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世界最大電子コミックプラットフォーム「WEBTOON」米ナスダック上場へ 最高責任者に聞く世界戦略と現地NYの活況レポート

2024年08月23日 08:20  リアルサウンド

リアルサウンド

米WEBTOON EntertainmentのNYのナスダック市場でIPOを行った様子。©Nasdaq

 スマートフォンの普及と比例するように、縦スクロールで読むフルカラーマンガのwebtoon(ウェブトゥーン)が、世界で躍進を続けている。その牽引役となっている米WEBTOON Entertainmentは、現地時間6月27日にNYのナスダック市場でIPO(新規株式公開)を行った。


 ナスダックがあるタイムズスクエアはWEBTOON のカラーであるグリーンに染まり、巨大ディスプレイでは人気作品の映像が流れ、人気クリエイターのサイン会に大勢のファンが列をなしていた。WEBTOON Entertainmentとは、日本でLINEマンガを展開するLINE Digital Frontier株式会社の親会社で、タイムズスクエアの広告には、日本発の作品で高い人気を誇る『先輩はおとこのこ』『神血の救世主~0.00000001%を引き当て最強へ~』が流れるなどWEBTOONの華々しい門出を祝うイベントが催されていた。


 現在、WEBTOON Entは世界150カ国以上、2,400万人のクリエイターと約1億7,000万人の月間アクティブユーザーを抱える。webtoonが浸透している韓国や、マンガ文化が浸透している日本以外にもリーチを広げ、ユーザーの半数以上が本社のある北米・カナダなどその2カ国以外のユーザーだという。また、インディペンデントクリエイターの発掘も盛んで、従来の出版業界よりクリエイターの参入障壁が低いことも特徴だ。


 2,400万人のクリエイターの半数はアマチュアのクリエイターで、プロのクリエイター1人当たりの平均年間収入は4万8000ドル(約773万円)で、クリエイター上位100名は平均100万ドル(約1億6000万円)を稼ぐという。ユーザーの大半は、デジタルネイティブのZ世代(24歳以下)とミレニアル世代(25~34歳)であり、ここ10年で台頭するストリーミング・サービスとも親和性が高い。webtoon作品は、映画化、ドラマシリーズ化、そしてゲームや商品化と多角的に広がり、それらの認知によりまたwebtoonユーザーが増える相乗効果もある。


 クリエイターとエンターテインメントの未来を担うWEBTOONの最高責任者の一人である「WEBTOON Entertainment」のデイヴィッド・リーCOO/CFOと、「LINE Digital Frontier」の髙橋将峰代表取締役社長に話を聞いた。


■最高責任者に聞く、ナスダック上場の経緯

――まずは、ナスダック上場おめでとうございます。


髙橋将峰 (以下髙橋):WEBTOON Entの上場についてはデイヴィッドが詳しく話してくれると思いますが、私たちは日本で「LINEマンガ」と「ebookjapan」という2つのサービスを運営しています。2024年5月にはLINEマンガが、日本のすべてのアプリの売上でナンバーワンになりました。その翌月にナスダックに上場することができたので、素晴らしいタイミングだと思います。日本において、LINEマンガはアプリ、ebookjapanはウェブで幅広いユーザーを取りこんでいます。WEBTOONにおいては日本のマーケットの貢献度も高く、今回の上場にも一役買ったのではないかと思います。


デイヴィッド・リー(以下デイヴィッド):今回のナスダックへの上場は、ある意味20年に及ぶ旅路でした。NAVER(韓国最大手のインターネット検索ポータルサイト)の若きエンジニアだったKJ(キム・ジュンク)がNAVER WEBTOONを立ち上げた2005年、彼は7000ドルの自己資金と36ヵ年計画をNAVERに提出しました。彼のビジョンは、どんなクリエイターだろうが、どこにいようが、誰でもグローバルのユーザーにサービスを提供できるようにする、3つのチャプターがありました。


 1つは、全く新しいマーケットを作ること。webtoonという、デジタルネイティブ向けのストーリーテリングの場所を生み出しました。第2に、グローバルに進出すること。世界各国の言語でローカライズし、グローバル展開を行いました。第3が、米国上場企業として、世界の投資家から出資を募るというものです。


 そして、この上場が意味するものは、投資を用いてフライホイール(ビジネスの継続・成長サイクル)を加速させ、日本でのビジネスを成長させることができるということです。髙橋氏が言ったように、LINEマンガは日本のすべての消費者向けアプリでナンバーワンとなりました。これはつまり日本のクリエイターたちは、日本の大きなマーケットに作品を発表にすることができますし、今回の上場によってより世界中からも注目を集めることができます。


 例えば今大人気の日本発のwebtoon『神血の救世主~0.00000001%を引き当て最強へ~』は最初日本語で配信されましたが、韓国語や英語でも配信されています。弊社は、日本でのマーケット開拓以上に、日本のクリエイターの世界進出に大いに興味を持っています。これまで日本のクリエイターはたくさんのデジタルコンテンツを輸出してきました。彼らの世界へのアクセスをもっと広げるとともに、日本の伝統的なジャンルにとどまらず、より多くのジャンルを開拓してほしいと考えています。それが今回のIPOで可能になります。


――LINEマンガが数あるアプリの中で一位を取った理由には、どんな強みがあったと思われますか?


髙橋:webtoonは、縦スクロールでフルカラー、スマートフォンで読みやすい、というグローバルで受け入れられた初めてのマンガフォーマットだと思っています。その中で、韓国の「NAVER WEBTOON」の作品や、海外のオリジナル作品がローカライズされて入ってきて、日本のユーザーにも受け入れられて人気を得ています。マンガアプリの差別化は、オリジナル作品がどれだけユーザーに刺さるかにかかっていると思います。グローバルで人気を博している作品が日本にもどんどん入ってくるというグローバルなエコシステムが大きいと考えています。


――まるでNetflixが日本にやってきたようですね。ちなみにNetflixの強みはオリジナル作品でもありますが、UI(ユーザーインターフェース)、UX(ユーザーエクスペリエンス)そしてローカライズへの目配せがあると思っていて、LINEマンガにも同様の強みを感じています。


髙橋:そう言っていただけるとすごく嬉しいです。デザインに関して、週間連載作品は、日本だけでなくグローバルでデザインをテストし、統一しています。日本のLINEマンガは扱っている作品数が膨大ですが、その中でいかにレコメンドをうまくやっていくかということが功を奏していると思います。


 Netflixにいけば、面白いオリジナル作品があるとやってくるユーザーがいるように、LINEマンガでも日々新しい作品を発見してもらえることが大事です。デザインに関しては日本のUIチームがベースを考え、グローバルのUI成功事例をレビューし、双方で高め合っています。すべての機能を実装する前にはABテストを行い有効性を測っています。


■揺るぎないクリエイターファーストへの思い

――髙橋さんは常に“クリエイターファースト”を掲げていらっしゃいますが、今の日本の出版業界、マンガ業界、そしてクリエイターの間で、どのような変化を感じていらっしゃいますか?


髙橋:既存の出版業界におけるクリエイターの立場はある意味完成されすぎていて、発表の場が限られているケースもあります。LINEマンガには「LINEマンガ インディーズ」という、クリエイターを育てていくサービスがあり、そのシステムをどんどん広げていきたいと思っています。ナスダック上場の際に広告が掲示された『先輩はおとこのこ』は、元々LINEマンガ インディーズに投稿された作品です。


 投稿作品が本連載となり、人気が高まりユーザーの熱意によってアニメ化が決まり、この夏放送が始まる(※)。それ自体がもうマンガみたいですよね。『先輩はおとこのこ』は海外でも翻訳されて読まれているほどの人気です。こういった作品を1つでも多く出したいですね。日本から世界へ出ていく作品がもっともっと増えることを期待しています。(※)取材時。現在はアニメ放送中


■WEBTOON、LINEマンガのIP戦略

――世界配信を基準とするNetflixやDisney+のオリジナル作品には、webtoon原作の作品が増えています。WEBTOONおよびLINEマンガの作品のIP展開についてはどうお考えでしょうか。


デイヴィッド:私たちのマンガはNetflixだけでなく、100件以上の映像化成功例があります。あらゆるストリーミングサービスやモバイルゲームといった、重要な物語の源泉になることを望んでいます。なぜなら、WEBTOONは多くの可能性を秘めたデジタルストアのような場所だからです。むしろ、ストーリーテリングの力がグローバルオーディエンスに素早く広がることを示したいと思っています。


 実際、私がこの会社に参画しようと思った理由はこのことなのです。現在、エンターテインメント業界で競争に挑んでいる企業は、TikTokもゲーム会社も、フォーマットが商品で、ストーリーやコンテンツが消費される形がすでに決まっています。ですが、WEBTOONはどのようなフォーマットにも適応できるストーリーの発信源であることが、エンターテインメント企業やメディア企業との最大の違いであり強みだと思っています。


髙橋:韓国の作品がドラマ化されてNetflixで配信されるのと同じように、日本はアニメのマーケットが大きいので、WEBTOONの作品と日本のクリエイターの力を掛け合わせることでグローバルに展開していくということが可能になり、我々独自の攻め方ができると考えています。


 日本のアニメマーケットが現在約2兆円といわれる中で、ほぼ半分が海外からの収益です。それまでは約9割が日本の消費だったのが、一気にシェアが変わりました。WEBTOONもその役割を担うことができるといいと思いますし、日本のマンガをより成長させることでクリエイターにとってもより良い未来を作っていけるのではないかと思います。


■グローバル戦略の中で、特に注目している国は?

――現在webtoonは世界150カ国で読まれていて、世界の市場にものすごいスピードで影響を与えている状況です。そんな中で今後の戦略的に注目されている国はありますか。


デイヴィッド:日本は非常に興味深いマーケットです。まずマンガやアニメへの高いニーズと消費力があります。日本のマーケット動向で見ると、アメリカや韓国と比べてユーザー1人あたりの平均購入金額が高く、長編コンテンツをエピソード単位で購入する傾向があります。


 それに日本のマンガやアニメは、クリエイターの間で築かれてきた名作を生み出す伝統と長い歴史から、今後も素晴らしい作品が登場する可能性が高いと考えています。日本から生まれるマンガは、世界と比べても奥深い作品が多いのです。


 根本的に世界のマーケットは、どの国の作品ということは関係なく、おもしろいストーリーを求めています。もう少し時間が経てば、アメリカや他の世界市場とも比較し、私の焦点も変わってくると思いますが、今は日本に集中しています。なぜなら、日本のマーケットの分析や結果から得られる知見は、どこの国でも応用できると考えているからです。


髙橋:ナンバーナインが制作をした人気webtoon作品『神血の救世主~0.00000001%を引き当て最強へ~』やソラジマの『かたわれ令嬢が男装する理由』などは、日本で人気でしたが、海外においても、特にアメリカにおいてもトレンドランキングに入るようになってきました。一方で、アメリカでランキング1位となった『ロア・オリンポス』という作品は、日本ではヒットしづらい状況にある。それぞれの国のユーザー属性やカルチャーの違いによって楽しめるコンテンツと、誰もが同じように楽しめるコンテンツの二極化しているのはと感じています。日本ではユーザーのおよそ50%が35歳以上、逆にアメリカは35歳以上が6%くらいしかいません。


 これは日本の「週刊少年ジャンプ」(集英社)の黄金期と似ています。ジャンプでマンガに触れた読者がずっとファンでいて、その人たちが今後も変わらずに購買層になっていく状況が作れるのではと考えています。デイヴィッドはとても日本に可能性を感じてくれていますが、僕にはアメリカのマーケットがすごく魅力的です。もちろん日本でも変わらずにがんばっていきますが(笑)


デイヴィッド:アメリカのユーザーはWEBTOONを国内のサービスと思っていないでしょう。非常に便利なデジタルフォーマットで、他のどこにもないおもしろいマンガを読める方法だと考えているのです。スマートフォンでスクロールするだけで、ストーリーが一目でわかる利便性も高い。私の目には、アメリカのマーケットはすでにWEBTOONを受け入れる準備が整っていて、誰もが遠く離れた異国の文化から、母国語ではない言語で発信される素晴らしいストーリーを見つけたいと思っています。


 地理が離れて言語や文化が異なっていると伝わりにくいと否定的に捉えられてきた状況があった中で、とてもポジティブなことかもしれません。縦読みのフルカラーマンガは、現在における、偉大な芸術品のひとつだと思います。少し哲学的な話をしましたが、私はさまざまなデータから、その動向がより広がっていくことを確信しています。


――次の目標はなんでしょうか?


髙橋:グローバルに読者が増えてきているのは魅力的です。日本のクリエイターがグローバルの読者に対ししっかりと作品を提供していけるクリエイターファーストのマーケットを作るのが一つの目標です。圧倒的ナンバーワンになるのはもちろんですが、その先にはグローバルに浸透し、世界中の誰もが知っているようなIPをどのように日本のクリエイターが作っていくのかが最大のミッションだと考えています。


*データはすべて以下より抜粋
https://www.nasdaq.com/market-activity/ipos/overview?dealId=1298105-110316


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