トップへ

『化け猫あんずちゃん』チームがロトスコープの表現方法を語る

2024年08月13日 18:51  cinemacafe.net

cinemacafe.net

『化け猫あんずちゃん』「ANIME FANTASISTA JAPAN 2024」イベント©️いましろたかし・講談社/化け猫あんずちゃん製作委員会
ロトスコープ技法を用いたアニメーション映画『化け猫あんずちゃん』のチームが8月12日に開催された「ANIME FANTASISTA JAPAN 2024」でのイベントに参加。久野遥子監督らが登壇し、作品やロトスコープの表現方法について語った。

多くの人で賑わう会場に『化け猫あんずちゃん』チームが登壇。ロトスコープの手法で作られた本作について久野監督は「ディズニーなどでも使用されていたりする昔からある手法で、実写で一度撮影した映像の上から写すように描くというのがロトスコープになります。あんずちゃんに関しては、人間のフォルムからかなり離れたものになっていて、ロトスコープによってリアルに見せたいというより、可愛らしいことや面白いことなど幅広いことができればと、この作品を作りながら思っていました」と解説。

続いて本作のCG技術の話に。アニメを作る上ではカメラが固定されていないと作画がとても複雑になるが、本作では実写映画同様に自由なフレームワークで撮影を実施。実写の撮影において芝居をフォローしていくカメラの動きに制限が出ないようにしたという。大判のパノラマサイズの背景設定を用意しカメラの動きをつけていくという方法で、実写のカメラワークの動きをアニメーションに落とし込んだ。

CG監督を務めた飯塚智香は、「実写とアニメのフレーム撮影の映像がほぼほぼ同じになっています。実写の撮影のフレームワークが素敵だったのでできるだけ活かしたいという思いがありました」とその努力を語り、久野監督は「実写の撮影監督の池内さんの素晴らしいカメラワークがそのまま残ったことがアニメーションの力になったと思います。飯塚さんはどうしたら実現できるか相談すると必ず方法を見つけてくれた」とその功績を称えた。

ロトスコープの作画について話が及ぶと、久野監督は「『花とアリス殺人事件』でロトスコープディレクターとして参加させていただいた際には、ロトスコープでお芝居の良いところを拾うとすごく美しい映像になる、逆に動きを拾いすぎると何故か実写と離れた印象のアニメになると感じました。あんずちゃんでは、お芝居の気持ちいいところだけをアニメーションに連れて行きたいと思いました。そうすることであんずちゃんみたいな人間と離れたキャラクターでも、山下監督の良さも活かせるのではと考えました」と本作で目指した部分を明かした。

作画を担当した平井あかねは、「私が担当したカットは、すごく繊細な表情芝居がメインで、役者さんのお芝居がすでにとても良いものになっていました。絵にすることでそれが薄まってしまわないかが心配でした。元になる実写映像をそのまま絵にするというよりは、何度も映像を見て自分が受けた印象を絵で表現することを意識しました」と役者らの芝居の温度感を活かした作画工程について語る。

久野監督は平井氏の表現について「パイロット版で平井さんが担当されたカットが、デフォルメもされているのに実写の芝居のニュアンスは残っていてとても良いと思いました。本編を作る上でロトスコープ表現のベクトルの指針にもなりました」とふり返った。

続いて久野監督と『音楽』の岩井澤健治監督とのトークパートに移り、岩井澤監督から久野監督へ続々と質問が。ロトスコープ作品をチームで作り上げていく上で苦労した点について、久野監督は「実写の映像をどこまで拾うのかというのが、人によって難しいという意見がありました。また、実写映像での“うなずき”の演技をそのままアニメにすると動きがささやかすぎて、演技として抜けてしまうということがあるのですが自分はその”うなずき”は拾いたかったので気をつけていました」と語る。

また、主に実写映画の世界で活躍する山下敦弘監督との共同監督であったことでの苦労点について尋ねられた久野監督。「いきなりあんずちゃんを作るとなっていたら難しかったと思うのですが、6年前に山下監督と『東アジア文化都市 2019 豊島』のプロモーション映像をロトスコープで作ったので、その際に実写とアニメのバランス感については探れていたと思います。山下監督は実写撮影時にカメラの位置を変えるときでも、私に確認してくれたりと、とても気を使って実写の撮影をしていただけました」とふり返る。

すると、岩井澤監督が「きっと監督によっては共同監督がうまくいかない場合も多いと思います。お互い関係性を築いていかなければいけない、もしくは元々関係性がある人同士でないと成立できないですよね」とコメント。久野監督は「山下監督はとても任せ上手な部分があって、私としてはとても仕事を進めやすかった一方で、もらった実写映像をちゃんとアニメにしなければと責任を感じました」と語り、強い信頼関係が生み出す絶妙なバランスがあったことがうかがえた。

絶賛ロトスコープで作品制作中の岩井澤監督は「ロトスコープはまだ色々可能性がある手法だと思っています。作品数が増えればまた色々な形の表現が出てくると思うので期待しています」、久野監督は「『化け猫あんずちゃん』は企画を進めていくなかで、ロトスコープの手法がまだまだ理解されていない部分がありました。この作品や『音楽』をきっかけに、ロトスコープの作品がどんどん豊かになって、さらに観た人によってロトスコープの色々な作品が生まれていくということになればとワクワクしています」とこれからのロトスコープの未来について期待を込めた思いを語った。

『化け猫あんずちゃん』は全国にて公開中。





(シネマカフェ編集部)