の一角を占める伊藤忠商事は、財閥系の三井物産・三菱商事・住友商事に対し、非財閥系と称され、財閥グループの力を頼れないなか独立独歩で業績を拡大。その積極果敢な社風から「野武士集団」ともいわれてきた。業績的には長きにわたり三井物産と三菱商事の後塵を拝してきたが、16年3月期に最終利益ベースで初めて業界1位に浮上。以降、三井物産、三菱商事と毎年、首位争いを演じている。


 伊藤忠商事の事業構成としては、総合商社にとっては従来型ビジネスとされる資源事業に加え、IT・食品・繊維・小売り・生活資材など一般消費者に近い領域に強みを持ち、業界内では異色の存在とされる。


「日本経済界でも突出した高給になります」

 その伊藤忠をめぐって、少し前から一部SNS上で話題となっていたのが、社内から流出したとされる、岡藤正広会長CEO名で書かれた「年収水準見直しについて」と題する社内文書だ。「来期以降の処遇を大きく改善し財閥系商社に負けない水準の制度に改訂する」「財閥系商社との格差を埋めることを優先」と書かれた文書によれば、24年度の純利益の計画値8800億円が達成できた場合、25年度の年収は24年度比、総平均で10%上昇するといい、「三菱商事及び住友商事と同じ業績を達成した場合には、両者と同水準となります」としている。


 改定後の成績優秀者の年収は、「BAND6(部長)」が4110万円、「BAND5(課長)」が3620万円、「BAND4(課長代行)」が2970万円、「GRADE3(担当者)」が2500万円となる。文書内には「日本経済界でも突出した高給になります」とも書かれており、同社はメディア各社の取材に対して同社が作成した資料であることを認めている。


 三菱商事の今年夏の平均賞与支給額が641万円にも上ることが話題を呼んだが、総合商社の給与水準は高い。4大商社の23年度の平均年間給与は、有価証券報告書によれば軒並み1700万円を超えている。


商社業界のなかでの人材獲得競争

 転職支援サービス会社社員はいう。


「日本企業の場合、たとえば大手メーカーでも極めて業績が良い一部の自動車・半導体製造装置・機械系の企業などを除けば、年収はそれほど高くはなく、1000万円を超えるのは一部の管理職クラスだけ。高給というイメージが強いメガバンクも支店長クラスで1500万円くらい。一方、外資系投資銀行だと新卒1年目で1000万円、30代まで残ることができれば2000万円を超えてきて、あとは実力と出世次第で3000~4000万円もみえてくるが、生存競争は極めて激しい。外資系コンサルティング会社もコンサル職であれば、投資銀行ほどではないが、それなりに高い。


 そう考えると、今の4大総合商社の年収水準は、日本国内に限っていえば、かなり特殊な状況になっている。現在では金融やITでも高いスキルを持つ人材に数千万円の報酬を提示することが増えており、そうした他業種に人材を“採り負けない”ことを意識している面はあるだろうが、やはり優秀な人材を同業の競合他社に取られないようにするという、商社業界のなかでの人材獲得競争という側面が、各社の給与引き上げ競争を招いているのではないか」


 また、総合商社社員はいう。


「月の給料は他の日本の大企業と比べて『すごく高い』というレベルではなく、年収でみると月の給料よりボーナスのほうが多い。会社が『頑張って利益が出れば収入が増えますよ』というかたちでインセンティブの要素を多くしているためで、もし仮に業績が悪化して赤字に陥ったりすれば、ボーナス部分が激減するので年収も減ることになる」(6月6日付当サイト記事より)


“どうすれば総合商社に就職できるのか”という明確な基準はない

 今回の伊藤忠の動きを受け、一部SNS上では以下のとおり、総合商社と同じく激務で高年収というイメージが強い医師の待遇と比較する声が相次いでいる。

<伊藤忠の給料を知った医師たちが「俺も総合商社に行けばよかった」とか言ってるの、さすがに世間知らずすぎだろ。最上位社畜たちの椅子取りゲームをナメるなよ>

<昔から知る、商事や物産、伊藤忠等の友達いますが、医者目線では彼らに優秀さは無いんですよね 容姿やコネ、コミュ力()等があればよく、実力に欠けるので、その意味で羨ましいなあ、と>

<周りの医師でそんな人いないんだが むしろ商社の給料以上に稼いでいる人ばかり>

<学歴は医学部の方が上だろうけど、実際入れるかは微妙>


 総合商社社員はいう。


「知り合いの医師の働きぶりを見る限り、そもそも医師と総合商社社員では求められる能力が違うので、どちらが優秀かどうかという議論は成立しないでしょう。また、同じ医師でも専門科が何なのか、勤務医なのか開業医なのかでも違ってきますし、商社も部署によって働き方や待遇は違ってくるので一概には比較できません。


 ただ、あえて誤解を恐れずに言うと、大学受験においてある程度の高い偏差値を出せる学力を有する人であれば、医学部に入って医師になれる確率は高いと思いますが、総合商社は学力が高いだけでは採用されませんし、入社できても仕事で高いパフォーマンスを出すことはできません。それなりに高いレベルの知的能力に加えてコミュニケーション能力、激務に耐えられる体力やメンタル、ビジネスセンス、各種ビジネススキル、営業力など総合的な人間力が問われます。医師国家試験のような試験もなく、“どうすれば総合商社に就職できるのか”という明確な基準もないため、就職や出世という面では、医師と同じか、もしくはそれ以上に難しい面はあるかもしれません」


(文=Business Journal編集部)