2024年08月12日 10:20 弁護士ドットコム
スマホのゲームアプリ「人狼ジャッジメント」で、チートなどの不正行為を繰り返したとして、当時特定少年(※18歳~19歳)だった男性が、電子計算機損壊等業務妨害の罪で東京地検に家裁送致された。
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東京家裁は、家裁調査官による教育的措置をとったうえで厳重注意処分とした。保護処分にまでは至らなかったが、男性と運営会社との間で100万円以上を支払う約束で、2024年5月に和解が成立している。
数千件の迷惑行為を繰り返した男性が、弁護士ドットコムニュースなど、複数の報道陣の取材に応じた。アプリ上で幾度となく「法的措置」の警告を受けたが、「システム上のメッセージ」と本気にしなかったという。
ゲームの運営会社や、楽しく遊んでいるユーザーに迷惑をかけることに考えが及ばず、チートにのめりこんでいった経緯について「後悔はしていないが、反省はしている」とつぶさに語った。チートを知ったのは8歳のときだったという。(弁護士ドットコムニュース・塚田賢慎)
「人狼ジャッジメント」の運営会社の代理人によると、現在20代の男性は、ゲームアプリ上で、繰り返しチート行為をおこなって業務妨害に及んだほか、アカウントが凍結(アカBAN)されるたびに新しいアカウントを作るなど、不正行為を繰り返したとされる。
チート行為の中身は、運営会社のサーバーに虚偽のデータを送信して、本来は購入していないアイテムを使用できるようにするなど。
アカウントの作り直しは約170回にも及び、チートなど不正行為は3400件以上にものぼったという。東京地検はそのうち、2021年8月29日と同9月6日の不正行為について家裁に送致した。
このゲームをめぐっては、不正の指南ブログを書いた男性について、1000万円の損害賠償が認諾されるなど、たびたび法的責任が追及されている。
また、別のゲームでもチートツールの販売者が逮捕された。
小さい子どもでも、少し調べれば簡単にチートの存在にたどりつき、実行のハードルも低い。どうやってのめり込んでいくのか、男性が報道陣に語った。
男性は、父親の影響で幼い頃からゲームに親しみ、チートに出会ったのは8歳のころだった。
親から借りたスマホで、YouTubeのチート紹介動画を視聴した。人気ゲーム『バイオハザード』のキャラクターの動きを見て「なんでこんな動きができるんだろうかと羨ましいと思いました」と振り返る。
中学生になると、動画で紹介されたやり方の通りに、自分のPCにチートエンジンを入れて、ゲームストアにあるアプリに対して「手当たり次第に」チートを試した。その通りにできたという。
「人狼」を遊び始めたのは中学2年生だったが、3年生になるころには「画面の色を変える」行為や「課金解除」(課金が必要なアイテムを無課金で利用する方法)」など、さまざまな不正行為を実施するようになった。
チートに駆り立てたのは、好奇心や承認欲求だった。
「何ができるんだろう」と行為を繰り返し、不正で得られたアイテムを「見せびらかして(他のユーザーから)反応がもらえたことが、うれしかった」という。
まさしくゲーム感覚のようにチートをしていたが、かといって違法行為だったことを認識していなかったわけでは決してない。
チートや指南行為がどのような罪にあたるのか、自分で調べて罰則もわかっていたと話す。
「偽計業務妨害罪などにあたることはわかっていた。ただ、未成年であれば自分がやっている程度ならバレても許されるかなという感じです」
チートツール販売の逮捕事件がニュースになっても、「誰でもできるようなしょうもないチートをして捕まるニュースは見たことがなかった」。自分は平気だという考えが揺らぐことはなかったようだ。
人狼のゲームで不正行為を働くと、アプリ上で「法的措置をとる」「これ以上は裁判をします」など、警告メッセージが表示され、最初は半年ほどチートを控えたが、それも「定型文のただの脅しかな」と割り切って再開した。
親は「やめときな」と注意するにとどまったという。
ある朝、家族と暮らす自宅に警察がやってきて、パソコンとスマホが押収されていった。
他のユーザーが不快に感じるようなコメントを連投する「荒らし」のような迷惑行為とは違って、男性は自らのチート不正は「犯罪だが、迷惑にならない個人の娯楽のようなもの」と捉えていた。
しかし、それは完全な誤りだ。
運営会社代理人の中島博之弁護士は、ゲームの不正行為は「民事・刑事でリスクのある行為」と指摘する。
ゲームの不正が横行すれば、真面目に遊んでいるユーザーが離れる。プログラムの改修にも費用がかかる。
「複数の利用者がいるオンラインゲームで、不正行為・迷惑行為(荒らし行為)をおこなえば、楽しいはずのゲーム体験が台無しになってしまい、真っ当にゲームをプレイしている多くの利用者に迷惑が掛かる事態となります」
運営会社は日々、不正行為に目を光らせ、対策に力を入れている。毎月合計約900アカウントを規約違反で停止しているといい、年間にすれば1万アカウント程度を停止していることになる。
「今回のように一線を越えた行為は刑事事件になるだけでなく、民事事件としても損害賠償責任を負うことになります。オンラインゲームでは相手の顔は見えませんが、実際に迷惑する利用者や損害を受ける運営会社が存在することを今回の事件を通じて知っていただき、正しいアプリの利用を心掛けていただければと思います」
男性も、裁判が進められてようやく「反省」の心境に至ることができたと話す。逆に言えば、大事になるまで、どのような事態を招くか想像できない人たちとも、会社は対峙しているのだ。
男性は「ゲームを楽しむのが8、チートは2です」と話す。チートもゲームも純粋に楽しんでいた。
実際に、高校に入ると、真夜中まで人狼に没頭したことで、朝起きられず、「高2の夏から行かなくなり、中退した」。高卒認定を取得して、大学に行こうと考えもしたが、そのための資金がなく、今はフリーターだ。
今回の結果を招いた原因につながる自分の特性について、「好奇心が強すぎる」「法的なことを考慮しない」「広い視点を持っていない」と分析しているようだ。
「反省はしているけど、後悔はしていない。チートして得られる経験はもうない。 チートしても良いことはない」
そう語る男性に、チートなどの違法行為を減らしていくためには、どのような啓発が効果的なのか聞いてみた。
「僕は人がどんな刑罰を受けても関係ない。チートをやる子はやる。チートという存在を知らせて、それが犯罪だと重く捉えさせる。経験したことでなければ共感ができない。(チート行為の実行と刑事手続きや民事での賠償請求などの)擬似体験ができればいいのではないかと思います」
男性も警察沙汰になって初めて、アプリの画面の向こう側には「いろんな人が動いている」と知ったと話す。一方で、100万円以上の解決金の支払いはすでに始まっている。
「分割払いです。親の手は借りないようにしたいです。支払いを終えるのは4年後とかになると思います。もしこのままやることないなら、ネットセキュリティ関係の仕事したい」
スマホとPCから人狼のアプリとチートツールは削除したという。