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「最初はVCの存在知らなかった」「もっと早く権限移譲できればよかった」 akippa金谷CEO語る“波乱のスタートアップ人生”

2024年09月06日 08:51  ITmedia NEWS

ITmedia NEWS

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 「ベンチャーキャピタル(VC)からの出資についても知らず……」「もっと早く権限委譲できればよかった」──自身の反省談についてこう話すのは、駐車場のシェアリングサービス「アキッパ」を運営するスタートアップ・akippaの金谷元気代表取締役社長CEOだ。


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 アキッパは、契約されていない月極駐車場や使われていない個人宅の車庫などの空きスペースをプラットフォームに登録し、駐車場を借りたいユーザーがネットで事前に予約できるサービス。実は金谷CEOは高校卒業後、Jリーガーを目指していたが、ビジネスの面白さに目覚め、さまざまな事業を手掛け、最終的にアキッパにたどり着いたという。


 7月には書籍「番狂わせの起業法」(かんき出版)を発売し、これまでに経験した逆境を明らかにした金谷CEO。しかし、語り切れない反省がまだまだあるという。


●アナログ起業から駐車場シェアリングサービス誕生まで


 金谷CEOがakippaを設立したのは2009年のこと。資本金5万円、自宅を拠点とする1人会社での起業だった。当初は在庫を持つ必要のない営業代行からスタート。携帯電話やインターネット回線、ウォーターサーバーの販売などを手掛けていたが、10年ごろから、オリジナルの事業も展開し始めた。


 「当時はまだ、インターネットのグローススタートアップになるという考えはなく、まずは何でもやってみようと思っていた」という金谷CEOは、さまざまな事業に挑戦。スポーツバーの経営、アイドルのライブイベント運営などを手掛け、12年には成果型求人サイトを始めた。求人情報を無料で掲載し、採用が決まれば3万円の手数料を得るモデルだ。


 営業に強みのある金谷CEOらは、求人情報集めで困ることはなかった。しかし求職者へのマーケティングがうまくいかず、資金難に陥る。銀行からの融資も思うように受けられなかった。


 「ベンチャーキャピタル(VC)からの出資についても知らず、資金繰りが悪くなると頭を下げて知り合いにお金を借りるしかない状況でした」


 そのころ、たまたま書店で見かけた資金調達に関する本で金谷CEOは、VCからのエクイティファイナンスについて初めて知った。ネット検索で見つけたVCに片っ端から電話でアポイントメントを取り、ジャフコから6500万円の出資が得られた。


 その後、書籍出版サービスなども手掛け、事業は順調だったが、金谷CEOらは「もっと電気のように、世の中になくてはならないサービスを生み出したい」と考えるようになる。そこで新サービスづくりのために社員総出で困りごとを200個、リストアップした。


 そこで着目したのが「駐車場は現地に行ってから初めて満車だと分かる」という課題だった。そして14年、空きスペースを駐車場として貸し借りできるサービスを立ち上げるに至った。


 サービス立ち上げ当初は成果型求人サイトの時と同様、営業力がものを言い、駐車場オーナーの獲得はスムーズに進んだ。しかし、駐車場を借りるエンドユーザーの獲得に苦戦。ただ求人サイト時代と違ったのは、株主のマーケティング知識が豊富だったことだ。リスティング広告に詳しい担当者を採用したことも大きく影響し、テレビ出演などの広報活動も功を奏して、ユーザーを集められるようになったという。


●黒字化目前にコロナ禍到来


 18年11月、アキッパは登録会員数が累計100万人を超え、19年夏には月間売り上げが1億4000万円を突破した。しかし黒字化を目前にして、新型コロナウイルス感染症が流行し始め、外出自粛の動きが広がる。特にイベント中止や延期に伴い、レジャー目的での駐車場利用はキャンセルが増加していった。当然、akippaも事業の見直しが必要になった。


 「まずコストを1つ1つ見直し、パンデミックがどのくらい続くかによって、事業計画を4パターン用意しました。もし半年後にパンデミックが収束しても、その時に人がいなければ成長は作れません。でも3年も4年も続いたらどうするか検討しなければいけない。難しかったですが、人件費以外のところでかなり固定費を削りました」


 結果として無駄なコストの見直しが進み、筋肉質になったと金谷CEO。通勤などで電車での移動を避けるユーザーの利用が、20年5月ごろから伸び始めていたため、最悪の事態を脱することができた。


 もう1つ、コロナ禍は事業戦略そのものを見直すきっかけにもなったという。akippaのプロダクト開発チームはそれまで、営業やビジネス部門から言われたものだけを開発する“社内受託”のような状態で、プロダクトの力でユーザーの行動変容を促すような機能開発ができていなかったという。


 「(コロナ禍がなく)そのままいけば営業の力で駐車場が増え、線形の成長をして、利益も出ていたとは思います。しかしコロナ禍があったので、プロダクトを強化し、プロダクトの力でも成長できるように、営業力との両輪でやっていこうと考える時間ができた。今のやり方のほうが先の成長が作れているはず」


 実際に金谷CEOは21年、事業成長の方向性を変更。営業力とプロダクトの力の“両輪”での成長を目指す方針を社内で掲げた。これを踏まえ、現在は駐車場のオーナー自身がアキッパに情報を登録できるような機能を開発に着手。メルカリのような「マーケットプレース型」のサービスとしての成長も視野に入れているという。


●味わった「権限移譲の難しさ」


 さらに、組織づくりについても反省点があったと金谷CEO。人材採用については「漫然と『優秀な人が欲しい』というより、ある理想に対して逆算で考えて全然足りない、自分たちにはできないから助けてほしいというアプローチ。他社が『いかにうちがイケているか』を採用候補者に訴えているときに、僕は『akippaがいかにイケてないか』を懸命に候補者に説明していました」と笑いながら語る。


 しかし成長の過程では、権限委譲の難しさをかみしめることもあったという。


 「初期の段階では自分が何もかもに関わり、マイクロマネジメントに陥っていました。これは細かいところまで把握できる“手触り感”があっていいんですが、事業はなかなか伸びません。もっと早く権限委譲できればよかった」


 金谷CEOが権限移譲を試みたのは19年ごろ。ただ、マイクロマネジメントに陥っていた反省からか、今度はチームを“放置”してしまったという。


 これにより、現場はさながら“火事場”に。売り上げのための機能追加を求める営業サイドと、ユーザーのためのアップデートを優先したいエンジニアで意見の対立が発生し、黒字化が近づいていたにもかかわらず、事業面でも組織面でも問題を抱えることとなった。結局、金谷CEOが自ら事態の収拾に当たり、最終的には副社長に権限移譲していく運びになったという。


 「書籍にも書いたのですが、プロダクト開発チームは崩壊寸前まで行っていました。きちんとモニタリングしていなかったので、僕の事業に対する解像度も低かった。ただ明らかな火事場が来て、自分が出ていかなければ収まらないと分かったことはよかったかもしれません。一度しっかりチームに入り込んで、その後、小林(取締役副社長COOの小林寛之氏)に権限を委譲していく中では、口出しはしませんがモニタリングは怠らないようにして、問題があったときにはアラートを出すようにしました」


「ずっと忙しかったことは大失敗だった」


 もう1つ、大きな反省点として金谷CEOは「ずっと忙しかったことは大失敗だった」と振り返る。


 「コロナ禍のときに考える時間ができて、ミッション、ビジョン、経営戦略の解像度がものすごく上がったんです。やはり考える時間があれば、全く違う次元のことを描けます」


 この経験を踏まえて金谷CEOは現在、毎週月曜日を「中長期のことだけを考える日」として確保しているという。


 「社員から見える業務をやっていないと『最近社長は何をしているのか分からない』などと言われることもあると思います。しかし、それを恐れていてはいけません。トップダウンの会社では、社員に頑張っている背中を見せることも大事だけど、未来を考えることはもっと大事。後に続く起業家の人たちには、勇気を持って『何やってるのか分かんない』ことをやってほしい」