2024年09月07日 10:41 ITmedia NEWS
国内ポータブルバッテリー市場で大手となった中国ECOFLOWが、9月以降に販売予定の製品発表会を行った。一部製品はすでに先行販売が始まったものもあるが、国内未発表の製品も数多く展示した。
【写真をじっくり見る】なんと「麦わら帽子型ソーラーパネル」も登場した(計17枚)
南海トラフ地震臨時情報の発令、台風10号による甚大な被害と、日本全体に自然災害不安が高まっている。かく言う筆者も、住まいの宮崎県から東京・代官山での発表会に臨んだはいいが、翌日帰る予定が台風10号停滞のためになんと3泊もする羽目になっており、この原稿もそんな中で書いている。
宮崎の家は大型マンションなので倒壊の心配はないが、停電はあったそうだ。家族は不安だろうが、家にはポータブルバッテリーはECOFLOWの「River 2」と「River 2 Pro」があり、フル充電してきた。さらに今回の発表を受けて先行でお借りしている「River 3」まであるので、少なくとも電力面での不安はないのは不幸中の幸いである。
今回は特に防災目線で、ECOFLOWの新製品をチェックしてみたい。
●オールマイティーモデル「Delta 3 Plus」
発表会で最初に紹介されたのが、中型モデルの「Delta 3 Plus」だ。すでに先行して「Delta 3 Pro」が発売されており、Delta 3シリーズはPlusとProはあるものの、「無印の3」がないという状態になった。ラインアップの基本モデルとなる「無印の3」がないということは考えられないので、おそらく遅れて「Delta 3」も登場するものと思われる。
シリーズの前身となる「Delta 2」は、同社でもっとも売れたモデルだ。販売ユニット数は全体の25~30%にも上るという。実際筆者の知り合いの映像関係者も、撮影基地局用バッテリーとして「Delta 2」を運用している人は何人かいる。容量やサイズ感もちょうどいいのだろう。
Delta 3 Proは、Delta 2とほぼ同サイズで、容量も同じ1kWh、出力も1500Wと同じだが、高速充電と拡張性が加わった。AC電源からの充電では業界最速となる56分でフル充電できる。
充電が早いメリットは、ヤバい停電するかも、と思った時から充電を始めても間に合うところである。まだ家に帰り着いていない時でも、スマホアプリで充電開始をリモート操作できる。
加えてアプリでは、新たに「Storm Guard」機能を搭載した。アプリが気象情報をウォッチし、12時間以内に悪天候となる場合にはユーザーに通知を出して充電を促す機能である。
さらにソーラーパネル入力が2系統となり、500W+500Wで約70分でフル充電となる。ソーラーパネルは、たくさんつなげばたくさん電力が得られることは当たり前だが、複数のパネルを接続する際に、直列よりも並列の方がメリットが高い。直列は接続が簡単だが、片側が日陰になるだけでもう片側の出力も下がるという欠点がある。
並列つなぎではそのようなデメリットはないが、2又になったケーブルを別途用意する必要がある。2枚までならそう難しくないが、3枚、4枚となると、もうトーナメント表みたいな配線になっていくので、大変ややこしい。そうなるのも、多くのポータブルバッテリーにはソーラーパネルの接続口が1系統しかないからである。
Delta 3 Plusはソーラーパネル接続で広く普及しているXT60を2系統にしたことで、2枚つなげば普通に並列つなぎになる。この程度の中型機ではなかなかない仕様だ。
もう一つの電源入力として、車用オルタネーターチャージャーを使っても、1時間20分でフル充電できる。車からの充電ではシガーソケットからの充電が一般的だが、これだとせいぜい8A程度しか取れないので、時間がかかる。オルタネーターチャージャーは、車の発電機の余剰電力を取りだして800W出力できるので、このスピードというわけだ。
車で避難するというケースはそれほどないにしても、家屋がダメージを受けた場合、大型車やキャンピングカーなどを所有している方は、車内に一時避難することは考えられるだろう。EV車じゃなくてもエンジンをかければ高速充電できるのは、備えとしては検討に値する。
出力としては1500W、最大サージ3000Wなので、家庭用エアコンも駆動できる。容量拡張という面でも、Delta 3 Pro用の4kWh拡張バッテリーと組み合わせられるようになった。単体でも冷蔵庫は動かせるが、合計5kWhあればエアコンを動かす事も視野に入ってくる。真夏の停電で、数時間でもエアコンが動かせるのは大きい。
Delta 3 Plusの重量は約13kgなので、男性ならなんとか1人で持てないこともないが、これを持って逃げるのは非現実的だろう。拠点となる家庭や車に据え置きと考えるべきだ。
●持って逃げるなら「River 3」
「River 3」は、同社ポータブルバッテリーではもっとも小型だった「River 2」の後継機で、入出力の仕様は変わらず、さらに小型化を進めたモデルだ。容量は245Whで、River 2の256Whのおよそ95%と、少なくなっている。
ただ、AC/DCインバータに窒化ガリウム(GaN)を採用した。昨今では小型ながら大出力が出せるACアダプター(USB充電器)が登場しているが、これらはGaNを採用している。GaNは従来のシリコン型に比べて小型できるのに加え、変換効率が高い。River 3では、268Whの他社製品と比較して、10W出力で1.5倍、50W~100W出力で1.1倍の長時間出力が可能になっている。つまり容量が少なくてもロスが少ないため、差し引き出力結果はあんまり変わらないというわけだ。
内部のバッテリーは、IP54の防塵防滴パックに格納された。製品全体としては防水防滴仕様ではないため、浸水すれば使えなくなる可能性が高いが、内部に水が侵入してもバッテリーパックは保護されるため、ショートによる破裂や漏電といった不安を解消する。可搬性を考えて、将来的には何らかの防水バッグのようなものの製品化も検討しているという。
AC出力は300Wあるので、冷蔵庫もモノによっては動かせると思うが、1~2時間程度しか保たないだろう。基本的には避難先で情報機器を動かすための電源、と考えた方がいい。
重量は3.5kgで、これぐらいなら片手で持てるし、避難荷物の上に乗せてもそれほど負担にはならない。また高さが抑えられたことで、普通車の運転席シートの下に潜り込ませることも可能だ。避難時に置き場所に困らないのはありがたい。
以下は今回展示されなかったが、今後ネット販売専用として、容量を230Whに下げて価格も下げたモデルも投入予定。また拡張バッテリーに対応できるモデルとして、「River 3 Plus」も製品化の予定だ。同時に専用拡張バッテリーも2タイプ投入し、それぞれの組み合わせで「River 3 Max」「River 3 Max Plus」というセット商品となるようだ。
●ついにモバイルバッテリー分野にも
事前情報が全くなく、突然の発表で驚かされたのが「RAPID Magnetic Power Bank」だ。同社としては初のモバイルバッテリー製品で、5000mAhと1万mAhの2タイプがある。ポータブルとモバイルの違いは何だという事になるだろうが、ポータブルはAC電源が出せるクラス、モバイルはスマホ給電がメインの製品と考えればいいだろう。
Qiによる充電方法は多くのスマートフォンに搭載されており、これに対応したモバイルバッテリーはすでに市場に多い。RAPID Magnetic Power Bankの特徴は、USBによる入力を上げ、従来製品に比べて約1/3のスピードで再充電できるところである。
もちろん出力も上がっており、5000mAhは30W、1万mAhは65Wの出力が可能だ。15Wでワイヤレス充電できる「Qi2」にも対応する。またQiとUSBで同時に2系統の出力ができるので、2つのデバイスを同時に充電できる。片方しか出力できない製品が意外に多いのである。
ECOFLOWは自治体への納入実績も多いが、災害時にポータブルバッテリーを運用しても、多くの人はスマホを充電しにくるので、バッテリーの周囲から人が離れられないという課題があった。それをスマホ向けにはモバイルバッテリーを提供することで、電力のために人の行動を有線で縛っているという問題を解決したいという。
またスマートフォンの充電が重要課題だとして、USB-TypeC出力のソーラーパネルも複数投入予定だ。現時点では45Wと60Wの折り畳み式ソーラーパネルを投入予定で、USB-TypeC出力を備えることでスマートフォンを直接充電したり、前出のRAPID Magnetic Power Bankを充電できる。
●「麦わら帽子型」ソーラーパネル?
またユニークな製品として、麦わら帽子型の「Solar Panel Hat」も11月頃に投入予定だ。12W出力とちょっと小さいが、作業中にも無駄なく発電できることで、スマホやモバイルバッテリーはもちろん、ネック式ファンやクーラーなどと組み合わせると、長時間の利用が可能になるだろう。帽子サイズとしてもMとLの2種類で展開するという。被っていなくても、日の当たる窓際にちょっとかけておくだけで発電するのは魅力である。
バッテリーは、要するに電気をためて吐き出すだけの装置だが、それをどう使うか、どう使えるかはコンセプトの問題である。ECOFLOWの強みは、専用スマホアプリで遠隔コントロールを実現しており、それがどの製品でも使えるという点にある。ハードウェア的には同様のスペックの製品が数多く存在するが、ソフトウェアでどのようなコンセプトにも合致させるという方向性は、多くの人が納得できるだろう。