Text by CINRA編集部
土井敏邦監督のドキュメンタリー映画『ガザからの報告』が10月26日より新宿のK's cinemaほかで公開される。
昨年10⽉7⽇、ハマスによる越境攻撃をきっかけに始まったイスラエルによるガザ攻撃からまもなく1年。イスラエル、パレスチナの両国を⻑年取材し続けてきたジャーナリストの土井敏邦が30年にわたるガザの記録をまとめた同作では、「ガザのパレスチナ⼈」と⼀括りにされる彼らの素顔を描き、今のガザの惨状の根源を浮かび上がらせる。第1部『ある家族の25年』と第2部『⺠衆とハマス』で構成。
【土井敏邦監督のコメント】
私は1985年以来、34年間、パレスチナに通い続けてきた。遠い国の⼈たちに起こっていることを伝えるときにまずやるべきことは、現地の⼈びとが私たちと“同じ⼈間である”と伝えることだと私は考えている。私たちはニュースが伝える数字で現場の実態を「分かった」つもりになる。しかし、あの空爆や砲撃の下には犠牲になった⼀⼈ひとりの死の痛み、悲しみがあるのだ。遠いガザで起こっている事態を、⽇本で暮らす私たちに引き寄せるために、⻑年ガザと関わってきたジャーナリストの私がやるべきことは、そのための“素材”を提供することではないか。ハマスによる越境攻撃から2週間ほど経た10⽉下旬から、現地ジャーナリストMは1~2週間ごとにインターネットの画⾯を通して、現地の状況を伝えてくれた。⾃⾝も⾃宅が砲撃を受け、弟と義弟が殺されたMは、世界のメディアが伝えない市井の⼈びとの空気を私に伝えてきた。Mが命懸けで伝えてきたその“⽣の声”を受け取った私には、それをきちんと世界に向けて伝える責務がある。この映画はそういう役割を担っている。
【師岡カリーマのコメント】
攻撃が続くガザで、砲弾が落ちる先にいるのがどんな⼈々で、どんな苦難を強いられてきたか、その⽣の声を丹念に記録した⼤作。夢も希望も持てず、⼈ではないかのように扱われても抗えず、⾸根っこを掴まれた屈辱的な抑圧と貧困の中で⽣きるとはどういうことか。なぜハマスは⽀持され、いかにして⽀持は怒りに変わったか。⼈々の⽣活や政治意識を淡々と追うカメラの向こうから伝わってくるのは「テロ集団ハマスをのさばらせているんだから同罪だ」とイスラエルに蔑まれるパレスチナ⼈の、悲しいほど「普通」な素顔。何を持ち帰るか、受け⼿の完成も試される作品だ。
※東京新聞6/22付朝刊「本⾳のコラム」より
エルアクラ家の家族写真(1993年) ©DOI Toshikuni 2024