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男性向け性玩具で「2年間痴漢しない努力した」 被害対策団体に「使用済み」送り付け…代表女性「性犯罪に問えないのおかしい」

2024年08月24日 09:30  弁護士ドットコム

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電車の痴漢被害対策に取り組む団体に突然送り付けられたのは、「2年間使った」という使用済みの男性向け性玩具だった。


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「自分が痴漢しないために性欲を解消した。あなたたちの活動を応援している」といった内容の手紙も同封されていた。



言いようのない不快な出来事にショックを受けた団体の代表は、警察の捜査を求めたが、被害届は受理されなかった。



「はっきりとした性加害です。罪に問えないのは、法律がおかしい」



代表の松永弥生さんは「法的責任を追求できないやり場のない怒り」を感じている。(弁護士ドットコムニュース編集部・塚田賢慎)



●手紙の中身がだんだんとおかしな内容に転じていく

今年7月、一般社団法人「痴漢抑止活動センター」(大阪市)に一通のレターパックが送られてきた。表書きの品名には「応援の手紙、プラスチック製玩具(贈答品)」と書いてある。



代表をつとめる松永さんが開封したところ、男性向けの性的な玩具があった。



あっけに取られる松永さんだったが、同封されていた手紙に目を通してみると、送り主の男性は団体の活動を2年前に知ったと書かれていた。



「痴漢がその後の女性の人生に大きく影響を与える重大な事象であるという事を知りました」



「自身が男性である以上、もしかしたら痴漢を犯してしまう可能性があるのではないか(~中略~)恐怖を感じました」



書き出しにあった男性の不安については、松永さんも理解できるところだったので、そのまま読み進めていくと、困惑するような記載があった。



・電車や駅構内にいる女性の体や下着を見てしまう



・痴漢してしまうかもしれないので、あらかじめ性欲を解消するため、2年間ほぼ毎日、電車に乗る前にこの性玩具を利用した



手紙の内容をそのまま記載することは避けるが、送り主の性癖があらわにされ、性玩具の詳細な使用感の解説まで長々と書かれてある。



この手紙を送った意図は、痴漢にならないための努力をしている者がいることを団体にわかってほしいとの思いがあるからだという。その証拠として実際の性玩具を添えたとしている。



今後も毎日の性欲解消を続けていきたいとし、団体を応援する言葉で手紙は結ばれる。



松永さんによると、透明なビニール袋に包まれた性玩具は、外側の樹脂がボロボロになり、使い込んだ形跡がみられたという。



●大阪府警「府迷惑防止条例違反には該当しない」

松永さんたちの10年にも及ぶ活動の中で、電話やメールで嫌がらせを受けることはあったが、物を送りつけられたのは、今回が初めてだったという。



「手紙の内容に困惑したものの、こんな活動をしていれば、これくらいのことは起こるものだと、問題をスルーする気持ちでした。しかし、『そんな道具を送ってくるのは犯罪だから警察に通報すべきだ』と周囲から指摘されて、やっと自分が性加害を受けたことを自覚できました」



その日のうちに、警察相談専用ダイヤル「#9110」に電話して、事務所を訪れた警察官に被害を説明したところ、「事件として扱えない」と言われたという。



それでも、2日後に改めて警察署に出向いて被害届の受理を頼んだが、「大阪府迷惑防止条例違反には該当しない」と言われてしまった。



大阪府の条例は、妬みや恨み、悪意の感情または性的好奇心を満たす目的で「汚物、動物の死体その他の著しく不快又は嫌悪の情を催させるような物を送付」することなどについて、「特定の者に」「反復してしてはならない」と定めている。



府警は「レターパックの宛先が松永さんではなく、『痴漢抑止活動センターの職員のみなさま』だったから、条例違反の要件である『特定の者』には該当しない」とし、「何度も同じ嫌がらせを受けなければ事件にできない」と説明したという。



その後、大阪府警が送り状にあった携帯電話の番号に連絡したところ、電話口に女性が出て「まったくこの件に関与してないし、差出人に心当たりはない」と回答したそうだ。送り主の名前や住所も知らないものだったと話したという。



あとでわかったことだが、記載住所を調べてみると、そこにはフェミニズム系の出版社が所在していた。送り主がわざわざその住所を書き込んだことにも何らかの悪意が読み取れそうだ。



●こみ上げる疑念「法律の知識を使ってギリギリを攻めたのではないか」

「警察はこれ以上どうしようもないのだろうと思います。法律が変わらない限りは動けないとも言われました」。松永さんはやりきれない怒りを感じた。



「手紙には、痴漢抑止に役立てるため2年に及ぶ性欲解消の努力をしているとか、団体の活動を応援しているなど、もっともらしいことが書かれています。



しかし、自身の性癖を書いたり、使っていた男性向け性玩具がどのようなものかわざわざ説明し、実物を送ってきたことに非常に強い悪意を感じます。私は気持ち悪いし、嫌だと思いました。



私たちの団体が痴漢しにくい社会を作ろうとしていることに恨みをもっていたのか、たまたま私たちの存在をニュースで知って思い立ったのか、動機はわかりません」



偽名と嘘の連絡先を使っていたことからも送り主の強い「悪意」がわかると松永さんは話す。



「私個人ではなく、職員のみなさまを宛先にしているなど、警察が動かないギリギリのラインで嫌がらせをしているのではないでしょうか。



法律の知識があったうえでやっているならば、狡猾に感じます。わいせつな目的で使われた性玩具を送ってきても犯罪にならないのは、すごくおかしいと思います。



要するに、あたかも応援していると見せかけ、嫌がらせを実行しているんです。どこまでも言い逃れできてしまうし、とても小賢しい行為です。



もし年に2~3回続いたら捜査できると警察は言っていました。暴漢に切り付けられている被害者には『2~3回続いたら捜査できる』とは言わないはずです。なのに、性加害に関しては『被害が続くかしばらく様子をみて』という対応をされてしまうのです」



2022年には、使用済みのコンドームを女性の手提げかばんに入れたとして、兵庫県迷惑防止条例違反の疑いで60代の男性が逮捕される事件が起きている。



「私の被害も同じようなケースだと感じているのですが、府警の警察官はこうした被害が頻発しているのを知らなかったようで、性被害の現場を知らないのかとショックを受けました」



●弁護士は「十分な議論の上で早急な対応が必要」と指摘

刑事事件に詳しい岡本裕明弁護士は「使用済みの性玩具を送り付けられれば、迷惑防止条例の『著しく不快又は嫌悪の情を催』すことは明らかですから、被害者が憤りを感じるのはもっともです」と話す。



一方で、団体に一度だけ送付されたという今回のケースについて、条例違反における「つきまとい等」にあたらないとした大阪府警の判断に関しては「不当とは言えない。この罪は反復される行為を処罰する趣旨で設けられたものだから」とする。



では、他の罪に問われないのだろうか。



「軽犯罪法に悪戯などで『業務妨害』した者を罰する条文がありますが、業務妨害の罪は『性加害』を処罰するものではありません。



そうすると、現行法が想定している性犯罪が見当たらないため、頻発している同種の被害に対応するには、法改正が望まれるという結論になってしまいます」



それでは、法改正はどのようにすべきと考えられるだろうか。



「たとえば、現時点では『公共の場所又は公共の乗物』における行為に限定されている『卑わいな言動』について、処罰範囲が不明確に広がり過ぎることのないように、行為類型を限定するなどして刑罰の対象とすることなどが考えられます。十分な議論のうえで早急な対応が必要でしょう」



今回のケースでは警察は被害届を受理しなかったが、違法と判断される場合もありえる。岡本弁護士は「大丈夫と思って模倣すると逮捕される可能性もある」と警鐘を鳴らした。



「少しでも今回のケースと異なる事情が認められれば、犯罪が成立する余地はあります。公共の場でおこなわれたと評価できる場合には、兵庫県の事案やエアドロップ痴漢と称される行為のように、迷惑行為防止条例を適用することができます。



業務が著しく妨害された場合には、業務妨害の罪の成立もありうるでしょうし、当然、複数回の行為に及んだ場合には、『つきまとい等』にあたる可能性が高くなります。



受け取った人のことを考えれば、法的な制裁の有無にかかわらず、絶対に模倣すべき行為ではありません。何も罪に問われることがないと考えるべきではありません」



●同じような被害は他にも? これを罪に問いたい

松永さんは、同じような嫌がらせを受けている「被害者」が他にもいるのではないかと考えている。



「女性保護に取り組む団体やタレント、YouTuberも自宅や事務所に猥褻なものを送り付けられていないか心配です。性玩具じゃなくても、わいせつ画像を送られているといった被害をSNSで報告する女性はよく見かけます。



ただ、今回、警察に被害届を出したり、性犯罪被害相談電話全国共通番号(#8103)にも相談したりしました。その際、警察に伝え続けないと、法律は変わらないと言われました。



今回の私の報告によって、実は私たちも被害を受けているという団体や人が声をあげてくれたら、いつか法律が変わって、警察も動いてくれるのではないかと期待しています」