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動画視聴にベストと思いきやTVの「ワイヤレス視聴」でハマった――Armベースの「Surface Pro(第11世代)」実用レビュー【第2回】

2024年08月15日 18:51  ITmedia PC USER

ITmedia PC USER

筆者の生活になじんできた感もあるSurface Pro(第11世代)

 日本マイクロソフトからの誘いに乗る形で、Snapdragon X Elite搭載の「Surface Pro(第11世代)」を長期間レビューすることになった。第1回のレビュー記事では、普段通りに使うべくセットアップを進めたら、ジャストシステムの文字入力システム(IME)「ATOK」の利用で一部つまずいてしまったことをお伝えした。


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 ArmベースのアプリでATOKが使えないというトラブルがあったものの、それ以外の面についてはIntel(x86)アーキテクチャのノートPCと同じように使えている……と思いきや、また“困った”ことが発生したので、その辺の話をしようと思う。


●高品質なディスプレイとスピーカー 動画を楽しむにはベストな1台


 Snapdragon X Elite搭載のSurface Pro(第11世代)には、2880×1920ピクセルの13型有機ELディスプレイが搭載されている。HDR10とDolby Vision規格のHDR表示にも対応しており、両規格に対応する動画を再生すると、より明暗差を強調した表示を行える。


 また、スピーカーは2W出力のものを2基搭載しており、Dolby Atmos規格のオーディオをサラウンド再生できるようになっている。


 モバイルPCと考えれば、ディスプレイもスピーカーも品質は良好だ。ちょっと大げさかもしれないが、Surface Pro(第11世代)は動画や音楽を楽しむために生まれたと言っても過言ではないと個人的には思っている。


 ほとんどの動画を無料で視聴できる「YouTube」はもちろん、サービスを順次再開している「ニコニコ動画」、有料の「Amazon Prime Video」や「Netflix」も非常に快適に楽しめる。


 難点を強いて挙げるとすると、ディスプレイのアスペクト比が3:2なので、横長(16:9や21:9)のコンテンツだとディスプレイの上下が余ってしまう。また、ディスプレイがグレア(光沢)加工なので、照明や自分の姿がどうしても映り込んでしまうことがある。


 黒の表示に強みのある有機ELディスプレイだからか、上下の無表示領域(≒黒色)は意外と気にならなかった。しかし、映り込みだけはどうしても我慢ならずにアンチグレア(非光沢)フィルムを貼って対処することにした。映像の鮮やかさは若干失われるが、元々のレベルが高いため、フィルム越しでも十分きれいに楽しめる。


 最近は動画配信サービスを介して多くのTV番組を楽しめる。しかし、中には配信されない番組、あるいは配信はされるものの、「権利の都合」で一部の映像が差し替えられたり非表示になったりすることもある。


 そこで筆者は自宅でTV番組を録画し、ローカルネットワーク内で視聴/持ち出しできる環境を整えている。Surface Pro(第11世代)でもTVの視聴/持ち出しができれば、ATOKの件はさておいてプライベートでのPC利用で困ることはない……のだが、やはり困ったことになってしまった。


●自宅内でTVを「ワイヤレス視聴」しようとしたらハマった


 筆者の自宅では、ひかりTV for docomo専用のセットトップボックス(STB)「ドコモテレビターミナル02」と、地デジ/BS/110度CSデジタル放送に対応するネットワークチューナー「HVTR-BCTZ3」の2台がローカルネットワーク内に存在している。


 いずれのSTB/チューナーもDTCP-IP対応のDLNAクライアントアプリ/デバイスからのTV視聴に対応しており、Windows PCからはソニーグローバルマニュファクチャリング&オペレーションズ製のクライアントアプリ「PC TV Plus」、またはデジオンの「DiXiM Play U」を使って視聴している。


 あえて何も考えずに、筆者はSurface Pro(第11世代)にPC TV Plusをインストールした。セットアップは“ある1点”を飛ばして問題なく完了した。


 セットアップでスキップされたプロセスがあることに気が付かないまま、筆者はPC TV Plusを起動した。通常、スプラッシュウィンドウは画面の“真ん中”に出るのだが、Surface Pro(第11世代)では右下に出てくる。この時点で、何となく不穏な雰囲気がする。


 初回起動後は、Windowsファイアウォールの設定と、接続するDLNAサーバ(STB/チューナー)の選択画面が出る。ここは難なく突破し、接続したドコモテレビターミナル02から取得したリアルタイム番組情報もしっかりと表示された。


 「お、これは大丈夫そう」と思い、放送中番組の1つをタップしてリアルタイム(という名の5~10秒遅れ)視聴を始めることにする。ウィンドウも番組表示モードに遷移した。これは勝ったか……?


 しかし、映像のバッファリングが終わったとおぼしきタイミングで「著作権保護エラーが発生している」として、再生できないまま終わってしまった。いいところまで来て、一気に落とされる――世の中は無常である。


 Surface Pro(第11世代)は、Snapdragon X Eliteに統合された「Adreno(アドレノ)」というGPUを使っている。DirectX 12に対応しているし、何ならディスプレイ込みで「HDCP(High-Bandwidth Digital Content Protection)」という著作権保護技術にも対応している。表示の要件は満たしている。


 では何がダメなのか。今回は、ATOKとは別の意味でCPUアーキテクチャの違いが影響しているものと思われる。


 PC TV Plusは、インストール中にピクセラ製の仮想ネットワークドライバを組み込む。このドライバは、ネットワーク越しの著作権保護(DTCP-IP)を制御する役割を持っている。


 Arm版Windows 11は、Intelアーキテクチャ(x86/x64)ベースのアプリをエミュレーションする機能“は”備えている。ただ、エミュレーションできるのはアプリのみで、デバイスドライバのエミュレーションまでは行えない。


 アプリと一緒にIntelアーキテクチャのデバイスドライバも組み込まれる場合、ドライバのインストールはスキップ(無視)されるか、エラーが出て続行できない。だから、先ほどのインストールプロセスでは仮想ネットワークドライバの導入がなされなかったのだ。


 データ伝送時の著作権保護を担保するドライバがないので、STBの映像を再生できない――そういうことである。


●ストアアプリで夢を見れるか?


 PC TV Plusがダメなら、Microsoft Storeを介して配信されている「DiXiM Play U」ならどうだろうか。


 Microsoft Storeで配信されているアプリは、Armアーキテクチャにも対応するものが比較的多いという印象がある。DiXiM Play Uのストアページでも「この製品は、お使いのデバイスで動作します」と出ていた。これは“行ける”のでは……?


 わらをもつかむ思いでDiXiM Play Uをインストールし、起動する。自宅ネットワーク内にあるSTB/チューナーを見事認識した。STB/チューナーをタップすると、リアルタイム視聴を含む各種コンテンツを確認できた。


 リアルタイム視聴の番組を選び、タップする。先ほどのPC TV Plusと同様にバッファリングを行うような挙動を見せた……と思ったら「再生できないコンテンツです」というエラーが出て、やはり表示できなかった。


 挙動を見る限り、本アプリもデータ伝送時の著作権保護に関する処理が行えなかったと思われる。


●良いディスプレイとスピーカーがあるのに……


 このように、現状のSurface Pro(第11世代)、もっといえばArm版Windows 11搭載PCを使って自宅ネットワーク内にあるSTBやTVチューナーの映像を楽しむことは、現状では事実上不可能だ。DTCP-IP対応DNLAクライアントアプリを作っている開発者がArmアーキテクチャに対応してくれればいいだけの話なのだが、Intelアーキテクチャと比べると普及台数の少ないArmアーキテクチャのWindows PCのためにそこまでやってくれるか、というとなかなか難しい面もある。


 一方で、Webブラウザや専用アプリを介したネット動画視聴は非常に快適だ。ネイティブアプリも用意されているAmazon Prime Videoは、非常にサクサクと動くし、視聴体験も申し分ない。Surface Pro(第11世代)は、間違いなく動画や音楽を楽しむ上で、最良のデバイスの1つといえる。


 それだけに、STB/チューナーにとりためた録画番組を楽しめないのは非常に残念である。開発者でこの記事をご覧になった方、Armアーキテクチャへの対応も検討してもらえませんか……?


 Surface Pro(第11世代)のレビューは、不定期で続けていく。何か話題があり次第掲載するので、楽しみにしていてほしい。