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人材大手の内定辞退し、カレー店運営ベンチャーに入社 COOの離職で一皮むけた26歳のキャリア

2024年09月06日 09:11  ITmedia ビジネスオンライン

ITmedia ビジネスオンライン

TOKYO MIX CURRY大手町店(画像:以下、FOODCODE提供)

 「不安だらけでしたね。会社、潰れてしまうんじゃないかとすら思っていました」──そう話すのは、自分好みのカレーをアプリでカスタマイズし、テークアウトできるサービス「TOKYO MIX CURRY」を運営する、FOODCODE(東京都文京区)の戸澤あやかさんだ。


【画像】新卒1人目の戸澤あやかさん


 戸澤さんは、2020年4月に1人目の新卒として入社した26歳。実は、当時はFOODCODEではなく、大手人材会社のディップに入社する予定だった。TOKYO MIX CURRYでの2人目のアルバイトとしての活躍もあり、会社側からのオファーもあったが、断っていたという。


 大手人材会社の内定を辞退してまで、なぜカレーのベンチャー企業を選んだのか? 現在はアルバイト200人を束ねる店舗のマネジメントを一手に引き受けるが、COOと直属マネジャーの離脱などベンチャーの洗礼を受けたこともあった。等身大のキャリアを取材した。


●「社員にならない?」 最初は断ったオファー、決め手は何だったのか


 大学生の頃、色々な経験を積みたいという思いから複数のアルバイトを掛け持ちしていた戸澤さん。ディップには新規事業や営業企画などの領域を経験できそうだったため、興味を持ったという。


 「『これから会社を大きくしていくための新しい挑戦を一緒にできる』という点に魅力を感じていました。営業職はインセンティブもあったので、アルバイトだと扶養の上限がありますが、社会人になったらたくさん働けるというのも楽しみでした」


 ディップの内定を承諾し、無事に就活を終えた。2020年3月まではTOKYO MIX CURRYで働いて、4月には新社会人として別の会社で新しい一歩を踏み出す予定だった。


 潮目が変わったのは2020年3月。CEOの西山亮介氏から「FOODCODEに入社しないか」とオファーがあった。TOKYO MIX CURRYの1店舗目開店から1年も経っていない段階だったため、新卒として入社することに不安があり、別の社員からの入社オファーもあったが断っていた。にもかかわらず、代表から直々に再度オファーがあったのだという。


 「最終的な決め手となったのは『TOKYO MIX CURRYで働いていて、何が楽しい?』という一言でした。TOKYO MIX CURRYはアルバイトなのに裁量が大きかったのが魅力で、店舗運営の改善案やお客さんのためになるアイデアを自由に出せて、それが実際にシステムや機能として実装されて現場が変わっていく経験が他のアルバイトにはない楽しさでした」


 当時、アルバイトが中心となって店舗を回しており、戸澤さんもその大変さを実感していた。TOKYO MIX CURRYで働くことの楽しさはもちろん、他のアルバイトのためにも店舗の環境を整えていきたいという気持ちから入社を決めた。


 アルバイトの頃は調理などをメインに担当していたが、入社後は店舗運営全体とアルバイトのメンターとして動くことに。店舗運営やカレー作りのマニュアル作成やアルバイトや店舗の困りごとを収集し、解決に向けてエンジニアと連携し、システムの構築や機能拡充などに取り組んだ。


 「当時はまだカレー作りにテクノロジーをうまく介在させられておらず、アルバイトの経験則に頼っている部分がありました。TOKYO MIX CURRYでは、カレーのトッピングなどを自由にカスタマイズできるのですが、カレーを盛り付ける中でベテランと新人だとその時間に2~3倍の差が出てしまう。経験の有無にかかわらず、同じクオリティのサービスが提供できる状態が作れないか模索していました」


 そこで戸澤さんはエンジニアと連携。これまでは紙にトッピングの内容をテキストで記す形にしていたが、iPadで画像として表示させたり、トッピングの量も「大さじ2」などと指定させたりすることで、調理工程でのミスを減らすことに成功した。1つの盛り付けに1分半ほど要していたが、40秒ほどに短縮できた。


 新卒1年目から現場の改善に徹底して取り組み、成果を挙げてきた。しかし、3年目のタイミングで直属の上司であるマネジャーとその上のCOOが離脱。戸澤さんは今以上の進化を求められることになった。


●ベンチャー企業のリアル COOと直属マネジャーが同時に離脱


 「崖っぷちに立たされた感じでしたね」──戸澤さんは、レポートラインが抜けた当時をこう振り返った。


 COOは店舗の戦略立案周りを、マネジャーはアルバイトのマネジメントを担当していた。COOは論理的で戦略を組み立てて実行まで落とし込むのを得意としており、マネジャーはコミュニケーションに長けていた。その相性の良さから、店舗オペレーションの改善につながったり、新しい働き方が生まれたりしたという。


 「異なる強みを持つ2人がほぼ同時に退職されたため、わたしがその役割を両方担うことになりました。店舗オペレーションはもともと現場に入っていたわたしが改善案などを出し、マネジャーやCOOにGOサインを出してもらう形でしたが、自分が最終意思決定者になりました。アルバイトのマネジメントは徐々に引き継ぐ形で、衝撃を与えないように丁寧にコミュニケーションを取りながら進めました」


 自身が最終意思決定者になることは「正直重かった」というが、施策が成功すれば店舗運営やアルバイト、お客さんにも還元できるという意識を持ち、取り組みを続けた。また、物事を俯瞰(ふかん)して見る力が身に付き始めたという。


 「例えば、今後店舗が増えていった場合、わたしが全店舗・全アルバイトを見続けるのは物理的にも不可能ですし、サービス提供価値も下がってしまいます。そこで、歴が長いアルバイトをバイトリーダーとしておいて、アルバイトの子たちとの面談を通してモチベーションアップにつながるような働きかけをしてもらっています」


 バイトリーダーへのフォローも欠かさない。「なぜ社員が入らずにバイトリーダーが店舗を回すのか」について、テクノロジーと仕組み化によって、非属人的な店舗運営を実現するためという会社の理念を説明をするなど、バイトリーダーのモチベーションも保つ工夫を施す。


 これまではCOOとマネジャーという「最後の砦」がいたため、目の前のことに取り組んでいればよかったが、半年~数年先を見据えた行動を考えるようになったと戸澤さんは振り返る。


 「出てきた課題をどう解決するか、その策をああでもないこうでもないと考えてエンジニアチームと連携して形にしていくのが非常に面白いなと思っています。開発と距離も近く、実装スピードも早いので、店舗オペレーションは日々進化していると感じます」


 これまで戸澤さんが出して実装された店舗運営の機能改善数はバック側のみで1000件に上る。大学時代にさまざまなアルバイトを通して獲得した経験が店舗改善のアイデアの芽になっているのかもしれない。


 入社時の不安は姿を消し、ベンチャー企業の「明日何が起こるか分からない」という状況を楽しんでいる戸澤さんは、今日も店舗運営の改善案を出し、アルバイトとコミュニケーションを取り、カレー提供に勤しんでいる。