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「ファン付き」マットレス!? “空調服”メーカーの寝具がじわじわ売れている 開発経緯を聞いた

2024年09月07日 08:31  ITmedia ビジネスオンライン

ITmedia ビジネスオンライン

空調服が手掛ける寝具「風眠」が注目を集めている(提供:ゲッティイメージズ)

 空調服(東京都板橋区)が手掛ける寝具「風眠」(メーカー希望小売価格2万900円)が注目を集めている。会社名にもなった同社の主力商品「空調服」の仕組みを応用した寝具は、どういった狙いから生まれたのか。同社に話を聞いた。


【画像】空調服の“ひんやり”寝具(全9枚)


 風眠はマットレスのような見た目で、大きさは約92(横)×約200(縦)センチのシングルベッドサイズ。本体重量は約2キロで、女性が1人でも持てる軽量設計とした。冬など使用しない時は、丸めて収納袋に入れればコンパクトになる。


 風眠のカバー内部には、プラスチック製のスーパースペーサーという部品が搭載され、空気が流れる隙間が確保されている。使い方は、まずツインファンを搭載した筒が足元に来るようにベッドに敷き、その上から専用のシーツを被せる。コントローラーのスイッチを入れれば、ツインファンが頭側から空気を取り込み、スーパースペーサーを通って、熱や湿気を足側から排出する仕組みだ。


 寝ている時、人間の体は背中や側面が常にベッドに触れている。最初は冷たく感じても、徐々に自分の体温であたたまってしまう。そこで風眠で常に風を循環させ続けることで熱を放出でき、寝苦しさを感じにくくなるという仕組みだ。風眠の上には専用のシーツを敷いているので、流れる風が体に直接当たることはない。


 風量はスライドスイッチによる無段階調整が可能で、体調や室温に合わせて調節できる。風が流れる時間を設定するタイマー機能もあり、2時間、4時間、8時間、10時間の4パターンを用意した。省エネ設計で1日8時間、毎日使用しても1カ月の電気代は約35円と、昨今の電気代高騰にも対応している。


 気になるのはツインファンの音だが、ファンに使用するモーターは振動を軽減した設計で、静音性を高めた。実際に使用している人からは「子どもも使っているが気にせず寝られる」「ファンは足元にあり、音も扇風機レベルなので睡眠の妨げにならない」との声が聞かれた。


●発想の転換で生まれた風眠


 同社の市ヶ谷弘司会長によると、風眠の開発に着手したのは1996年の夏ごろだったという。開発当時はベッドの表面にゴムをレール状に取り付けて隙間を作り、上からメッシュ素材を被せて空気を送るというようなものだった。開発担当の胡桃澤武雄取締役は「もちろん課題や調整すべき点も多かったですが、実際に寝てみるとそれまでの寝苦しさを感じず最高でした」と振り返る。


 だが、その後の開発は一度ストップすることになる。同時並行で後に主力商品となる空調服の開発を進めていたため、そちらに時間をとられてしまったそうだ。「当時の技術では風眠を形にすることが難しく、商品化が見えていた空調服を先行させました」(市ヶ谷氏)


 風眠の開発が一気に進むきっかけとなったのが、同社が独自開発して特許を取得した「スーパースペーサー」という素材だ。スーパースペーサーはプラスチックでできており、メッシュ構造でありながら立体的なので、人が上に乗ってもつぶされず風が流れる通路を確保できる。


 風を通すための最適な素材が見つかり、いよいよ商品化かとなったが、またもや課題にぶつかってしまう。「当時の風眠はファンから外気を取り込む空調服の仕組みを活用していたのですが、そのまま使うと風眠自体が膨らんでしまう難点があったのです」(市ヶ谷氏)


 そこで胡桃澤氏は発想を転換。空調服のように空気を取り込むのではなく、排出するという逆の仕組みを思い付いた。結果、膨らんでしまうという現象が解消され、2006年6月にはネットでの試作品販売にこぎつけた。


 試作品販売では約2カ月で100台以上を売り上げたものの、寝返りなどによってスーパースペーサーがバラけてしまうという不具合が発生した。そのため、スーパースペーサーを覆っているカバーに固定するなど強度を上げ、2007年から本格販売を開始した。


 現行モデルになってからの販売台数は約1万台を突破。ほとんど宣伝はしていないが、口コミでじわじわと人気が拡大しているそうだ。胡桃澤氏によると今も改良を続けているそうで、来年モデルはスーパースペーサーを覆うカバーを取り外し、カバーだけでも洗濯できるようにしたいという。