2024年08月24日 18:31 ITmedia NEWS
キヤノンから“新世代EOS R”といっても過言じゃない「EOS R5 Mark II」が登場した。これがまた色々と新しく、「EOS R1」と同時に発表されただけあって、なかなかのモンスターマシンに仕上がっているのだ。
新機能も盛りだくさんとで、どこから話を始めたらいいか分からないけれども、大きく分けて、新開発の裏面照射積層CMOSセンサーになった点と、内部の処理が超高速になったことで様々な新しい機能を追加した点といっていいだろう。
●積層裏面照射型で4500万画素の実力はいかに
「EOS R5」の後継機なので画素数は約4500万画素と多画素タイプ。ただセンサーは新開発の積層型になった。積層型は従来型より読み出し速度を高速化でき、電子シャッター時のローリングシャッター歪みをぐっと減らせる。
EOS R5 Mark IIはメカシャッターも搭載しているものの(歪み以外でメカシャッターが有用なシーンはあるから)、デフォルトは「電子シャッター」だ。
一応ゆがみ具合をチェック。
比較対象として、積層型ではない「EOS R6 Mark II」、積層型の「Nikon Z8」、部分積層型の「Nikon Z6II」を並べてみた。
EOS R5に比べて歪みを40%に低減しているそうな。こうしてみると、Z8とZ6 IIの中間くらいでかなり優秀だ。
普段の撮影ではまったく気にならないので、今回は基本的に電子シャッターで撮影してみた。
高速読み出しが可能になると連写も速くなるし、プリ連写もあたりまえのようにできる。
ただセンサーが速くなっただけではダメで、それを高速で処理するエンジンは欠かせない。EOS R5 Mark IIでは映像エンジン「DIGIC X」に、画像の高速な解析処理を行う「DIGIC Accelerator」を加えることで処理の高速化を実現したのだ。
おかげでAFはさらに賢くなり、一度被写体を捉えたら食いついて離さない(トラッキング)とか、アクション優先とか(これはサッカー/バスケットボール/バレーボールのみ)。
アクション優先は非常にユニークで、アクションを起こした人間に対してAF対象を持っていくという機能。フレーム内に複数の人間が絡むスポーツで有効になる。だからこの3種目なのだろう。
今回こういう特定のシーンに特化した機能は試せなかったけど(キヤノンがどっかのJリーグチームのスポンサーになって撮影体験とかさせてくれればいいのに、と思うのだが、ラグビーファンにとってはキヤノンはラグビーチームを持ってるのに、アクション優先の対象にラグビーがないとは何事かと思うようである)、追尾が賢く粘るようになったのは体験できる。
これ、アオサギを狙ってるのだけど、こんなアクロバティックなポーズ(羽根を手入れしてるのだろう)でもちゃんと顔を検出しているのだ。えらいもんである。
●メガネをかけてても視線入力AFが使えるようになった
この進化したAFをサポートするのが視線入力。EOS R3で搭載された機能だが、残念ながらメガネをかけているとうまくいかず、いい印象がなかったのである。
今度は「進化したのでメガネでも大丈夫」というので試してみると、確かにキャリブレーションをちゃんとすればメガネ越しで視線を追ってくれるではないか。近視+老眼のメガネを常用しているわたしでも実用レベルで使えたのである。
AFが賢くなったこともあり、アバウトに「その辺」って感じで見つめてやると、その周辺にある被写体を見つけて捕まえてくれるって感じだ。
EOS R3のときはこの面白さを味わえなかったからね。
「これを撮りたい」と視線を合わせた後、キョロキョロと周囲をチェックするってことも多いけれど、その時は最初に被写体を見つめたときに親指AFでもシャッター半押しでもしてつかまえちゃえばいい。
これは視線入力を使って奥の人物(フィギュアだけど。武蔵国司の設定)に合わせたもの。
複数の被写体候補がいるときやフレームの端にいるときなどは良いが、微妙にピンポイントでAFポイントをセットしたいときや、イメージ通りに動かないときもある。そのときはさっとオフにできるよう、どこかのボタンに視線入力のオンオフを割り当てるといい。わたしはマウントの横にある「絞り込みボタン」にそれを割り当てて使った。グリップしてファインダーを覗いた状態でさっとオン/オフできて便利だった。
●瞬間の撮影に強いR5 Mark II
基本的な操作感や撮影操作はEOS R5と同等だ。EOS慣れしてない人は細かい操作に戸惑いそうなところもあるけどそれはしょうがない。
上面に表示パネルがあり、その横にMODEボタン+ダイヤルがある。これで撮影モードを切り替える。
大きく変わったのは電源スイッチの位置だ。
前モデルでは左肩にあったが、今回、そこが動画と静止画の切換レバーになり、電源はモードボタン+ダイヤルと同軸に。EOS R6→Mark IIのときと同じ変更だ。
個人的には右手で完結する分使いやすい。
背面の構成は前モデルと同じ。モニターは伝統のバリアングル式。
ではあれこれ撮ってみる。
まずは標準ズームレンズともいえる24-105mmから。
次は後ろ向いたひまわり。視線入力AFで。スティックを動かすのと視線入力とどっちが便利かは……被写界深度次第かな。ピントが浅いときはピンポイントで合わせたいし。視線だとどうしてもアバウトになる。
人を撮るときは瞳AFが仕事をしてくれるから問題なし。左右の瞳のどっちに合わせるか、はスティックを使うか視線入力で指定できる。
EOS R3に比べると視線入力の性能がすごく上がってるので使う人も増えるんじゃなかろうか。
せっかくのEOS R5 Mark IIなのでハイエンドのレンズも試してみた。135mm F1.8である。
ポートレートに最強ってことで人物を。
確かにボケもきれいだしAFは速い。
低コストで小柄な中望遠だとハーフマクロ撮影も可能な85mm F2.0がある。AF速度はそこまでではないけど、1本持っておくと便利。かなり寄れるし。
1段絞るとボケもきれいな丸になる。ISO25600で夜のスナップ。常用ISO感度はISO51200までで拡張でISO102400まで上げられる。
せっかくなので連写も試そうということで100-400mmの望遠ズーム登場。
このレンズ、望遠端でF8とちょっと暗いのだが、細身で軽いわりに400mmで持って行けるので便利なのだ。
プリ連写を駆使してアオサギが何か捕まえた瞬間を捉えたら、なんとトンボだった。水面ギリギリを飛んでいたトンボを一瞬で捕まえたのだ。
食べられてばかりでもアレなので、元気なシオカラトンボも。これも視線入力で、複眼のあたりをガン見して撮影。
今回、基本的にサーボAF+電子シャッターで撮影してみたのだけど、一度捕まえるとトラッキングしてくれるから逃さないし、デフォルトが電子シャッターになっているのが不思議ではないくらい、特に困ったことはなかった。
EOS R5 Mark IIならではの新機能は電子シャッターを前提にしているものも多く、普段は電子シャッターで、必要な時だけメカシャッターにするカメラ、と思ってよさそうだ。電子シャッターだと音を消せるので静かな場所でも撮れるし。
なお、連写は最高で秒30コマ。高速で駆け抜けていく快速急行もしっかり、フロント部を検出して追い続けてくれた。
検出する被写体は人物・動物に乗り物が加わっている。
これを撮影したのは便利ズームのRF 24-240mm F4-F6.3 IS USM。便利すぎて人間が堕落しますな。
風景写真も1枚。
なお、ボディをよく見ると側面と底面にスリットが空いている。
これは放熱用。主に動画撮影時に使うもので、クーリングファンを内蔵したバッテリーグリップを装着するとより効率的に冷やすことができる。
今回は静止画メインでのレビューとなったがプロ向けの動画撮影システムも考慮している映像作品向けのカメラでもあるのだ。
メディアはSDXCカードとCFexpress Type-Bカードのデュアルスロットとなっている。
●カメラ内アップスケーリングは使えるか?
EOS R5 Mark IIは撮影機能以外にも注目すべきトピックが2つある。リアルタイムでは処理できないものを強力な画像処理エンジンを使って撮影後にカメラ内で行おうというものだ。
一つが「カメラ内アップスケーリング」。
4500万画素で撮った画像(JPEG/HEIFでOk)をカメラ内で縦横2倍ずつ上げて16384×10928ピクセルの画像を作れるものだ。従来の9枚撮影して合成する「IBISハイレゾ」はカメラを固定して静止したものを撮るという制限があったが、今回はディープラーニング技術を駆使して1枚の画像から高画素の画像を作り出すのでどんな写真に対してもかけられる。
試してみる。
アップスケーリングを実行し、処理をしたい写真をセレクトして「Q」ボタンを押して実行。
1枚あたり10秒くらいかかるが待つべし。
結果をそのままのせるとファイルサイズが巨大になるので、ガスタンクの作例から2カ所だけ等倍表示してみた。
アップスケールの差が分かりやすい文字部分と細かいパーツが多いアンテナや避雷針部分だ。
今、多くの画像処理アプリで高解像度化の機能を持ってるけど、それをカメラ内で行える(例えばアップスケーリングをかけてトリミングすることでデジタルズーム的に使える)。もちろんデジタル処理をかけている分、ディテールをガン見すると粗いところはあるが、けっこう使えそうだ。
もう一つは「ニューラルネットワークノイズ低減」。
高感度時のノイズ低減にディープラーニング技術を使ったノイズ低減を行う機能。リアルタイムで行うには重すぎるけど、一端RAWで撮っておいて、カメラ内現像時にかけるなら多少時間がかかってもOk、ということなのだろう。PCを介さずとも高度なノイズ低減処理をかけられるのだ。
実際にどのくらい違うのか。
室内でISO25600という高感度で黒猫をRAW+JPEGで撮影し、そのRAWデータにニューラルネットワークノイズ低減をかけて現像してみた。
黒猫の毛ってノイズで潰れやすいから、こういう時にもってこいなのだ。
現像結果を通常のJPEG記録と等倍で並べて見たのがこちら。
驚いたことに猫の瞳と、その上にある白い毛をみると一目瞭然。ものすごい差がある。これ、室内でシャッタースピードを上げて撮りたいときに使える。思い切ってISO感度を上げて撮っておき、後でこれをかけちゃえばいいのだ。処理の時間も、アップスケーリングほどはかからない。
高解像度化やAIを使ったノイズ低減は、例えばAdobeの「Photoshop」や「Lightroom」でも搭載しているが、それをカメラ内で行えると思っていい。
今は処理が重いため撮影後の後処理でかけるようになっているが、リアルタイムで行えるようになると撮影時の高感度NRのレベルがぐっと上がりそうだし、今の段階であえてこれらの機能を搭載してきた点にキヤノンの意欲を感じる。
●次世代ミラーレス一眼誕生か
かくして、EOS R5 Mark IIは何でも撮れる汎用性がめちゃ高い次世代デジタル一眼爆誕、って感じでありました。
前モデルから4年。
積層型センサー、視線入力、高速で追従性が高いAFといったその間の基本性能の進化を目の当たりに見せてくれた。
が、それ以上に面白いと思ったのは、特定のシチュエーションでのみ力を発揮する機能に力を入れてきたこと。
サッカー・バスケットボール・バレーボールに特化したアクション優先機能や特定の人物を優先して追尾する登録人物優先がそうだ。スポーツシーンをターゲットにしたEOS R1と同時開発という面もあろうが、カメラとしての基本性能が十分高くなったら、その次はAIを駆使して、ニーズの高いシーンに特化した機能が開発されていくのだろうなと思わせてくれる。
カメラ内でのアップスケーリングやニューラルネットワークノイズ低減もAI時代ならではの機能だ。
使ってるときは、実用性が上がった視線入力と食いつきのいいトラッキングAFが面白くていろいろと撮りまくったのだけど、デジタルカメラの今後の進化をいろいろと考えさせてくれるカメラだなと思う。