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すき家、店内飲食も使い捨て容器で提供…客が料理を取りに行く→食器ゴミ捨ても

2024年08月30日 18:00  Business Journal

Business Journal

すき家「トマトチーズ牛丼」(現在は販売終了)

 大手牛丼チェーン「すき家」の一部店舗で、店内飲食でも、一般的な陶磁器やPET樹脂、ガラスなどの食器ではなく、プラスチック製の使い捨て容器による提供が始まっている。安さがウリのファストフードチェーンであっても、ハンバーガーチェーンなどを除くと使い捨てではない食器による提供が多いが、背景には何があるのか。また、使い捨て容器による提供にすると飲食店側にはどのようなメリット、デメリットが生じるのか。専門家の見解を交えて追ってみたい。


 牛丼チェーン各社の注文・精算方法、料理の提供形態には違いがある。吉野家には券売機はなく(一部店舗を除く)、同店で見慣れたコの字型のカウンターかテーブル席などに座ると店員がお茶を運んできてくれ、口頭で店員に注文し、食べ終わった食器はそのままテーブルの上に置いたままにして退店する方式の店舗が多い。現在ではセルフ式の店舗も増えている。


 松屋の多くは券売機で発行される食券を客が持って席に着き、料理が出来上がると、受け取りカウンター上部にある画面上で食券に書かれた番号が出来上がりのステータスになり、客が自らカウンターに行き料理を受け取るという仕組みだ。松屋の公式アプリ「松屋モバイルオーダー」を使って来店前にスマホで注文と支払いを行い、表示されたQRコードを券売機にかざして食券を発行させることも可能。そして食べ終わった食器は返却コーナーに持っていくスタイルの店舗が多い。


 すき家は、入口付近の券売機、または席に置かれたタブレットから注文をするが、店員に口頭で注文することも可能(来店前にスマホアプリから注文・支払いすることも可)。食事後は食器をテーブルに置いたまま退店するが、セルフ方式で客が返却口に持っていく店舗もある。


客数への影響はないと考えられる

 店舗数ベースでは牛丼業界で圧倒的1位となっている「すき家」(1954店舗/7月現在)は、セルフ式店舗を増やしつつある。店内に設置されたタッチパネル式券売機で注文と精算を行い、発券された紙に印字された番号が呼び出されたら客がカウンターへ料理を取りに行き、食べ終わると客が食器を下げるという形態だ。店内飲食でも使い捨て容器による提供が行われているのは、このセルフ式店舗だ。


「セルフ式店舗を導入する目的は、配置する店員の数を通常の店舗より減らすことによるコスト削減なので、その削減効果を最大限にしようとすれば、食器を洗う業務をなくすために使い捨て容器を導入しようとなる。『すき家』の顧客のニーズは、とにかく安くボリュームのある料理を短い時間で食べることなので、食器が使い捨てのものになったからといって、それを嫌がって店舗の利用を控えるとは考えにくく、客数に影響はないだろう」(外食チェーン関係者)


 通常の食器から使い捨ての容器に変更すると、店側にとって、どのようなメリット・デメリットが生じるのか。自身でも飲食店経営を手掛ける飲食プロデューサーで東京未来倶楽部(株)代表の江間正和氏はいう。


「すき家のような、お客が安さや手軽さ、スピードを求めるお店におけるメリットとしては、消耗品費が少し上がるものの、洗い場担当の人件費=コスト削減になりますし、食器を洗う時間の節約によって料理提供時間の短縮にもつながります。また、業務終了時の片付けに要する時間も短縮されるでしょう。逆にデメリットは、消耗品費が少し上がることと、お客が『味気なさ』を感じることです。ただし、消耗品費は人件費の減少でカバーできますし、味気なさも今までとの比較であって、お客側の慣れで解消されることと思います。総合的にみればメリットのほうが大きいでしょう」


チェーン店と非チェーン店で異なる事情

 では、ハンバーガーチェーンなどを除くファストフードチェーンをはじめ、飲食店では使い捨てではない食器を使用している理由はなんなのか。


「飲食店は売上を伸ばすために、客数・客単価・回転率を意識しています。チェーン店は季節ものやスポットもの、限定ものなどのメニュー開発によって高単価の商品を提案しているものの、基本は『安さ』を重視しています。チェーン店に対するお客のニーズは『安さ』ですから、すき家はここを意識して使い捨て容器に行きついたのでしょう。容器だけの長期的コストで考えるなら、割れにくい使い捨てではないプラスチック製食器のほうが安くなるでしょうが、もっと大きなコストが人件費です。食器を洗う人=洗い場担当の人件費をできるだけ抑えることができれば、使い捨て容器の導入はコストダウンにつながります。通常の食器やグラスは、営業時間中も営業終了時も片付けに時間がかかるため、使い捨て容器の導入は時間短縮、人件費削減に効果的となります。


 商品を安く提供することが優先事項であるチェーン店にとっては、コストダウンのために使い捨て容器を導入するという選択肢は現実的ですが、チェーンではないお店は価格を最重要視しているわけではありません。客単価やオリジナリティー、付加価値を意識してお客を満足させようとします。そのため、効率性重視の使い捨て容器を利用することはあまりありません」(江間氏)


皿洗いは負担が重い業務

 そもそも、飲食店において皿洗いの業務というのは、どれくらい負担の重いものなのか。


「飲食店にとっては結構負担が重い業務です。小さいお店で食器洗浄機を導入していないお店や、高級店でお皿が高価なために手洗いを優先しているお店で、暇なお店ではないなら、洗い場担当が必要になります。食洗機を導入していても、常に満席になるお店や回転率を重視するお店では、洗い場担当を置かなくてはオペレーションに無理が生じてきます。客席から下げられてきた食器には食材や油がこびりついており、食洗器に入れる前に大きな業務用シンクに水を溜めて漬けておかないと、食洗機の洗いだけでは汚れが残ってしまうことがあります。


 そして食洗機を使っても、洗浄後に食器を取り出して乾かし、拭いてから収納棚に戻すという作業を繰り返す必要があります。強化ガラス製のグラスを食洗機で洗う場合も、お客が口をつける部分に注意を払う必要があります。グラスに口紅や油分が残っていると、お客に不快感を与えてしまいます。たとえ食洗機を導入しても、繁盛店なら1人員分まではいかなくても、それなりの負担になるのです」


(文=Business Journal編集部、協力=江間正和/東京未来倶楽部(株)代表)