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線路に立ち入った「撮り鉄」に9900円科料と停職処分 鉄道ファンの「行き過ぎ行為」どんな問題がある?

2024年08月13日 10:10  弁護士ドットコム

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列車の撮影のために静岡県内の鉄道敷地に入ったとして、東京都交通局は7月31日、書類送検された男性主事を停職3日間の懲戒処分にした。


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報道によると、この男性主事は2023年1月、列車を撮影する目的で、知人2人とともに、JR東海道線の敷地内に侵入した。同年3月、鉄道営業法違反の疑いで書類送検されて、横須賀簡裁が科料9900円の略式命令を出していた。



いわゆる「撮り鉄」をめぐっては、同様の事件が全国で相次いでいる。夏休みに入り、鉄道を見に行くファンも多いが、「行き過ぎた行為」には大きな法的リスクを伴う。鉄道に詳しい甲本晃啓弁護士に聞いた。



●どのような法的問題がある?

——撮り鉄が線路内に侵入する行為は、どのような法的な問題があるのでしょうか



鉄道営業法は、鉄道用地内にむやみに立ち入ることを禁止しています(鉄道営業法37条)。立ち入りによる影響の有無に関わらず処罰の対象となり、1000円以上1万円未満の「科料」という刑罰が科されます(いわゆる「前科」となります)。



なお、新幹線用地への立ち入りについては、新幹線特例法により1年以下の懲役または5万円以下の罰金の範囲で処罰されます。<参考:「新幹線の「ディズニー的」異空間、迷惑「撮り鉄」もブロック 起源は1964年東京五輪」弁護士ドットコムニュース>



私生活の出来事で刑事処分を受けたとしても、必ずしも会社から懲戒処分を受けるわけではありませんが、今回、東京都交通局は懲戒処分をおこないました。



これは、公共交通の担い手である職員が、趣味の活動とはいえ、率先して守るべきはずの法律に違反する行為をしたため、これでは示しがつかないと考えて、懲戒処分をしたのだと考えられます。



●損害賠償を求められる可能性は?

——線路内に侵入して、もしも列車の運行に影響が出た場合、鉄道会社から損害賠償を求められることはありますか



具体的に損害が発生すれば、民法709条に基づく不法行為として、損害賠償責任を負います。



法律上のポイントは具体的な損害が発生したかどうかです。たとえば、侵入に気付いた列車が急停止して、乗客が転倒してケガをした、ということになれば、その賠償を求められることになります。



電車が走る路線では、本来停車してはならない「エアセクション」という区間がところどころにあります。緊急時はこの区間でも構わず急停車します。この区間に停車するとパンタグラフに異常電流が発生し架線切断を誘発することがあります(たとえば、2015年8月4日発生のJR京浜東北線・横浜~桜木町間で発生した事故等)。



その場合には、長時間の運休を余儀なくされることがあります。もうそうなってしまうと、運賃の払戻し、振替輸送の経費負担、対応にあたる人件費の増加などの金銭的被害のほか、通常運行であれば得られたはずの運賃収入が入らなくなった逸失利益としての損害も発生します。



法律上はこういった損害が発生すれば、侵入した人は賠償責任を負うことになります。ただし、実際に請求をするかどうかは、鉄道会社によると思います。



●「他人を思いやって撮影を楽しんでもらいたい」

——これ以外にも、鉄道ファンの行為が行き過ぎると、どのような罪に問われる可能性があるのでしょうか



「撮り鉄」は、撮影にあたって障害物がなく見通しよく列車の編成全体を構図に収めたい、列車の顔に影が入らないように光線状態を確保したいと考える傾向を持つ人が少なくありません。そのため、そういった希望を叶えるために、さまざまなトラブルがニュースになっています。



個別の事件については言及しませんが、主に



・場所のトラブル:入ってはいけない場所に立ち入ったり、場所を占領したりする
・物へのトラブル:邪魔なモノを撤去する
・人とのトラブル:構図に他人が入らないよう人を威嚇する



といった行為が問題となっています。



まず、「場所」の問題については、私有地に入るのは住居侵入罪にあたる可能性がありますし、住居にあたらない土地からの退去を求められても応じなければ不退去罪になります(いずれも刑法130条、3年以下の懲役または10万円以下の罰金)。



公道であっても撮影者が密集して往来ができなくなれば、往来妨害罪(刑法124条1項、2年以下の懲役または20万円以下の罰金)にあたる可能性があります。



次に「物」については、無断で木を伐採したり畑を踏み荒らしたりすれば器物損壊罪(刑法261条、3年以下の懲役または30万円以下の罰金もしくは科料)になり、鉄道用地内のロープや柵などを一時的であっても撤去すれば業務妨害罪(刑法233条・234条、いずれも3年以下の懲役または50万円以下の罰金)にあたる可能性があります。



最後に「人」については、構図に入った人を強い言葉で威嚇したり、他の撮影者と撮影場所を取り合って罵声を浴びせたりするといった行為が問題視されており、その様子が動画サイトを通じて拡散されたケースもあります。



たとえば、他人に対して「殺すぞコラ」「どかないと殴るぞ」なんて言葉を発していた場合には脅迫罪(刑法222条、2年以下の懲役または30万円以下の罰金)や強要(223条、3年以下の懲役)に該当するため、刑事処罰を受ける可能性があります。



《参考》<「死ねよ!ゴミ!」撮り鉄がカメラの前を横切った自動車に罵声、法的問題は?」弁護士ドットコムニュース>



もちろん、これらは「撮り鉄」の中のごく一部の人が起こしている問題であり、犯罪にあたらない場合であっても、独りよがりの迷惑行為です。時として「撮り鉄はマナーが悪いから、社会にとって迷惑な存在だ」というレッテル貼りにつながってしまう危険があります。



私にも多くの「撮り鉄」の友人がおりますが、こういった事件に心を痛め、一般人からみてもむしろ気にしすぎだと思う程に撮影マナーは徹底されています。どんな趣味でも、結局は一般社会の縮図であり良識ある人だけではありません。



マナーを守れない人に歯止めとしての法律を適用して解決することは悲しいことだと思います。是非、他人を思いやって撮影を楽しんでもらいたいと思います。




【取材協力弁護士】
甲本 晃啓(こうもと・あきひろ)弁護士
理系出身の弁護士・弁理士。東京大学大学院修了。丸の内に本部をおく「甲本・佐藤法律会計事務所」「伊藤・甲本国際商標特許事務所」の共同代表。専門は知的財産法で、著作権と特許・商標に明るい。鉄道に造詣が深く、関東の駅百選に選ばれた「根府川」駅近くに特許事務所の小田原オフィスを開設した。
事務所名:甲本・佐藤法律会計事務所
事務所URL:https://ksltp.com/