2024年08月27日 10:00 弁護士ドットコム
最近、88歳で死去したフランスの俳優、アラン・ドロンさんに批判が殺到しました。原因は、生前、「自分が亡くなったら、愛犬を安楽死させて一緒に埋葬してほしい」と遺言していたからです。
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この遺言をめぐり、フランス国内では批判が巻き起こったと報道されています。ドロンさんの遺族はその後、遺言は執行せずに、愛犬の安楽死はしないと表明したそうです。愛犬は、ドロンさんの遺族が飼い続けると報じられています。
誰かが亡くなった場合、親族などに遺産が相続されますが、日本ではペットはどのように扱われるのでしょうか。大野貴央弁護士に聞きました。
——そもそもペットは、法的にどのように解釈されているのでしょうか。
ペットは生き物ですが、民法上は、家具や車などと同じように「物」と扱われます(民法85条)。
したがって、飼い主が亡くなった場合は、遺産として相続の対象になることが原則です。
遺言書に、ペットの次の飼い主(取得者)が指定されていれば、原則としてその人が新たな飼い主になります。(※遺言書による取得者の指定は、相続人以外の第三者にすることもできます。これを「遺贈」と言います)
遺言書がなければ、いったん相続人全員がペットの所有権を共有する形になるため、相続人全員で「遺産分割協議」を行い、新たな飼い主(取得者)を決める必要があります。
—— もしも亡くなった飼い主がアラン・ドロンさんのように「愛犬を殉葬してほしい」と遺言していた場合、遺族はそれを執行する義務はあるのでしょうか。
結論から言えば「愛犬を殉葬してほしい」という内容の遺言があったとしても、その部分は法律上無効になり、遺言どおりに執行する義務はないと考えられます。
ペットは民法上「物」にすぎないのですが、「動物の愛護及び管理に関する法律」という特別法によって保護の対象になっています。
同法44条では、一定の動物を、みだりに殺し、傷つけ、虐待や遺棄(逃がしたり捨ててしまうこと)を禁止しており、これに違反すると、懲役や罰金の刑罰を受ける可能性があります。
つまり、飼い主が亡くなったからと言って、ペットも巻き添えにして殺してしまう「殉葬」は、動物愛護管理法が刑罰をもって禁止する犯罪行為に該当するおそれがあります。犯罪行為を指示する内容の遺言は、少なくともその部分は公序良俗に反するといえますので、法律上無効とされる可能性が高いでしょう(民法90条)。
なおペットが病気や寿命で長く生きることが難しい場合、「安楽死」が許されることもあるようですが、合法といえるかどうか、明確な基準はありません。
そのような事情があれば、本当に安楽死させることがやむを得ない状況なのか、獣医師などの専門家に相談された方が良いと思います。
——もしも遺族がペットの面倒を見ることが困難な場合、ペットはどうなるのでしょうか。
亡くなった飼い主の相続人が、誰もペットの面倒をみることが出来ない場合は、専門業者に引き取ってもらう等して、処分せざるを得ないでしょう。
先ほど紹介したように、ペットが飼えないからと言って外へ逃がしたり、殺してしまうことは、動物愛護管理法で固く禁止されている犯罪行為ですから、絶対にやめましょう。
なお他の遺産も一切いらないという場合、相続放棄も選択肢になりますが、相続放棄をしたとしても、他の相続人等に引き渡すまでの間は、「自己の財産におけるのと同一の注意をもって」遺産を保存する義務があります(民法940条)。
少なくとも次の引き取り手に委ねるまでの間は、ペットをきちんと世話してあげる義務があると考えられますので、注意してください。
現在ペットを飼われている方で、「自分が亡くなったら誰にペットの世話をしてもらおうか…」とお悩みの場合は、元気なうちに、相続人である親族とよく相談しておくか、自分の死後、誰にペットの面倒をみてもらいたいか、遺言書を作って明記しておくことをお勧めします。相続に詳しい弁護士に相談してみてください。
【取材協力弁護士】
大野 貴央(おおの・たかお)弁護士
兵庫県神戸市生まれ。2014年3月信州大学経済学部卒業。2017年3月、信州大学法科大学院修了。同年9月、司法試験合格。2018年12月弁護士登録(愛知県弁護士会)、弁護士法人名古屋総合法律事務所に入所。相続、離婚、交通事故案件を中心に民事事件に多数取り組む。
事務所名:弁護士法人名古屋総合法律事務所
事務所URL:https://nagoyasogo.jp/