2024年08月22日 10:50 弁護士ドットコム
「夫がオンラインゲームで知り合った女と恋愛しています。相手の女に慰謝料請求したいです」
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そんな相談が弁護士ドットコムにはしばしば寄せられます。たとえば、「夫がオンラインゲームで知り合った女性と頻繁にボイスチャットで『好き』『愛している』といったやりとりをしている」といったものです。
しかし、夫と女性が実際に会ったことはない場合、不貞行為があったと認定されることは難しいようです。
一方で、こんな相談も寄せられています。
「夫がオンラインゲームで知り合った女性と浮気をしていました」という女性。お互い既婚者だと知りながら、『好き』『一緒に寝たい』(男女関係を持ちたい)などのメッセージを送り合い、通話しながら性的行為をしていたといいます。
また、別の女性からの相談では、同じように夫がオンラインゲームで知り合った女性とLINEで愛の言葉を語り合っていたそうです。夫と女性は、お互いの裸の写真なども送りあっていました。
実際の男女関係はないオンライン上の恋愛、どこからが「不倫」になるのでしょうか。城戸美保子弁護士に聞きました。
——男女関係のない「浮気」でも、「不貞」として認められますか?
昭和48年11月15日最高裁判所第1小法廷が、民法770条1項1号の「不貞」について、自由な意思にもとづいて、配偶者以外の者と性的関係を結ぶことをいうとの判断を示しています。
既婚者であることを把握した第三者が、それなりの期間、二人きりでホテルの同じ部屋に滞在したり互いの自宅を訪問したり、手を握るとか肩を抱く行為が認められるなど、単なる友人関係や仕事上の関係を超えて親密な交際を継続していたと認められる場合には、上記宿泊や自宅訪問の機会に不貞行為に及んだものと推認されます。
そうすると、SNSのDM機能やオンラインゲームのチャット機能を通じてリアルに接触する連絡を取っている場合は別として、インターネットを通じて親密なコミュニケーションを取っているにすぎない場合にまで、不貞と認定される場合は少ないといえそうです。
例えば、チャットの相手と一切対面したことがなく、単に短期間チャットで「好き」「会いたい」とのメッセージを送りあっていた事案について、裁判所は「不貞があった」とは認定しないでしょう。
——「男女関係を持つと約束していた」「通話しながら性的行為をしていた」「裸の写真を送りあっていた」などの事実があったとしても、「不貞」行為として認められないのでしょうか。
質問に異なるレベルの話が含まれているので、一つ一つお答えします。
「男女関係を持つと約束していた」というのが、抽象的な表現による冗談ともとれるような内容にとどまらず、リアルに男女関係を持つための日程調整を意味するのであれば、「不貞」と認定されるかどうかは別として、婚姻共同生活の平和を侵したなどとの理由で慰謝料請求が認められる余地はあると思います。
インターネット上で配偶者とやり取りする特定の第三者が、相手が既婚者であることを知りながら、長期間、一緒にオンラインゲームで遊び、対面はしていないものの、「裸の写真を送りあっていた」ことにより、お互いに性欲を解消していたことを立証できる場合には、婚姻共同生活の平和の維持を侵したなどとして、慰謝料請求が認められる余地はあると思います。
また、第三者が既婚者であることを知っている状態で、通話しながらその既婚者とお互い性的な行為をしていたことを立証できるのであれば、既婚者が配偶者に負う貞操義務に違反する行為に関与したとの理由により、慰謝料請求が認められる余地があると考えます。
ただし、後述しますが、通話しながら性的行為をしていたことを立証する必要があるので、実際に慰謝料が認められる場合は限られるように思われます。
——もしも、「不貞」の疑いのある証拠を入手できたとしても、相手女性に慰謝請求したくても、実際にはオンラインゲームのアカウントやLINEのアカウントしかわからないというケースがあるようです。こうした場合、相手の身元を確認する方法はあるのでしょうか。
弁護士法23条照会により、トーク、チャット、ダイレクトメッセージなど、インターネットを介し、1対1のやりとりが行われている場合の利用者情報を取得することが考えられます。弁護士法23条照会は、弁護士が受任している事件を処理するために必要な事実の調査等を容易にするために設けられたものです。
照会を受けた官公庁や企業、事業所などは、正当な理由がない限り、照会された事項について報告をすべきものと考えられています(現行法上、回答を強制する手段はありませんが、多くの団体が回答に応じてくれています)。
そこで、相手女性のアカウントが登録されているサービスを運営する会社が照会に応じてくれれば、アカウントの登録情報を入手できます。
また、オンラインゲームの場合、必ずしも本名や住所を入力せずともアカウントを取得できる仕様になっている場合もあるようです。そういった場合にはアカウントからの本人特定はできないと思われます。
——ネトゲの相手との「不貞」行為の証拠を集めることは難しいのでしょうか。
慰謝料を請求するには、「不貞」行為の証拠が必要になります。
実際にオフラインまたはオンラインを通じ配偶者が第三者と性的な行為をしていたとしても、そのことを立証できなければ、慰謝料が認められないか、非常に低額にとどまります。
通常、配偶者と第三者との親密さが疑われるメッセージを見たとの証言だけでは不貞は認められません。
また、通信の秘密の保障の観点から、現行法上、裁判手続によって、運営会社から、配偶者と第三者のやり取りを収集する方法をとることは難しいと思われます。
裁判例の中には、配偶者と第三者のメッセージを不貞の証拠として提出しても、証拠とされるメッセージからは性的な関係にあったとまでは認められないとして、慰謝料請求が否定されたものも少なくありません。
配偶者の立場から「怪しい」と思ったからといって、裁判官が「不貞」を認定してくれるわけではありません。裁判所による不貞の認定のハードルは、一般の方が想像するより高いことが多いため、しっかり証拠を確保するようにしましょう。
少なくとも、そのやりとりがなされた日時がデータ上、把握できる必要があります。また、やりとりの一部分だけでなく、前後の文脈からも明らかに性的関係を推認させる程度の内容であることが重要です。
入手した資料が「不貞」を立証できるものになっているかどうか、経験のある弁護士に依頼するなどして判断してもらいましょう。
なお、現在、インターネット社会における秩序維持等の観点から、インターネットに接続している電子計算機にアクセス制御機能を付加したアクセス管理者は、不正アクセスを防ぐ努力義務が課せられています。そのため、アクセス管理者が、不正アクセスを疑った場合、アカウント利用者に通知等が送られる仕様になっていることも少なくありません。
配偶者に浮気を疑っていることがばれないためにも、配偶者に無断でそのアカウントを利用し安易にログインしないようにしましょう。
【取材協力弁護士】
城戸 美保子(きど・みほこ)弁護士
1999年、立命館大学法学部卒業。2002年、立命館大学大学院公法研究科修士課程修了。2007年、弁護士登録。2017年3月、9年間の勤務弁護士を経て、ざっしょのくま法律事務所を開業。主な所属団体・委員会は、九州・山口医療問題研究会、日本労働弁護団 、過労死弁護団 、ブラック企業被害対策弁護団など。現在、福岡県配偶者からの暴力防止対策筑紫地域連絡会議委員などを務める。
事務所名:ざっしょのくま法律事務所
事務所URL:https://zassyonokuma-lawoffice.com/