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BTS、SEVENTEEN参加の1.5億DL超“推し活”アプリ「Weverse」 LTV向上の秘策は?

2024年09月07日 11:31  ITmedia ビジネスオンライン

ITmedia ビジネスオンライン

Weverse Con Festivalに出演したLE SSERAFIM((C)AliExpress 2024 Weverse Con Festival)

 BTSやSEVENTEENなどのグローバルアーティストを擁する韓国のHYBE。同社は音楽以外にもアプリ、ゲーム、AI音声技術なども開発するテック事業を傘下に置いている。


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 2019年にリリースし、累計ダウンロード数が1.5億を超えるオールインワンアプリ「Weverse」を開発、運営するのはHYBE傘下のWeverse Companyだ。HYBEのビジネスモデルを構成するトライアングル「音楽」「プラットフォーム」「テクノロジー基盤の未来成長事業」のうち、プラットフォーム部分を担う。


 Weverseは、推し活に必要なサービスをワンストップで提供するプラットフォームだ。15カ国語の翻訳機能を有し、ライブビデオストリーミングサービス「Weverse LIVE」や独自のコミュニティー内でアーティストと交流しながら、Eコマースやファンクラブ、オンラインコンサート、VOD(ビデオ・オン・デマンド)を楽しむなど多様な機能を一カ所に集めた。


 Weverse Companyは同プラットフォームを駆使して、ファンの顧客生涯価値(LTV)向上のための模索を続けている。同社のチェ・ジュンウォン代表に、アプリを通じたLTV向上の秘策を聞いた。


●アプリを分析してコンサート開催 「ファンの変化を確実に捉える」


 同社は6月15日~16日、韓国・仁川国際空港そばにあるIR施設「インスパイア・エンターテインメント・リゾート」で、Weverseに参加しているアーティストなどが一堂に会したイベント「Weverse Con Festival」を開催した。同イベントではここでしか手に入らないフォトカードを配布。ファン同士で交換などをしていた。チェ代表は、イベント開催の狙いにLTV向上があったと語る。


 「2023年にオリンピック公園で開催した前回に続き、オフラインでも実施したのは今年で2回目でした。前回よりも内容は改善できたと思います。来場者が喜ぶ姿を見て、何らかの役に立っていると思えたのは素晴らしいことでした」


 2025年の開催場所は未定とのことで、今後の課題は「2025年以降、フェスに出演するアーティストが増えることを期待していますから、もっとさまざまなジャンルの音楽を用意する必要があること」だという。


 フェスはライト層もターゲットにしている。あらゆる顧客の最大公約数を満たす意味で「もっとさまざまなジャンルを」というのは、その通りなのだろう。一方コアなファンのLTVを高めたいのであれば、オーダーメイドのように細かなサービスを提供する必要もある。だが、それは最大公約数を狙う方法論とは、ほぼ対極にあるものだ。どう対応していくのかを聞くと「とても難しいテーマです。そもそもフェスティバルという名前を使うかどうかも悩みました」と明かす。


 「ライト層もコアなファンも両方が楽しめる工夫をしました。屋外会場のディスカバリーパークでは、前方に立てば、目の前のステージのパフォーマンスに没頭し、叫びながら盛り上がれます。後方なら芝生の上に座って、何か食べながらリラックスして音楽やフェス自体を楽しむことも可能です。屋外ゆえに解放感のあふれる演奏に聞こえますが、夜の部のアリーナでは、室内会場ならではの迫力あるサウンドを聞いてもらえたと思います」


 アプリを開発するテック事業としては、フェスで音楽を楽しんでもらいつつWeverseにより親しみを持ってもらうことが開催の趣旨だったはずだ。


 「その通りです。Weverseのサービスを使ったとき『利用してよかった』『使いやすい』『コンサートも楽しかったけど、Weverseを使ったおかげでもっと楽しめた』など、アプリを通じて楽しさを提供できるかどうかが課題です」


 Weverseでは、コンサート会場の物販で長時間並ばなくても、アプリを通じて受取時間を予約できる「Weverse PICK-UP」という会場受け取りシステムを提供している。


 同社によると、5月に日本で開催したSEVENTEENのスタジアムツアーでは、4日間で38万人を動員する規模で、公式商品の受け取りのためにWeverse PICK-UPを導入。日産スタジアムでは商品を受け取る列で10分以上待つことはなく、受け取りのためのQR表示をしてから退場までは約1分で進行したという実績があるという。


 データや情報を有効活用できるかどうか。これはテック事業ならずとも、あらゆる事業にとっての課題だ。


 「当組織にはエンジニアが150人ほど在籍し、その中にデータ分析のチームがあります。例えば、Weverseの全体的なユーザー属性を分析し、日本のアーティストがWeverse Conのようなイベントに参加すると、韓国に限らず多数の国と地域からの登録者が増える、などといった傾向が分かります」


 アーティスト側も、自身のファンのコミュニティー(=ファンダム)の傾向を知ることができる。一定の国からの加入者が多いアーティストがおり、それを踏まえて当該国でコンサートを開催したという。ファンのLTV向上につなげることができた好事例だ。


 「ファンの変化を確実に捉え、さらに登録者を伸ばすための方策を考えるのです。アーティストに対しても、より使いやすいシステムにしていくのが私たちの義務です。現在、その作業中です」


 テック企業を含め、エンジニアは世界的な人材難だ。プラットフォーム事業部門であるWeverseとしては、GAFAなどとの人材獲得競争が待っている。実際、韓国の大手IT企業に在籍したエンジニアがWeverseに転職してきているという。


 「(採用面においても)HYBEの傘下事業であることは大きなメリットです。Weverseという組織では、技術、IP、グローバルサービスの3つがキーワードです。グローバルな会社で、大きなIPを保有していること自体、エンジニアに良い影響を与えています。世界で数千万人がアプリを使っていると思うと、やりがいを感じられるはずです。大きなプロジェクトに携われる経験は、非常に興味深いものだからです」


 チェ代表も約20年間ゲームの世界にいた。在籍していた会社は、ビデオゲームやコンテンツなどのIPを持ち、プラットフォームも作っていたという。 K-POPが急成長していることはあまり知らなかったものの、4年前にHYBE創業者のバン・シヒョク氏に出会い、プラットフォームを作ってきた経験を買われ、現在に至る。


●決済など現地の実情にあったサービスを構築 


 日本は、世界と比べるとデジタル化で出遅れた。スイスの経営大学院IMD(国際経営開発研究所)が発表した「2023年世界デジタル競争力ランキング」で韓国は6位。日本は32位と大きく水をあけられている。


 チェ代表からみて、日本のエンタメ業界が抱える課題を聞くと「私が日本のエンタメ業界そのものを評価するのは適切ではないと思います。ただ、Weverseが圧倒的に優れていたり、誰よりも早く先駆けたりすることが重要だとは思いません。私は、アーティストやユーザーが望んでいるものは何かを常に考えています」と答えた。


 日本でのWeverseの役割については「日本からグローバル市場へ、というニーズに応えることです。もう1つは、Weverse内で開くライブで、たくさんのファンが集まり大容量のトラフィックになっても安定した運営をできるようにすることです。日本のファンクラブのサービスと比べても、私たちは競争力を持っていると考えています」


 「韓国は主にアプリ開発を担当しています。日本、韓国、米国の実情にあったサービスを開発しなければいけません。例えば、決済や物流などは、国ごとの法律や慣習に合わせる必要があります。それは、現地で活動するレーベルや所属のアーティストをサポートする形になるのです」


 以前Weverse Japanのムン・ジスGMにインタビューしたときも、決済と物流に力を入れたいと語っていた。それは、この考えの基づいているということだ。


●「LTV向上のための循環」を生み出せるか


 多くのテック企業が技術革新によって便利さを追求してきた。Weverseはまさにオールインワンのアプリだ。ここからさらに新規ユーザーを獲得し、データを分析し、アプリの改善につなげ、使い勝手を改善できれば、ユーザーのロイヤルティーを高められる。そうすれば、さらに質の高いデータが集まり、アプリを進化させられる。


 この循環を、Weverseが真に実現できるか。LTV向上のカギになりそうだ。


(武田信晃、アイティメディア今野大一)