2024年08月12日 10:10 弁護士ドットコム
育児インフルエンサーたちが、子どもの日常を撮影した動画(ビデオログ)をSNSなどで公開して、広告費の報酬を得ていることに対し、米イリノイ州では7月1日から、ビデオログに登場する16歳未満の子どもの報酬を保護するための改正児童労働法を施行しました。
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CNNやNBCの報道によると、この改正児童労働法により、子どもたちは、ビデオログで保護者が得た報酬の一部を受け取る権利が与えられたとのことです。また、子どもたちが適切な報酬を受け取れなかった場合、保護者に対して法的措置もとれるといいます。
こうした法律はアメリカ初であり、かねてより育児インフルエンサーたちが、子どもたちのプライバシーを侵害し、報酬を搾取しているという批判が起こっていたといいます。
アメリカだけではありません。フランスでは2021年から子どもを動画に出演させて報酬を得るビジネスに対し、規制をかけています。動画に出演した子どもは、子役の子どもと同じようにその報酬は子どもの口座に振り込むことが義務付けられているとのことです。
日本でも有名人や育児インフルエンサーが自身の子どもたちを番組に出演させるケースもありますが、日本では子どもが動画に出演した場合の報酬は保護されているのでしょうか。太田純弁護士に聞きました。
——欧米では立法などにより、子どもの権利を保護しようという動きがあるようです。どのように評価しますか
諸外国での立法の目的は、インフルエンサーである親によって子どもの私生活が切り売りされた場合、子ども側のプライバシーや自己決定権の保護と、収益を親が収奪することに対する子どもの利益の保護にあると思われます。
——インフルエンサーの親たちの番組に出演する子どもたちは「労働者」に該当するのでしょうか
仮に「労働者」に該当するならば、労働者の安全に配慮すべき信義則上の義務違反や、労働基準法などが適用になります。また収益に関しては、賃金や報酬の「労働者への直接払いの原則」によって、子どもに直接支払われるべきと考えられます。
しかし、乳幼児はそもそも、法的に事理を弁識をして意思形成し行動しているとは解されない年齢です。また私生活上の一コマを切り売りされた場面では、労働しているという観念自体が及ばない、馴染まないとも言えます。
つまり、一般的な「労働者」該当性の枠組みだけで把握することには限界があると解されます。諸外国が立法による手当という形で保護を講じたのは、そうした事情があるからでしょう。
——労働には該当しなくても、将来的に子どもが保護者に対して報酬を返還するよう求めることは可能でしょうか
日本では特別な立法による手当がありませんし、労働関係法の適用対象ではないでしょう。
しかし、あくまでもケースバイケースですが、例えば、児童虐待と評価できるような事例など親の行為に法的な問題があれば、不法行為に基づく損害賠償請求することは考えられるでしょう。
ただし、それが認容される事例というのは、単純に私生活の切り売り動画だからというだけではなく、児童への身体的拘束や心理的侵襲の程度など、賠償請求を可能とするような別のファクターも考慮して、総合的に判断されることになると考えます。
【取材協力弁護士】
太田 純(おおた・じゅん)弁護士
訴訟事件多数(エンタメ、知的財産権、名誉毀損等)。その他、数々のアーティストの全国ツアーに同行し、法的支援や反社会的勢力の排除に関与している。
事務所名:太田純法律事務所
事務所URL:https://www.jota-law.jp/