Text by CINRA編集部
石川慶監督の日英合作映画『遠い山なみの光』が2025年夏に公開される。
『ノーベル文学賞』受賞作家カズオ・イシグロが1982年に発表した長編小説デビュー作を映画化する同作は、自身の出生地である1950年代の長崎と1980年代のイギリスという、時代と場所を超えて交錯する「記憶」の秘密を紐解いていくヒューマンミステリー。夫と長女を亡くし、想い出の詰まった家で一人暮らしていた母・悦子が、娘・ニキと数日間をともにするなかで最近よく見るという、ある「夢」について語り始めるというあらすじだ。
長崎で原爆を経験し、戦後イギリスに渡ってきた主人公の悦子役に広瀬すずがキャスティング。カズオ・イシグロ自身もエグゼクティブプロデューサーとして名を連ねている。石黒裕之が企画を担当し、福間美由紀とタッグを組むほか、イギリスのインディペンデントプロダクションNumber 9 Filmsが参加。
【カズオ・イシグロのコメント】
私は石川監督の前作『ある男』の大ファンで、彼が私の小説「遠い山なみの光」の映画化を希望してくださった最初の日から、とても興奮していました。石川さんは映画という言語を巧みに操り、俳優たちから見事なニュアンスの演技を引き出す監督です。私が夢中になって読んだ今回の素晴らしい脚本は、ミステリアスで感動的でした。主演の広瀬すずさんは、国際的な舞台において今最もエキサイティングな若手俳優の一人です。これらの理由から、私はこの映画の完成をとても楽しみにしています。
物語そのものは、第二次世界大戦の惨禍と原爆投下後の、急激に変化していく日本に生きた人々の、憧れ、希望、そして恐怖を描いています。今もなお私たちに影を落とし続けている、あの忌まわしい出来事の終結から80年を迎えるこの時期に、この映画が公開されることは、なんと相応しいことでしょう。
【石川慶監督のコメント】
目下絶賛撮影中、ロンドンへ向かう飛行機の中でこの文章を書いています。いまだにこの特別な原作を自分たちの手で映画化しているとは信じられない思いでいます。この大きな原作に立ち向かう勇気を僕に与えてくれたのは、他ならぬ原作者のカズオさんの「この物語は、日本の若い世代の人たちの手で映像化されるべきだと思っていた」というお言葉でした。
すでに撮了した広瀬すずさんは、紛れもなく戦後長崎に生きた悦子そのものだったし(本当に素晴らしかった!)、他にも考えうる最高のキャストスタッフが集まってくれました。イギリスからは、自分の青春時代に大きな影響を受けた数々の傑作映画を制作してきた、Number 9 Filmsが参画してくれています。
特別な映画が出来つつある、そういう手応えを確かに感じています。来年の映画公開、ぜひ期待してお待ちください。
【広瀬すずのコメント】
不安感を抱きながら演じる、そんな日々でした。難しくて、悩みながらでしたが、不穏な緊張感を感じるたび悦子に近づいているのを確信し、心強い座組のなかお芝居できた事がとても宝物のような時間でした。希望を捨てず、光に向かって。まだまだ気が早いですが皆様に届く日まで、待ち遠しいです。
『遠い山なみの光』カズオ・イシグロ/小野寺健訳(ハヤカワ文庫)